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第18話 「柘榴色の衣」

「……脱衣場見なかったの?さっさと出てって頂戴」


「…黄龍ファンロン……」


「この胸でしょ?───アンタらが捜してる犯人とやらは胸部を切り落としてるものね……」


「……男だったの?───」


ばしゃんっ!!!────

足を滑らせ巨大な風呂桶にダイブする黄龍ファンロン神美かみは慌てた様子で駆け寄った。


「だ、大丈夫!?」


「……ア、アンタって……────馬鹿!?」


「へ?」


「……青龍チーロンの話、聞いてなかったの?───」


「でも、あたしは黄龍ファンロンが犯人じゃないと思う。」


「何を根拠に……そう思えるのよ」


「だって……、小龍シャオロンを困らせたり…悲しませたりする事は出来ないでしょ?。それに……世界を護るロンなのに……おばあちゃんを裏切るなんて、正直者で正義感の強くて意地っ張りの黄龍ファンロンには出来ないと思う」


「何でかしら……心に刺さる言葉ばかりなのに…───すっっっっっっごいムカつくッッ!!!!」


黄龍ファンロンは"ぎゅいいいい"っと、神美かみの頬を思い切り抓る。

しかし抓られている筈なのに、何故か嬉しそうな神美かみ


「……変な子───」


龍仙女ロンシィェンニュ様も白龍パイロンもどうして……、この子を護ろうとしたのかしら


「はあ~~……でも、黄龍ファンロンが元気そうで安心したよ~。体調悪いって言ってたから心配したんだよ?。確か……あの宦官…翠麟スイリンが看病してたんだっけ?。あの人ちょー意地悪でムカつくけど……、黄龍ファンロンに似てて、憎めないんだよね~」


「……あったり前でしょ。翠麟スイリンはアタシなんだから」


「へぇ~そうなんだ……────って!!!今なんて!?」


すると、黄龍ファンロンは身体から光を放ち────


「……黄杏ファンシィは後宮の妃の姿……──翠麟スイリンは陛下に仕える宦官の姿さ」


黄金色の淡い光が夜風と共に消えていく

目の前には翡翠色の髪をした黄金色の瞳の少年……。思わず見蕩れてしまうくらいの美貌に神美かみは頬を紅潮させた。

そして視線は翡翠色の少年の下半身………


「ひいえええええええええっ!!?」


「煩いなぁ!!。何騒いでんだよ!」


「だだだだだだだだだだって!!」


「……嗚呼、こんな"棒"は飾りだよ。僕は僕だから」


「んな事言われたってッ!!!」


「……ふーん……君って本当に…男性経験無いんだ?」


ばしゃ……───ピチャ……

風呂桶から上がる音────

ひたひたと……、床を這う音が神美かみの耳許に木霊する。


「そんなに面白い反応されたら………苛めたくなるんだよねぇ」


「い、いやあああ!!サドがいるよーー!!?」


「…言ってたよね───美豚ビトンの呪いを解く方法の中に……異性と"交尾"をするって……」


「な……何言って……」


「───此処で、僕に抱かれろ」


頭を打たないように黄龍ファンロン神美かみを優しく押し倒す。

そのまま口付けをしようと顔を近付けると


「……誰を……庇ってるの?」


「………」


「貴方は……あたしを護ろうとして……──誰かを庇おうとしてる……?」


《───……陛下を、誰よりも愛していたから……》


「…庇いたいんじゃない……──


「止める……?」


神美かみが続きを聞き出そうとした瞬間───


「──何をしておる!!!そなた達はッ!!!!」


「…シャ、小龍シャオロン!?」


「へ、陛下…!?」


翠麟スイリン……貴様!!」


小龍シャオロンお、お、落ち着いてーーー!!!」


今にも斬り殺してしまいそうな白龍パイロンにしがみつく神美かみ

白龍パイロンに誤解され、今にも泣き出してしまいそうな黄龍ファンロン

その様子を、後ろで呆れながら見守る青龍チーロンであった。



なんとか白龍パイロンの誤解を解き、一先ず謁見の間に場所を移した。

翠麟スイリン黄龍ファンロンだったこと───

毒殺事件の犯人と関わりがあったこと……


「……全く……、お前という奴は……」


「も、申し訳ございません……陛下。」


「まあまあ、小龍シャオロン……そんな怒らないで」


「ッ…怒りたくもなる!!──あ……あの様な場所で……」


「ま、まさか陛下……──僕が神美かみに襲われると思って……」


「安心しろ、断じて違う。」


「……陛下、そんな所も……お慕い申しております」


「そんな事はどうでも良いですよ。早く本題に……」


「ちょっと、何がどうでも良いって言うのさ!!」


(……いつまで続くんだ……こりゃ)


「……でも、丁度良かった。みなには集まって欲しかったからな……。少しの情報だが、犯人の情報が分かった。……是非とも黄龍ファンロンの話も聞かせて欲しい。」


白龍パイロンが、神妙な面持ちの表情に切り替わるのと同時に、ピリッとした空気に変わるのが肌で感じ取れた。

他のロン達は 拱手きょうしゅをしながら跪く。それに合わせて神美かみは正座で座り込んだ。

一瞬の沈黙の後、黄龍ファンロンが口を開き───


「僕が…黄杏ファンシィとして後宮に入った時…、唯一…対等に喋れる妃が居ました。」


黄龍ファンロンが語る。

その妃は、白龍パイロンをとても愛していたと……。

妃が乳癌ルーアイに冒されてから、付きっきりで当時の後宮の医官を担当していた人と看病をしていた。


「胸部を切り取って、一命を取り留めた瞬間……───その妃の身体から僵尸きようしの気配がしました」


僵尸きようしって……キョンシーの事ね」


僵尸きようしを消そうとロンの力を使おうとしたけど……、妃の身体の中に消えてしまった……── "正妃諸共妃は全員殺す……──そして、美豚ビトンは必ず手に入れる……"……と台詞を吐いて……」


