目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話 屋敷の魔力


 翠蓮は穴に落ちてすぐ、不破が見つけていたあの朽ちた屋敷の中に飛ばされていた。ドサッと勢いよく空中にあいた穴から床に落下した翠蓮は強く打ち付けた背中を擦りながら体を起こしていた。


「いったぁ〜」


 一体何が起きたのかと辺りをきょろきょろと見渡すがこれと言って不審な何かを感じることはなく、ただその屋敷の薄気味悪さに身震いしていた。


「やだなぁ、お化け屋敷みたい」


「ぶわぁあああああ!!!!」


「きゃああああああ!!!」


 お化け屋敷みたいだと言った瞬間、背後から突然聞こえたその声に悲鳴を上げて飛び退く翠蓮の前に、でんでん丸が弾けるように笑いながら近付いてくる。


「でっ!!でたぁあああああああ!!!」


 翠蓮はパニックでそれがでんでん丸の声だったとは気付かずにその場を飛び出し屋敷の中を全力疾走し始める。


 大のお化け嫌いである翠蓮に残されていた理性はでんでん丸のイタズラが原因でどこかへと飛んでいってしまったようだ。もう随分人が住んでいなかったのであろうその屋敷は元は魔道士が住んでいたのか、壊れた魔法具などが置かれたままだった。

翠蓮はお化けだと勘違いしたでんでん丸から逃げるためにある部屋に飛び込んだ。そして、そこにあった埃被った魔法具の山にぶつかり転んだ翠蓮に、もう一度でんでん丸が声を掛ける。


「おい!!悪かったって!!!」


「ギャーーーー!!!………って、でんでん丸??」


「そうだよ!!ちょっと驚かせようとしただけなんだよ、悪かったな!」


「な、なんだでんでん丸かぁ〜、、、!次やったら羽もぎますからね!」


「い、いきなり怖いこと言うなよ………。なんならさっき食われてもぎ取られるところだったな」


 そんな話をしていた時、翠蓮が何かに気付く。


「あれ……?これ、魔法具じゃない?壊れてるけど」


 自分が転んでいたところに大量に置かれていた魔法具を見て、翠蓮は屋敷内で感じた不気味さはこの魔法具からしていたのかと考えるが、既に壊れている魔法具にそんな力は無いと、でんでん丸がそれを否定する。しかし、この屋敷で感じる不気味さには何かあると唸りながら考えていた時、屋敷の二階から床の軋む音がした。

 大きな何かが移動しているようだ。翠蓮は鞘に手を伸ばして、あることに気が付いた。


「あれ、」


「なんだ、どうした?俺様もうなにもしてないぞ!」


「刀が無い」


 鞘に差していた刀が忽然と消えていたのだ。一体いつからなかった?ぐるぐると考えていたとき、どこからともなく笑い声が響く。


「交換。交換。交換。あはは、あはは!」


 そこででんでん丸が気付く。


「翠蓮お前、あの魔物はお前の刀と交換したんじゃないのか!?」

「えっ!?」


 でんでん丸は記憶を辿り、その答えを見つけた。翠蓮が風船との交換を持ちかけたあの場の記憶。翠蓮はあの場で、魔物とは知らずに男の子に"これ"と交換してくれないかと風船を差し出し、それに対して男の子に化けた魔物は『それ』と交換すると言ったのだ。

 魔物が言った『それ』が意味したのが『風船』ではなく翠蓮の『刀』だったのであれば不破の言った通り風船が消えないことの辻褄が合う。


 そのことを告げられ、翠蓮は表情を強ばらせた。その間も何かの大きな足音で床が軋む音がして、天井からパラパラと砂が落ちてくる。


「とりあえず刀を取り戻さなきゃ。でもさっきの声……あの魔物はもう死んでるはずなのになんで……」


 その翠蓮の言葉にでんでん丸が答える。


「この屋敷の魔法具の多さが関係してるんじゃねぇか?壊れてるとは言え、これだけ大量にあれば魔法具から放出された魔力もかなり多いはずだぜ」


「なるほど、確かにそうだね。この不気味な感じも、その魔力のものだろうね。この屋敷を浮遊する魔力がさっきの不破さんの上に現れた魔物も作り出したのかな」


 そんな時、階段を降りる音がし始めて、翠蓮達は警戒する。


「とりあえず、この屋敷内のどこかにあるはずだから刀を探さなきゃ。」


 そうして翠蓮はでんでん丸と共にこっそりと屋敷内を移動する。屋敷内に浮遊する魔力は大きい。その魔力が古く不安定なため感じ取りにくかったが、段々体が慣れてきたことで翠蓮にもその魔力が感じ取れるようになっていた。


