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その八 強みを活かしてやりたいことを

「おはよう」

「おはようございます!」


 全てを語った翌日、私達は晴れやかな気分で目が覚めた。

 顔を洗うため部屋を出るとちょうど正面の部屋からセクスタが出てくるところだった。

 ……私以外は不幸な一生を辿った三人だったがクインティの誤解も解け、そのルートを回避することでハッピーエンドを目指すことが可能となったのだから。


「いやあ、昨日は楽しかったですねえ。クインティさんと私と結婚するために頑張りましょう!」

「覚えていたのか……」

「クインティさんはいいって言っていましたから実現します!」


 通路で顔を合わせたセクスタがニコニコしながらそう語る。酔っていたから冗談かと思っていたけど本気らしい。

 元々、クインティが居るから身を引いたけど私のことは好ましく思っていたそうだ。

 そこで一周目の償いを兼ねて一緒になろうとクインティが言い出した。


「他にいい男が居たらそっちでもいいからな」

「大丈夫ですよ! あ、ゼーロさんも彼女を見つけないとですね」


 ちなみにゼーロもいい人だとセクスタは言う。しかし、結婚するとなると恐らく合わないだろうと言っていた。

 ゼーロもその点は違いないと笑っていた。割と馬が合うと思うのだが、お互い恋愛感情は無いそうだ。

 しかし一夫多妻を実現するには貴族かそれに近い階級が必要になる。まあ、しれっと家に居ても構わないがそれだとセクスタに悪い。

 とはいえまだ先の話なのでひとまずその話を置いて直近のことを考えることにした。

 今日は休みを取っていたためこれからのことを話す予定とした。


「おー、来たか」

「相変わらず早いなあゼーロ」

「そりゃあもう! 特に昨日のテンションが下がってねえからな!」

「ふふ、気持ちはわかりますよ」


 食堂に着くとゼーロがすでに席を確保しており、私たちを見て軽く手を振っていた。

 休みの日はトレーニングで早起きするため不思議でもないが、今日は特にテンションが高い。


「おふぁよー……」

「お、これで揃ったか。こっちだ」


 席に着くとすぐにクインティもやってきた。昨日の剣幕はどこへやら、苦笑しながら寝起きの彼女を呼ぶ。


「おはようクインティ」

「あ、おはようジング! ゼーロにセクスタも!」

「おはようさん!」

「おはようございます!」


 それぞれ挨拶を交わしてクインティが席に着くのを待つ。このアットホームな雰囲気、懐かしいな。

 私はほほ笑みながらそう思う。前の未来の生活も悪くなかったが、やはりこの四人で幸せになる道は進みたい。


「いつものモーニングでいいわね! パッと食べて話し合いよ!」

「カリーライスがいいな、オレ」

「朝から!?」

「はは、ゼーロらしいな」


 このやり取りも懐かしいなと思いながら私は水を飲む。ひとまず朝食は軽くでいいかとトーストにサラダ、目玉焼きにミルクを注文。

 クインティも同じもので、セクスタはパンケーキと紅茶、ゼーロは宣言通りカリーライスとなった。

 カリーとは色々なスパイスと野菜を煮込んだ料理で、料理人の腕で辛さが変わる、最近メジャーになってきた料理である。

 ゼーロはこれが好物で、特に辛いと良いらしい。


「朝こいつを食うと元気が出るんだよなあ。ここのはちっと辛さが足りないけど」

「寝る前よりはいいけど、味が濃いわよねそれ……」


 ガツガツとカリーを食べるゼーロを見てクインティが眉をひそめてサラダを食べる。


「んー、気分がいいと食事も美味しいですね♪」

「そうね! それじゃちゃっちゃと食べちゃいましょう♪」


 私達はそのまま朝食を食べ終えると、続いて私の部屋へと集まった。


「さて! これからの行動についてどうするか話し合いよ!」

「声が大きいよクインティ」

「そうですよ。どこで誰が聞いているかわからないんですから気をつけましょう」

「う、わ、悪かったわよ……」

「まずはそこからだな」


 未来のことを知っているということで私達を利用するという人間も居るかもしれない。

 そうならないよう、この秘密を共有すれど、この四人以外の誰かに話すことはタブーとした。


「実際、信じてもらえるかは分からないけど慎重になるに越したことは無い」

「ですね。しかし、ここで話す機会が出来てすり合わせが終わったら話題に出すことは無さそうですけどね」

「だな。同じ道を辿る場合なら変わるだろうけど、そのつもりはないんだろ?」

「ええ。少なくともドルザの領地にはぜーったい行かないから!」

「あはは……相当だったんですね……私たちも二度と同じ目に遭いたくはありませんけど……」

「オレはお前たちが居れば人生が狂わないからなんでもいいぜ! 可愛い子と付き合えたらいいかなあ」

「俺もみんなが居ればそれだけで十分だ。でも、一つだけわがままを言っていいか?」


 ひとまず、前の道を辿らないということで合意した。特にクインティが離れてからが酷かったのでドルザの領地へ行かないのは確実だ。

 ただ、それはそれとして私はゲイリーさんとはまた会いたい。それを三人へ伝える。


「あ、商人の師匠って人ね! いいじゃない」

「賛成です! どこで出会ったんですか?」

「確か初めて出会ったのは……イーリアン国だったか」

「遠いなおい!?」

「ここからだと馬車で半年くらいかかるんじゃない……?」


 ゼーロとクインティが目を見開いて驚いていた。確かにそういわれれば遠いな……当時はフラフラとあちこちを移動していたのでそこまで気にならなかっただけか。


「でも目的があるのはいいことじゃないですか! せっかくですし、皆さんのやりたいことを決めませんか?」


 そこでセクスタが両手を合わせて微笑んだ。クインティとゼーロはその言葉にうなずくと、さらに続ける。


「……私はあの孤児院の院長、シークニーを許しておくわけにはいかないと考えています。皆さんが良ければ真相を暴く手助けをしていただきたいです」

「あー、人売りだものね。セクスタは神官だし、そういうの許せないのはわかるわ。私はその話に乗った」

「オレもいいぜ。前の人生でセクスタをひどい目に遭わせた野郎をぶっ潰してやりてえ」

「だな。俺がゲイリーさんに会うのはかなり先だ。その間にできることをしよう。金は商人の時に得た知識を使う」

「お、頼もしいな」

「任せてくれ。それに合わせて力もつけよう。ここでBランクになった後、しばらく呑気に過ごしていたのを思い出した」

「力をつければ変化に対応しやすいですし、分かりました!」

「確かにいいかもしれねえ。解散する直前はAランク……Aプラスになってたっけ?」

「マジで!? 凄っ!?」


 確かにゼーロの言う通り、冒険者としては結構上のランクになっていた。三人で戦っていくためには実力が必要だったからだ。

 どうしても魔法使いが必要な時は頼んでいたけど、基本的に三人だった。ケガはセクスタが居ればどうにでもなったしな。

 あとは今後、やりたいことを話し合っていく。

 まずはこの後に訪れる大規模な魔物討伐を受けることが決まっているため、それまでに訓練を欠かさないようにすることにした。


「前回はスタミナ切れで撤退が早かったものね。魔力の底上げ、しておくわね」

「ちょっとこの後、ランニングをしてくるかねえ」

「ギルドへ行って魔法の種類が増やせないか確認してきます」

「なら俺は商店かな」


 そんな調子で今後の指針を決めて一日が終わる。

 前回は大規模討伐が終わった後は町を出たのだけど、今回はどうするかな?


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