目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第5話

「ふあぁ……、おはよう」

「おはようって、今何時だと思ってるんですか」

「主様は本当に寝坊助ね」

朝、少し遅い時間に起きて挨拶をすると二人から早速暴言を吐かれた。

朝っぱらから、止めて欲しい。

寝起きでいつもよりさらに弱いメンタルが、二人の言動によってゴリゴリ削られていく。

「そんなことより、ハヤトさん。今日はなにをしますか?」

「朝から気合を入れて待ってるんだけど、一向に誰も来そうにないわよ」

これじゃ、いつになったら解放してもらえるか分からない。

と、ネールは不服そうに唇を尖らせる。

くそぉ、可愛い……。

あいかわらず美少女すぎるネールの姿に思わず見惚れていると、ニヤニヤした嫌らしい笑みを浮かべたリゼルが俺の耳元で囁く。

「おやおやぁ? 手を出さないって約束をしちゃったことを後悔してますか?」

「……そんなことより、その『主様』ってのはなんなんだ?」

確か昨日は、そんな呼ばれ方をしてなかった気がするんだが。

「それは、一応あなたが今の私の主人だから」

つまり、雇い主に対する義理か。

「そうみたいですね。そんなふうに媚を売っても、ポイントはまかりませんよ」

「分かってるわよ。私だって、別にあなたのことを認めた訳じゃないから」

「おやおや、これは寝首をかかれないように気を付けないとですねぇ」

「……奴隷は、主人に反抗できないのでは?」

「基本的には。でも、抜け道は探そうと思えばいくらでも探せますから」

それは、怖い……。

俺たち二人の不信感のこもった視線に、ネールは少しだけたじろきながら答えた。

「失礼ね。そんな卑怯なことはしないわ」

「口じゃ、なんとでも言えますからねぇ」

「なによっ!」

「別にぃ」

なんだかまたしても二人の口論が始まろうとした時、俺の腹がグゥーと音を立てた。

そう言えば、昨日の夜からなにも食べてなかったような……。

「ああ、夕飯は生ごみになってしまいましたしね」

お前のせいでな。

「細かいことは気にしない。それじゃ、朝採れの作物でも食べますか?」

「そんな物が、あるのか」

「そりゃあ、ありますよ。昨日畑を作ったじゃないですか」

確かに作ったが、収穫までが早くないか?

「今回育てたのは『早い、多い、まずい』がモットーのイモモドキですからね」

……まずいのか。

とりあえず一つ手に取って齧ってみると、なんとも言えない青臭さが口の中いっぱいに広がった。

これ、本当に食べられるのか?

「普通は茹でて食べるんで。生でなんか食べれた物じゃないですよ」

「そんなことも知らないなんて」

二人いっぺんに呆れられてしまった。

「仕方ないじゃないか。昨日この世界に来たばかりなんだから」

「来たばかり? もしかして主様は異世界人なの?」

「そうだけど……」

それがどうしたんだろうか?

不思議に思っていると、リゼルが溜め息交じりに説明をしてくれた。

「いいですか。この世界にはしばしば異世界人が転生してきます。そして彼らは、ハヤトさんとは違って特別な能力を持っているんですよ」

ふむ、なるほど。

若干気になる言い回しもあるが、とりあえず頷いておく。

「それでですね。彼らはみんな、その能力を使って様々な偉業を成し遂げているんです。国を立ち上げたり、たった一人で長きにわたる戦争を終わらせたり。本当にすごい人たちなんです」

「つまり、この世界で異世界人は選ばれた人間なのか」

「それどころか、一部では神の遣いとさえ呼ばれています」

まぁ、ハヤトさんには関係のない話ですけど。

最後に余計なひと言を加えて、リゼルの説明は終わったらしい。

「主様は、何か特殊な力は持っていないの?」

「あははっ、ハヤトさんがそんな力を持ってる訳ないでしょう」

……確かに持ってないけど、その言い方はどうかと思う。

というか、そもそもこのダンジョンを運営していることがある意味で特殊な力なんじゃないか?

「まぁ、そう言えなくもないですね。あくまでハヤトさんの力ではなく、ダンジョンマスターとしての権能ですけど」

「お前は、どうあっても俺を凡人にしたいんだな」

「凡人だなんて、そんなぁ……。それじゃあ凡人に失礼ですよ」

「俺に失礼だって気持ちはないのか……」

このまま会話を続けてもずっと貶され続ける未来しか見えない俺は、話を帰るように朝から気になっていた疑問を聞いてみることにした。

「ところで、ポイントが少し増えているんだが」

「ああ、夜中に入り込んだ動物をゴブリンが殺したみたいですよ。その肉もありますし、今日の朝ご飯は豪華にバーベキューと洒落込みましょうか」

「朝からバーベキューはきつい」

しかも、良く分からない動物の肉は厳しいのでは……。

「じゃあ、ハヤトさんはまずいイモでも食べててください。美味しいお肉は私たちだけで頂きますから」

「待て、食べないとは言ってない」

サッサと俺を見捨てて結論付けるリゼルに手を向けて、俺は必死になって進言した。

こんなまずいイモを一人で食べるくらいなら、なんのか分からない肉の方がマシだ。

そうして俺たちは、ゴブリンの焚いた火で丸焼きにした肉を仲良く三人で食した。

ちなみに、ぐちゃぐちゃになってはいたものの前の世界から換算しても久しぶりの肉はとても美味しかった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?