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第6話 「黄金色の翡翠」

柘榴シィーリオはまだかしら?───何やら騒がしいようだけど」


此処は五つの後宮の内の一つ────

皇帝陛下に相応しいと階級が上と認められた妃だけが暮らせる場所とされている


麒麟キリン宮────


その一室で、翡翠色の上等な衣を身に纏い、黄金色の瞳を持つこの少女───名は「黄杏ファンシィ」。

白龍帝はくりゅうていの妃候補の一人であり、妃候補の中では一番の有力者。


「はい、申し訳ございません…。柘榴シィーリオ様からの伝言をお預かりしております…。「ごめん!黄杏ファンシィ!、ちょっとトラブルがあったから、今日の御茶会また今度にしてちょーだいっ♡」……との事でございます……」


侍女の一人がおどおどしながら伝えると

バンッ!!──────

黄杏ファンシィは鏡台を思い切り叩き、立ち上がった。


「……あのクソ女……ふざけてんのかしら?」


黄杏ファンシィ様!!…お召し物が乱れてしまいます…」


侍女が黄杏ファンシィの乱れた衣を整えようと手を伸ばした瞬間、その手は軽くはたかれたのだ。


「触らないで────」


「も……申し訳御座いません!」


黄杏ファンシィは身形を整えると、侍女達に気付かれないように、胸を抑えた。


(気付かれては……計画が全て台無しになってしまうわ……)


「…今すぐに柘榴シィーリオの所に出向くわよ」


「で、ですが……」


「貴女達がを気になさるのならば、わたくし一人で出向くので結構よ」


細めた目の隙間から見えた黄金の瞳は、その場に居た者を恐怖のどん底に一瞬で突き落とした。

逆らったら何を言われるか……何をされるか……───侍女達は慌てながら黄杏ファンシィの後ろに付き、後で女官長シィーリオの小言に耐え切れるか…それぞれ懸念するのだった。


「所で……、何故外が騒がしいのかしら」


「はい…、それが…あの伝説の食材と言われる「美豚ビトン」が脱走したと……」


「……なんですって」


「それに、その美豚ビトンは、龍仙女ロンシィェンニュの子孫との噂が……」


「今すぐ捕まえなさい───」


「ファ、黄杏ファンシィ様!?」


「それはいくらなんでも無茶では!?」


「そのを、此方へ連れて来なさい」


「し、しかし……姿特徴等が分からないとなれば……捜すのは不可では……」


ダダダ!ぼよん!ダダダ!ぼよん!ダダダ!ぼよん!ダダダ──────

動物の様な足音────それはまるで大きな豚が走る音だった。


「……みーつけた」


衣の裾から、白く透明感のある足を出し……


ガッ

「うわあ!!?」


ズザーーーーーーーーッ!!!!!!


足を引っ掛けて、転ばせたのだった。

豚─────ではなく、見知らぬ異界の娘を


「ファ、黄杏ファンシィ様!!?」


「な…なんてことを!!!」


「ふふ……、この時をどれだけ待ち侘びた事か……────この豚を部屋に運びなさい」


「で……ですが……」


「───わたくしの言う事が……聞けないと?」


「そうではなくて……」


「……────重くて、運べません」


「…………────全員で持ち上げるわよ」


侍女四人と上級の妃が、自分達より僅かに一回りふくよかな娘を引き摺るなど、どんな光景だろうか


思い切り転んで、完全に気絶した少女を持ち上げて、黄杏ファンシィは苛立ちを隠せない様子であった。


「はあっ……はぁっ……怒 あんた重すぎよ!!怒」


そう──────

これが、神美かみ黄杏ファンシィの出逢い


この出逢いが、神美かみ黄杏ファンシィの運命を大きく変えるきっかけとなるとは露知らず……

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