そう問うと、魅夜はまた首を横に振った。
「確かに、一理ある。でもね……その苦しさに耐えかねて、また人に害を及ぼす者が後を絶たない」
「それは……困ります!」
「だろう? しかもこの姿に戻っているということは――つまり、また“妖怪として”害を及ぼそうとしている証拠でもある」
その言葉に、のっぺらぼうの男ははっとして項垂れた。
佐奈子も、彼の姿を初めて見た時の恐怖を思い出す。
「それを未然に防ぐためにも、今の仕事はきちんと辞めさせる。別の仕事に就かせる。そして、寿命が尽きるまで――絶え間なく働かせる」
魅夜はそう言いながら、遠くを見つめた。
「もちろん、同じ仕事を続けてる者もいるけどね……」
(――じゃあ、普通に働いてるのと、変わらないじゃん。私の親もずっと働いて、定年後にようやく自由になったのに……この人たちは、定年が……)
「定年は、ありません」
魅夜がぴしゃりと断言する。
「寿命が尽きるまで、働き続けてもらいます。それが――彼らの“懲罰”です」
一つ目は、静かに肩を落とした。
「だいたい、辞める時点でトラブルが多い。だから、我々が退職の手続きを代行する。次の就労先の手配もね」
「……まさか、就職支援も私たちが?」
「そこは――隣の係です」
魅夜が指さす方を見ると、異様な混雑のロビーが目に入った。
「閻魔様の裁きを終えた連中と、再就職希望の妖怪たちがごった返してるからな……」
他人事のように言う魅夜。
佐奈子は思わず呟いた。
「……あそこ、受付もその妖怪にやらせればいいのに……一応就労ですよね?」
その瞬間。魅夜、受付の女性、のっぺらぼうが同時に、
「ああー……」
と、深いため息を漏らした。
「そうはいかなかったんだ……いろいろとな」
魅夜は小さく咳払いをし、手元の書類に目を戻す。
「さて、手続きしますよ」
「……はい……」