「…やはり……医官と言っていた事と同じ…──」


「陛下…あの医官に会ったのですか!?」


こくりと頷く白龍パイロン


「……そなたと同じ事を申していた。そして……その妃の──父親であると」


「……そう、だったんですね……。」


「まさか…実の父親と妃が…後宮で再会するとは…───運命の悪戯とやらでしょうか…」


「でも、そこから妃は体調も良くなって……───そして……乳癌ルーアイを流行らせた。でもそれは、妃が心から望んだ事じゃなかったんだ……」


「え…!?」


僵尸きようしが、妃の弱みに付け込んで利用した…っ」


病に冒された妃は、この身体ではもう望めない帝への求愛────

それでも……それでも────


"諦めたく……な、い"


身体を抑えてもがき苦しむ妃から悲痛な叫びと邪悪な魂を感じた……


『馬鹿ッ!!僵尸きようしに心を渡すなッ!!』


必死に問いかける友の声は届かず……

僵尸きようしに身体を喰い尽くされ……


『ウッ…!?あぁぁ……───ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!!───……フフフ……ワタシを消そうなんて考えない方が良いぞ……───その時はこの娘も……世界も破滅を迎える……ホッホッホッ……』


妃の慟哭が止んだ時───それはもう手遅れだった。身体は妃だが、魂は完全に喰われ……それは邪悪な存在。


『ッ……そんな事!!させる訳ないでしょ!!』


『…五龍ウーロンの一匹…、黄龍ファンロンか……。お前が娘を助けられるくらいの力があるとでも?。相当な精神力の持ち主でなければ、その力は扱えぬぞよ……ホッホッホッ!』


『ほざけ……!!』


『お前も流行病にかかって死ぬがよい』


その時、妃の手中から放たれた黒い靄に身体を飲まれて、僕の意識は途切れた。

幸いな事に一命は取り留めていて……、目が覚めた時は、もう胸部は切り落とされていて、流行病も終息を迎えようとしていた。その時、僕の傍で看病していた侍女が柘榴シィーリオだったんだ。


『あの子は……』


(そう言えば……あの子の名前……聞いてなかったわ────柘榴色の衣を身に纏い、無邪気に笑う、憎たらしくて……でも、憎めない奴……)


若榴ルォリィの事ですね……───あの妃は姿を晦ましました』


『……お前は……』


『私は、柘榴シィーリオ───この後宮の女官長にょかんちょうを務めています。と言っても、ついこの間、任官されたばかりですがっ』


『……アタシの胸は……』


胸に触れると、平らで……みっともない傷痕が残っていた。


『……──馬鹿な人ね……───どうして、若榴ルォリィを助けようとしたの?』


『……分からないわ。でも、ほっとけなかった……。アタシと同じ人を好きになったからかしら……』


『……白龍帝の事ね』


『それに……唯一…アタシと対等に接してくれたのは…あの子だけだったから』


『…………』


自分よりも少し歳が上の侍女は、大粒の涙を零していた。その泣き顔が、一瞬……本当に一瞬だったけど……若榴ルォリィと呼ばれたあの馬鹿な妃と重なった。でもそれはきっと、柘榴シィーリオが、柘榴色の衣を身に纏っていたからだと思う。



若榴ルォリィ……その娘が……」


柘榴シィーリオが言うには、姿を晦ましたと言っていましたが……、 若榴ルォリィは南の国、 火龍果ほりゅうか国で生まれたと……。」


「つまり……故郷へ身を潜めていると…申したいのか?」


「断言は出来ませんが……その可能性は高いと……」


火龍果ほりゅうか国と言えば…、赤龍ホンロンが守護をしているのでは?」


赤龍ホンロン?」


フッ────……

突然、行燈あんどうの灯火が消えた。


「ひい!!灯りが消えたーー!?」


「……賊か?───」


「しかし、外は騒がしくありませんね……、一体何が…」


「……そりゃあそうでしょ……───気配を消して、侵入出来るって言ったら───」


ミシ……ピシッ────

天井に亀裂が入る────

白龍パイロンはそれを見逃さなかった


「!ッ──神美かみ!!危ないッ!!」


ドオオオオンッッッ!!!!!


天井が破壊され、見上げると満天の星と───赤い龍が一匹


こちらに襲いかかる────


「きゃあああ!!」


グシャッ!!………

何かが潰れる音────


(ッ……あ、れ……痛くない?)


白檀香の香り────

がっしりとした逞しい腕から血が滲む


「ッ……う!」


「シャ、小龍シャオロン!!!!!」


「「陛下!!」」


「嘘……どうして、あたしを庇って……!?」


「……安心しろ、かすり傷だ……ッ。……──約束した筈だ──そなたを…護る……と」


小龍シャオロン……ッ」



"上辺だけのあんたに、護り切れるかねぇ…"


赤い龍は身体から赤い光を放ち、人間の姿へと変えた。ヤマモモのような赤い短髪──耳には輪っかの耳飾りが大量に身に付けられていた。


「そこの伝説の食材は、盗賊・ 赤楝蛇ヤマカガシの一味が戴くぜ?」


(まさかこの人……五龍ウーロン!?)

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