目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第3話 おっさん、街へ向かう

 靴を用立てて貰える約束をした後は、トーマスさんの馬車で街迄送って貰えることになった。


 荷台には買い付けた商品と思しき無数の木箱が積まれ、それに腰掛けるおっさん二人。街までの道すがら俺がこの世界にやって来た顛末をザックリだが話した。(勿論女神様云々は面倒臭いので端折っといた)


「……作用で御座いましたか。ですが、にわかには信じられないお話ですな。もっとも、その"信じられない"を、体現しておられるヨシダ殿が目の前にいらっしゃるので、信じる他は無いのでしょうが。」


 意外とあっさり俺の与太話いせかいてんせいを受け入れたトーマスさんに、今度は、この世界の事を聞いてみると、まず判ったのが、剣と魔法のファンタジーな世界観だが、モンスターの恐怖に怯えるシビアな世界でも有ることが判明した。此れは女神様の言う所の、世界の平和とやらを守る使命が具体的になったと言う事でも有る。


 そんな物騒な世界なのに、護衛もつけずに買い付けをしているのかと尋ねると、ギルドから冒険者を雇い護衛に付けたが、敵の数が多すぎて、護衛の冒険者たちも守りながらでは捌き切れなかったらしい。そこで隙を見て離脱したものの、結局数匹に追われることになったとか。


 その話からギルドや冒険者が存在し、モンスターを狩る事を生業にしている者達が居る事が判ったので、街に着いたら冒険者ギルドへ案内してもらう様にお願いした。


 そもそも、着の身着のまま異世界に放り出された俺は、此処での生活基盤を如何にかしなければ、異世界ライフもへったくれも無い。知識チートでジッパー無双は頓挫し、香辛料などの換金率の高そうな持ち物も無い。その上女神様の使命いいつけまで守るとなると、まあ、ぶっちゃけ開き直るしかないw

 と言う事で冒険者ギルドとやらに登録して、STGスキル無双で手っ取り早く日銭を稼ぐ事に決めたのだ。(出来るとは言って無い)


「それにしても驚きましたな、あれだけの攻撃力の有る魔法を放たれたので、私はさぞや優秀な魔法使いのお方だと思いましたが」


「ところが、実際はギルド登録もしてない、たまたま居合わせただけの通行人ですからね(40歳ゆうしゅうな童貞まほうつかいで悪かったな!)」


「まあ、いずれにせよ命の恩人に変わりは御座いませんな。それはさて置き、ヨシダ殿は此処とは違う世界からやって来られたと言う事は判りました。それで……その……元の世界へ未練と言いますか、ご家族がいらっしゃったりは無いのですか?」


「え、あ、家族ですか? 両親共に亡くなっていますし、兄弟も居ないので、そう言う意味では未練は無いですね」


 オヤジは15年ぐらい前に脳梗塞で亡くなってるし、オカンもパンデミックで早々に感染し、死に目にも会えなかった。その後は、勤めていた会社も潰れてヒキニートへ一直線だった訳だ。まあ、敢えて未練というなら、生き甲斐のSTGが出来ないのと、残して来た数々のレトロハード達だろう。


「……そう……でしたか、苦労なされたんですね、それなら尚の事ほっとけません、私で良ければ力になります。なんならお義父さんと呼んでもらっても良いんですよ」


 目に涙を一杯溜めたトーマスさんは、うんうんうなづいている。目一杯頼りにはしますが、お義父さんてアンタ俺とそう変わらん歳だろ。この時はそう思い聞き流していたのだが……



********



 そんなこんなで、荷馬車に揺られながらの会話も尽きた頃、外が騒がしくなり始めた。俺は御者台から乗り出し外の様子を窺う。


 目の前には城門が迫り、巨大な釣り門が見える。城門の大きさに比して入り口は意外と小さく幅は3m弱程で、隣には同じ幅の出口が有り、それぞれに門番と出入りの管理をする者がツーマンセルで配され、後は順番待ちの人が列をなしている。


