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第6話

その警報が鳴ったのは、ガッツリ食べた朝ご飯の影響で眠くなり、微睡みながら座っている時だった。

ビーッ! ビーッ!

人を不快にするような音は警報には最適だが、眠気覚ましには全く向かなかった。

大音量で鳴り響く警報にまだ眠い目をこすりながら、俺はゆっくりと背もたれから身体を起こす。

「いったい、なんだ?」

「侵入者ですよ。たぶん」

「ふふっ、やっと私の出番って訳ね」

思い思いの反応をする俺たちは、それぞれの視線を目の前のモニターに向ける。

ちなみにこれは、毎回スマホを覗き込むのが面倒と言うリゼルの厚意(?)で取りつけてもらった物だ。

壁一面を覆いつくすような巨大なモニターには、まるで監視カメラの映像を流すかのようにダンジョンの様々な場所が映し出されている。

もちろん、ポイントは一切かかっていない。

というのも、侵入者が来るたびに小さいスマホの画面を俺とリゼルの二人で一緒に覗き込んで確認するのが面倒なのだとか。

その面倒くささを解消するための方法が巨大モニターなのはちょっと力技すぎる気がするけど、とはいえ俺にはメリットしかないので喜んで受け入れよう。

たまには、リゼルを面倒がらせてみるものだな。

密かに、これからもちょくちょくやっていこうと思っている。

……閑話休題。

モニターの映像の中に侵入者の映った箇所を見つけると、どういう技術かは知らないけど自動でその映像がモニターいっぱいに広がった。

モニターに映っているのはダンジョンの入り口で、そこには四人組の冒険者と見られるパーティが居た。

男二人に、女が二人。

男たちは剣士らしく剣を腰に差し、女の一人は杖を持っている。

そしてもう一人の女の子は、重そうな荷物を持って彼らの後ろを歩いている。

その姿は、事情を知らない第三者である俺から見ても非常に痛々しかった。

「なんで、あの子だけ……?」

「おおかた、あの冒険者たちの奴隷でしょう」

「酷いことをする奴らね」

そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、リゼルやネールも不快感を露わにしながら表情を歪ませる。

どうやら、珍しく三人の意見が一致したらしい。

そうと決まれば、方針は一つしかないだろう。

「女の子を、助けてあげたいんだが」

俺がそう呟くと、二人は目を丸くして俺を見つめてくる。

「……なにか?」

「ううん、主様の口からそんな言葉が出るなんて思わなかったから」

人のことをなんだと思ってたんだ。

「人でなしのクソ外道ってところじゃないですか」

「べっ、別にそこまでは思ってないわっ!」

いや、ちょっと思ってたのか……。

ネールの否定になっていない否定に少しだけ傷ついたけど、今はそんな場合じゃない。

どちらにせよ、あの冒険者たちは撃退しなくちゃいけないんだ。

「撃退なんて生ぬるい。男は殺してポイントに、女は捕えてモンスターの苗床になってもらいましょう」

せいぜい、ダンジョンの役に立ってもらいましょう。

グヘヘ、と邪悪な笑顔を浮かべながらリゼルが呟いている。

俺よりもお前の方が外道だろう。

怖いので口には出さないが、どうやらネールも同じ気持ちなのだろう。

俺に向かってあからさまな同情の視線を向けていている。

「それじゃあ、私が出ればいいのかしら」

「いや、その必要はない」

ネールはあくまで最終手段だ。

万が一にも怪我をされたら困るし、急ごしらえとは言えダンジョンの出来も確認したい。

だから、まずは手を出さないようにして迎え入れよう。

「……まぁ、主様がそう言うなら良いけど」

不服そうにしながらも、ネールは素直に座り直した。

「あっ、そう言ってる間にも奴ら入ってきますよ」

一人モニターを監視していたリゼルに言われて確認すると、確かに冒険者たちはダンジョンの中へと進み始めていた。

その後ろを、荷物持ちの女の子がよたよたとついて行っている。

途中で何度もこけそうになっては、もう一人の女に怒鳴られているようだった。

「……主様、なんだか我慢の限界なんだけど」

俺たちの中で一番正義感の強いらしいネールは、もう耐えられそうにない。

よく見ると、リゼルもなんだか機嫌が悪くなっている。

そろそろ頃合いか。

「まずは、冒険者と女の子を切り離す」

最初の仕掛け、本来は敵を分断する為のトラップを発動する。

その瞬間、前を行く冒険者とついて行く女の子が壁で隔たれてしまった。

「なっ! なんだ!?」

「ちょっと、どうなってるのよ!」

冒険者たちは、突然現れて退路を塞ぐ壁に驚き慌ててしまっている。

そもそもは退路を塞ぐためのトラップだったのだが、こういう使い方もできるなら覚えておいて損はないだろう。

荷物持ちの女の子も、なにが起こったのか分かっていない様子だ。

「リゼル」

「分かってますよ。あの子を連れてくればいいんでしょう」

名前を呼ぶと、阿吽の呼吸でリゼルが答えてくれる。

そのまま、ぴゅーっと部屋から飛んで行ってしまった。

これで、あの子は大丈夫だろう。

普段はふざけているけど、やる時はちゃんとやるからな。

「で、これからどうするの?」

「とりあえず、ゴブリンでもけしかけよう」

スマホで指示を出すと、ダンジョンを縦横無尽に走り回っていたゴブリン達が一斉に冒険者の元へ集まっていった。

ついでに、ゴブリンの強さも確認するとしようか。


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