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8 Lineメッセージ

FROM: 田所あかり

TO: 塚森レイジ

件名: 引っ越しのご挨拶


塚森先生へ。

田所桃の母親、田所あかりでございます。


先日の保護者面談では大変お世話になりました。

……実を言いますと、私は著しく健康とメンタルを害しておりまして当日、塚森先生にどんな受け応えをしたのかほとんど記憶にありません。

恐らく失礼な態度を取ってしまったのではないかと思います。せっかくお時間を取って頂いたのに申し訳ないです。


また、桃の作文の内容につきましてですが、先生の仰る通り、全く異常としか言いようがないです。

今となっては身が震える思いですが、なぜかあの時の私は全くとるに足りないことだと、いえ、それどころか喜ばしいことだとすら思いこんでおりました。

今でも桃の言う「団地のおうさま」とやらは子ども達の想像力が産み出した架空の存在(イマジナリィーフレンドというのでしょうか?)であるとは思うのですが、いつの間にか私もその影響を受けたらしく、すっかり「おうさま」の存在を信じ込み、当たり前のように受け入れていました。

こうしてお手紙を書かせて頂いている今でも自分の身に起きたこととは到底思えないのですが……。


そして先日、先生もご存知のように毒ガス騒ぎが起きたのですが、避難所で桃の寝顔をみているうちに私はようやく正気に戻った、というわけでございます。

大変お恥ずかしい話だと思います。


つきまして私達親子は急ではありますが、この■■団地を引っ越すことに決めました。

桃はしばらくの間休養させ、他の小学校に転校させることになるかと思います。


……大人の都合でこんな人外魔境に連れ込んでしまい、辛く心細い想いを娘にさせてしまったのは私の母親としての至らなさだと痛感しております。

せめて引っ越し先では桃が心穏やかに過ごせるよう母親としての務めにまい進してゆきたい所存です。


先生にもこの度は大変なご心配をかけてしまったことを重ねてお詫び申し上げます

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