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第4話 おっさん、グレイ商会へ行く

 グレイ商会に着くと石造で四階建ての立派な建物が聳える。トーマスさんに促され入り口まで行くと、グレイ商会を表す意匠が施された金属製の看板が掛かり、アーチ型の入り口には木製の扉が据えられ、金具や鋲の装飾が重厚さを感じさせる。


「さあさあヨシダ殿、中へどうぞ」


 トーマスさんに促され中に入ると、外装と打って変わってティンバーフレームに木目を生かしたステイン塗装と、白い漆喰の壁が織りなすコントラストが木の温もりを感じる作りだ。

 壁にはランプの様なものがかけられているが、何かを燃やしている感じはなく、均一な光を放っている。魔道具の様なものだろうか? 物珍しさに室内をキョロキョロ見回していると、トーマスさんに声をかけられる。


「如何ですかな、ヨシダ殿の目から見た我が商会は」


「そうですね、内装は割と馴染みの有る感じで、落ち着きますね。ただ、壁に掛けられているランプの様なものは、少し珍しいかもです」


「ほう、魔道具のランプはヨシダ殿の世界には存在しないのですかな」


 やはり魔道具の類だったか。オイルランプの様なものなら何かを燃やした匂いや光の揺らぎなどが有るが、このランプはLED照明の様な均一で一定の光を放ち続けるので、中世ナーロッパな世界観にそぐわないと思っていたが、剣と魔法のファンタジー世界ならではの代物だったのだ。


「魔道具のランプと言うのは無いですね。俺の世界では電気を利用して同じ様な事をしていますが、そうなると、こちらの世界では魔力を動力に使用していると言う事ですか?」


「流石ヨシダ殿ですな、一を知って十を解するとはこの事です。仰る通りで、魔物や鉱山より産出する魔晶石や、単に魔石などと呼ばれる石を動力源として動いております」


 やはりファンタジー世界の定番、魔石を利用していたか。魔道具の存在も確認できたし、俺のオタク知識も有効活用出来そうだな。などとジッパー無双頓挫を忘れて皮算用をしていると、トーマスさんが一階奥に有る応接室に通してくれた。


「ヨシダ殿は此方で休憩をなさってて下さい。私は荷下ろしなどをしますのでしばらく外しますが、何か有れば従業員にでも声を掛けてください。」


「はい、了解しました」


「では、ごゆっくり」


 トーマスさんはそう言うと部屋から出て行く。貴族の相手もするらしく、華美では無いが上等な調度品がそこかしこに見られ、ジャージスーツで一人残された俺は場違い感満載だが、突っ立ててもしょうが無いので革張りの少し硬めのソファに腰掛けると、ステータスを開きスキルのチェックを始める。


「ステータスと言っても"俺自身"のスペックは表示されてないんだよなぁ。あくまでも使えるスキルや、経験値スコアとパワーアップゲージの状態なんだよな」


⸻⸻⸻⸻⸻⸻


 名 前:ヨシダ ヨシキ

 職 業:シューティングマスター


 トータルスコア:500

 スキルポイント:500


 Pスキル:パワーアップカプセル識別


 Aスキル:スピードアップ、ミサイル、ダブル、レーザー、オプション、フォースフィールド


 スキルゲージ1:[SPEEDUP]*

 スキルゲージ2:[MISSILE]

 スキルゲージ3:[DOUBLE]

 スキルゲージ4:[LASER]

 スキルゲージ5:[OPTION]

 スキルゲージ6:[?]


 [スキルカスタマイズ]

 [スキルショップ]


⸻⸻⸻⸻⸻⸻


 改めてステータスウインドウを開き詳しく見てみる。トータルスコアは総取得経験値だろう、スキルポイントはトータルスコアから使用した残りのポイントを表すと思われる。


 次にスキルの種類が有り、取得するだけで効果を発揮するパッシブスキルと、パワーアップゲージを貯めて任意のタイミングで使用するアクティブスキルの二系統のスキルが有る。スキルカスタマイズはパッシブスキルのONOFFと、アクティブスキルをどのゲージにセットするかのカスタマイズに加えて、ゲージの追加やスキルの強化などもできる様だ。


 スキルショップはその名の通り、経験値スコアと引き換えにスキルを入手できる機能で、アーケードやコンシューマーゲーム機のメジャータイトルから国産PC時代のレトロSTG、果ては一画面固定のギャラクシー・インベーダーの兵装がスキルとして並び、俺ですら名前しか知らない様なモノまで網羅されている。あの女神様がチョイスしたなら、相当な年増オールドゲーマーで有る事は間違い無いだろう。


