※場所は■県夢ノ宮市某所、ファミリーレストラン。
※朱雀機関・捜査員塚森レイジは外注として、甥にあたる塚森コウ(21歳)に同市で発生した怪異の現地調査を依頼。
※本ファイルはそれを録音記録したもの。
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(録音開始)
……えっ、何?
おじさん、これ録音するの?
へぇー。
……活動は自由だし、随時支援も行ってくれるけどデータは提出しなきゃいけないんだ?
宮仕えって言うかどうかは知らないけど、大きな組織ってのは変な制約を構成員に課すんだね。
……おっと、クライアントの悪口はまずいか。
あっ、おねーさん。
この、チョコサンデーってやつ、追加で注文ねー。
それで何だっけ?
……ああ、そうそう。
中学生三人組がキッチンカー? みたいな見た目の怪異と遭遇した案件だよね。
うん、調べて来たよ。
男の子達が立ち寄ったっていう公園に結構エグ目な残り香がこびりついていたからね。
この仕事をレイジおじさんにお願いされてから二週間ぐらいの間、その残り香を辿って歩き回ってやっと大元を発見できたってわけ。……悪臭の根源ってやつをね。
あ、でもその前に言わせてもらうけど――、おじさん、この案件からは手を引いた方がいいよ。
いや、僕もレイジおじさんが化け物級に強い人だっていうのは分かった上で言っているんだよ?
僕ら塚森家、外法使いの首領にして御当主様だもん。並大抵の怪異ならおじさんが軽く捻ってやるだけで鎮められるだろうし、他人様に呪詛をばらまいて迷惑をかける邪術士どもだっておじさんには束になったって敵いやしないからねぇ……。もちろん、僕も含めてだけど。
……でもね。あれはそう言うのとはレベルが違う。
もはや、あれは怪異とも言えないシロモノだよ。あいつと――童ノ宮の稚児天狗と同格か、以上の化け物だ。
あっ、ごめん。少なくとも、神職であるおじさんの前で化け物呼ばわりはなかったね。
……まあ、それはともかく。
残り香の大元は童ノ宮市と夢ノ宮市の間の山中――、古い洞窟だった。
……洞窟の中?
もちろん、入らなかったよ。何しろ、その洞窟の入り口を目にしただけで身体の具合が急激に悪化したからね。
……まあ有り体に言えば、死にかけたよ。
あそこにいたのは一人や二人のモウジャじゃない。少なくとも五百人ぐらいはいたんじゃないかな。
そいつらが僕の接近に気がついて一斉に騒ぎ立てたんだからたまらない。頭痛はするわ、吐き気は催すわ、全身が強張って熱が出てくるわでさ。
慌てて持ち歩いていた神饌を一口噛んで、急いでそこを離れたってわけ。
で、ここからは僕の考察だけど、あの洞窟は古い墓穴だったんじゃないかな?
……古墳? まあ、古墳と言えば古墳なのかもしれないけれど。歴史の教科書に出てくる、ナントカ天皇のお墓みたいにちゃんとした感じでもなかったな。
言ってしまえばもっと雑な感じで――、モウジャ達は十人ずつぐらいまとめて縄で縛りあげられていて、おまけに手足の骨を折られているよ。
……屈葬、て言うの? 悪霊を鎮めようとして、かえって怒らせてるんだから昔の人のやることって間抜けだよね。あははは。
多分、あそこは黄泉の国と繋がっちゃっていて、こっちに穢れたエネルギーが垂れ流されている状態だと思うよ。
ま、この洞窟に関して言えば、現状どうしようもないから朱雀機関のお偉いさんに頼んで付近に立ち入り禁止の看板を立てたり、フェンスを張って封印したり、警備員を配置したりして、とにかく人が近づかないようにするしかないんじゃない?
少なくとも黄泉の国のエネルギーが尽きるまではね。それが来月になるか、百年後になるかは神のみぞ知る、だけど。
こっちはそれでひとまず置いておくとして――。
中学生達が遭遇した無人のキッチンカーって言うのは、地上に流れ込んだ黄泉の国のエネルギーが変質して、生成されたものなんじゃないかな。朱雀機関じゃ霊的実体って呼ぶんだっけ? 早い話が妖怪変化だよね。
とにかく、そんな黄泉の国の穢れたエネルギーが出現させた食べ物を口にするとか、あり得ない話だよ。
即死してモウジャの仲間入りをしていたかもしれないし、どんな障りに見舞われるか分かったもんじゃない。
その、食べ物を食べちゃったっていう子には気の毒だけど……。
その子の命はあきらめるしかないかもね。
祓除の儀? できるだけのことはしてあげたいって?
……あのね、レイジおじさん。
僕、言ったでしょ? この件は手を引いた方がいいって。
世の中にはもう手遅れ、どうにもなりませんってことだってあるんだよ?
万が一、レイジおじさんにまで黄泉の国の力が牙を向いたらどうするのさ?
……え?
……件の男子中学生ってキミカの友達なの?
あいつ、相変わらずろくなことに首を突っ込まないんだよなぁ……。
何でこう、自分からいばらの道を選んで進みたがるんだか……。
ま、いいや。
とにかく、僕はこれで撤収させてもらうよ。
今回のバイト代もいつもの口座に振り込んどいてね。
……ん? 僕?
大丈夫だよ、これぐらいのダメージ。
いつものことだし、すぐ回復するって。
それに死んだら死んだで――、別に構わないしね。
じゃあね、レイジおじさん。
昼ご飯をごちそう様。
元気でまた……。
(レイジの深いため息。録音終了)