 そこでわかったのだが、この屋敷はその魔力により外から見た屋敷の大きさより中は広く空間を拡張されており、天井までかなりの高さがあった。

 そして壁伝いにゆっくり進んでいき、角のところからこっそり顔を出した翠蓮はその巨体を視界に映した。


「……………わ、わぁ………」


 五メートル程はあるであろうその巨体。歩く度に迫力のある音がしているが、魔力で補強されているのか屋敷内が崩れることは無く、その巨体の魔物は自由に屋敷内を歩き回っていた。


 翠蓮を探しているのか、ぎょろぎょろと頭部全体についた目玉で辺りを見渡している。巨体の周辺は隙が無いだろうと、翠蓮は反対の通路を通ってどうにか刀を探し始める。

 だがそんな時、翠蓮は床が他とは違う音を立てたことに気が付いて、足元に目を落とした。


「……これ、」


 床はどこも埃被っているが、そこだけ埃を被っていなかった。その不自然な四角い埃の無い床。翠蓮がそこに手を触れて魔力を当てると、その四角い部分が開き、地下への通路が現れる。


「でんでん丸、これって……!」

「あぁ、もしかしたら行方不明の人がいるかもしれねぇ!」


 翠蓮はすぐにその地下への階段を降りていく。地下に降りたが、真っ暗で何も見えない。明かりが無いためでんでん丸が魔力で灯りを灯せば、そこには牢屋の中で震える子供たちがいた。


「きみたち、怪我は……!?どこか痛いところはない?なにもされてない?」


 そう言って子供たちの様子を見る翠蓮。だが、子供たちは震えるだけで、なにも言わない。ゲッソリとした顔つきで、ただぼーっと死を待つだけのような姿で、牢屋の中で身を寄せ合って座っていた。


 牢屋の中にはところどころ血が付着しており、子供たちが吐血したのだろうか服にも血がついていた。近くにきてようやく感じ取ることができた程、子供たちの魔力はほとんど枯渇しており、早急な対応が必要とされていた。

 魔力は生命力に等しく、魔力の枯渇は致命的だった。はやく助け出さなければ、と思う一方であの魔物からどうやって子供たち全員を連れ出そうかと翠蓮は思い悩む。

 あの魔物の魔力が屋敷内とこの周辺を支配している状況ででんでん丸に子供たちを転移させてもらってもかえって危険なだけだ。そんなことを考えているうちに、巨体の魔物の大きな足音が近付いてくる。

 迷っている暇は無い。


「みんな、わたしが絶対守ってあげるからね。もう大丈夫だからね。だから、ここであと少し待ってて」


「えっ、翠蓮!?!?」


「でんでん丸はここで子供たちを守ってて!」


 翠蓮はそのまま地下の階段を駆け上がると、地下に誰も入らないようにする為だけでなく、この屋敷自体に付加された魔力がこれ以上肥大しない為に屋敷全体に魔力を解放する。瞳を閉じ集中して魔力を流し、息をついて瞳を開けば屋敷全体が白く染まり、氷漬けになっていた。

 翠蓮を見つけた魔物が発狂しながら襲いかかってくる。翠蓮は勢いよく駆け出し、自分の魔力の残穢を辿り刀の位置を把握する。魔物が巨体らしからぬ怒濤の速度で狂ったように追いかけてくるが、翠蓮は軽い身のこなしで壁を蹴りその勢いを利用して魔物の足元に滑り込んでそのまま二階への階段へと向かって走り出す。

 すばしっこい動きで走り回る翠蓮に魔物は激怒したのか、屋敷が揺れるほどの叫び声をあげた。

 そんな時、バキッと何かの魔法が割れる音がしたかと思えば、屋敷内を補強していた魔法の一部が魔物の怒りの衝撃波で破壊され、翠蓮のいた少し先の天井が崩れ落ちていた。そして、落ちてきたそれを見逃さなかった。翠蓮は飛び上がって刀を掴むと、すぐに刀を抜いて魔物へと向き直る。

 崩れ落ちる瓦礫の山を蹴り、魔物へと一直線に飛び込んだ翠蓮の刀は凄まじい速度で突き出され、魔物の首を貫いた。


氷迅一閃ひょうじんいっせん


 その魔物は大きな音を立てながらその場に崩れ落ちて消滅していった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?