「女神様は置いといて、スキルの詳細を見てみるか」


 パッシブスキルのパワーアップカプセル識別は如何やら、パワーアップカプセルを持つ敵を識別出来るみたいで、街道で見たオオカミの腹の辺りが赤く光っていたのがそうだろう。


 アクティブスキルの方は、スピードアップは一回ゲージを使う毎に動作速度が1.2倍されるスキルで10回まで重ねて使用できるみたいだな。

 ミサイルは地形に沿って進むミサイルを発射可能になり、2連射まで可能だ。

 ダブルはノーマルショットが同時に2発発射される。ネメディウスとは仕様が違い、ゲージを使用する度に前後、左右、上下の3パターンに切り替わる。

 レーザーはノーマルショットが貫通力の有るレーザービームに変更される。使う前からとんでも無いことになりそうな予感がする。

 オプションは分身を作成するスキルで、3個まで増やすことが可能だ。

 最後の[?]はバリアが展開される。所謂フォースフィールドタイプで、前後左右に20m、上下の高さが10mの繭型のフィールドを展開、耐久力は7回まで攻撃を防ぐと有る。


 細かく確認してみたが、どのスキルの攻撃力もビックパイソン(F-15j並の戦闘機サイズ)のスケール感で再現されている様で、もはやこの世界では無敵の武装では無いのだろうか? 最も俺自身は元のままなので、敵の攻撃を喰らわなければの話だが。


「さてさて、最後はスキルショップで買い物ですよっと」


 ヒキニート歴が長いと、ついつい独り言を言ってしまうが、やはり買い物はテンション上がる!(リアルではコンビニでコーラとポテチしか買わんかったけどw)


 ショップを覗いてみてたが、結論から言うと、経験値スコアが全然足りない。ノーマルショットの威力有りすぎ問題に対処する為、カプリコンの『野戦のウルフ』やSMKの『怒髪蒼天』など人間ベースのSTGの武装を見たのだが、軒並み1000P以上する。結局今の経験値スコアで買えそうな物はパッシブスキルの視点変更等の攻撃力や防御力に変化の無いものが殆どだった。


 取り敢えずパッシブスキルで気になった物を挙げてみる。先ずは視点変更スキル。現在は自分の目で見た所謂FPS視点を、トップビューやサイドビューに変えるスキルが、

 サイドビュー 800P

 バードビュー 300P

 サテライトビュー 1500P

 サードビュー 600P

 クォータービュー 200P


 次に移動をジョイスティック操作と連動させるスキルが

 ジョイスティック連動4方向 100P

 ジョイスティック連動8方向 500P

 アナログスティック連動 1000P


 その他のスキルで気になったのが、RACS召喚で本物のコントローラーを召喚できるスキルや、ラピッドファイアやバーストショットなどの連射関連等々だ。


 この中からチョイスする訳だが、あからさまに安い移動系の4方向とクォータービューは罠スキルで除外、命が掛かってるのに操作性を悪化させるとかアホかと。利用価値は有るけど高額なアナログスティック連動は8方向が有れば無くても良いし、同じくサテライトビューは衛星軌道上から人間1人の操作など無理だ。サイドビューはアクションシューティングになって生身の俺じゃ詰みだし、サードビューもファーストビューが標準装備だから要らんし、キャラが見えても俺だからな、余計要らんわ!(美少女スキンが有ればワンチャン有りか?)


 取り敢えず現在のスキルポイントで交換できるのは、

バードビュー 300P

クォータービュー 200P

ジョイスティック連動4方向 100P

ジョイスティック連動8方向 500P

以上の4個で、バードビューとジョイスティック連動8方向の二つが有れば、今のFPS風STGが本物のSTGになり俺の本領も発揮出来そうだ。


 結局俺の理想はバードビュー+ジョイスティック連動8方向の二つに絞られるが、合計800Pで手が出ない。


「最適解は分かってるけど、経験値スコアが足りない。片方だけ取っても操作性が悪化するだけで意味ないんだよな。此処は貯めとくか?」


 スキルのビルドで頭を悩まし頭頂部が擦り切れる思いをしていると、荷下ろしを終えたトーマスさんが部屋にやって来た。


「ヨシダ殿、荷下ろしも終わったのでそろそろ冒険者ギルドへ向かいましょうか?」


「あ、はい。それではギルドまでお願いします」


 取り敢えずスキル確認とスキルの交換計画は立った。暫く人目につかない所で経験値スコア稼ぎをやって、スキルを増やしていくか。

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