 馬車で向かう者、武器や鎧を装備する屈強な者、旅装束と思われる姿の者など、多種多様な人の波が続く。


 その列を横目に城門へと進む俺達を乗せた馬車。


「あの、並ばなくても良いんですか?」


「ああ、大丈夫ですよ、この街に住む者には市民証が交付され、出入りはこの札を見せれば良いだけですから、結構大きな街ですからね、そうじゃ無いと街への出入りだけで、1日終わってしまいますから」


 そう言いながらトーマスさんは首から下げた、ドッグタグの様な金属製の小さな板を見せる。


「あ……俺、市民証と言うか、身分を証明する物は何も無いんですが……」


「それもご心配なく。ヨシダ殿はグレイ商会の従業員として他所から連れて来た事にしますから。」


 俺の心配をよそにトーマスさんは門番達に軽く挨拶し、市民証を見せた後二、三言葉を交わすとすんなり入場出来た。

 門を抜けると、道幅9〜10mの石畳で舗装された道路が一直線に街を貫き、道の両側には石やレンガ造りの建物が並ぶ。


「ようこそ! 我が街『ソルバルド』へ」


 両の手を広げ少し誇らしげに、歓迎の言葉を発するトーマスさん。街の名前を聞いた俺は一瞬、ナメコ社の伝説的クリエイターが作ったSTG、『メビウス』の自機を連想して苦笑する。異世界転生してもオタクはオタクかw


「あの、如何なさいましたか?」


「ああ、この街の名前が、俺のスキルに関連したものによく似てて、思わず笑ってしまいました」


「はあ、よく分かりませんが、世界が違えど人が考える事など似た様なモノ、何でしょうな」


「ですね、見ず知らずの異世界へ飛ばされたけど、親切な人に拾われて、なんか聞き覚えのある名前の街で、どんな世界でも人は人なんだなって、少し気分が楽になりました」


 異世界ジャーニーでセンチメンタルになったのか、柄にも無く恥ずかしいセリフを口にしたので、それを誤魔化す様に話題を変える。


「トーマスさん、先ずは冒険者ギルドとやらへ行ってみたいのですが、場所を教えて貰えますか?」


「ギルドの場所ですか? そうですな、今馬車が走ってるのが街の東西を貫く道で、我々が入ったのが東門、このまま真っ直ぐ行くと西門に着きます。そして、この道に交差する様に南北に伸びるのが、それぞれ南門と北門に繋がります」


「成程、街の中心から東西南北のそれぞれの門に続く訳か」


「そうです。それから各通り毎に施設の種類が別れております。例えばこの東門に続く道は商会や商店の集まる商業通り。役所やギルドは南門へ続く通りに集まりギルド通り。西側は様々な工房の集まりで職人通り、最後に北側に教会や居住区が有ります」


「と言う事は、此処から中心部まで行き、左に折れれば南のギルド通りですか、距離的にはどれくらいでしょうか?」


「う〜ん、此処からだと少し距離が有るので、一旦私の商会で休憩してからにしませんか? 靴もお渡しする約束ですし休憩中に荷下ろしをさせますから、それから馬車で行きましょう」


 そういや、靴もらう約束してたんだった。砂利道歩かないで良くなってすっかり忘れてたw


「そうですね、トーマスさんがそう仰るならそうしましょう」


「ええ、そう致しましょう。私も冒険者ギルドへ今回の護衛の完了報告に行くつもりでしたし、丁度いいですから」


「あの、因みに護衛の冒険者の方は大丈夫だったのですか?」


「恐らくあの程度なら全滅する様な事は無いと思います。ただ若干想定外のアクシデントに見舞われたので、依頼料の値引き交渉はさせて貰いますが……フッフッフ」


 なんかトーマスさんが悪い顔してるw 温和な人だと思っていたが、やっぱ商人だけあって金が絡むと顔付きが変わる。


「ヨシダ殿、あれが我が商会です。中々の物でしょう」


 そうトーマスさんが言いながら指差す建物を見ると、周りの建物と比べても立派な石造の建物が見える。取り敢えず休憩がてらスキルと経験値スコアの確認でもしようか考えるのだった……




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?