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その七 当時はどうにもならなかったこと

「クインティさん、あの貴族との結婚は本意ではなかったということですか?」

「ええ」


 セクスタとゼーロの未来を聞いた後、続けてクインティの話になった。セクスタが話の筋を切り出す。

 するとクインティは凛とした態度で結婚は本意では無かったとハッキリ言った。

 この姿は確かに私と付き合っていたころのクインティだと思った。

 逆を言えば私に相談なしにあの結婚を決めたのもおかしな点と言えばそうだ。


「一体、なんだってんだ?」

「ゼーロ、聞いてみよう。俺は本当のことを知りたい」

「そうね……今さらだとは思うけど、聞いて欲しい」


 クインティが私達の目を一人ずつ見た後、深呼吸して話しを続ける。


「元々、あの貴族……ドルザと出会った経緯は街道でたまたま魔物に襲われているところを助けた。これは覚えている?」

「ああ」


 私達はクインティが言う経緯は覚えているのでもちろん頷く。馬車で街道を走っている時に魔物に襲われていたドルザ伯爵を助けたことで知り合うことになった。

 その後、次に行く町で領主をやっているという話を聞き、助けたお礼をしたいと屋敷に招待された。

 それからその町でしばらく生活することになり、ギルドで依頼をこなしていた。


「……で、三ヶ月くらい経ったころ、私はドルザに告白されたわ。ちょうど誕生パーティーの時に」

「あの時に? そういえばテラスに呼び出されていたが……」

「そう、まさにその時よ。もちろん私はジングが居るからと断ったわ。横柄な態度もせずにやんわりとね。だけどあいつ、会場に戻ろうとした私の手を取ってからとんでもないことを口にしたの」


 ――それは、本当にとんでもないことだった。もし結婚を断れば私達に罪を被せるといったようなことをするつもりだったとか。


「それなら言ってくれれば――」

「みんなに知られたと分かった時点で行動を起こす……そう言っていたわ。受けるかどうかを保留にもできなかった」

「そういや、あのパーティの後、調子が悪そうだった気がするぜ……」

「先送りにはできたんですよね、逃げるというのもアリ……いや、監視されていたということですか……?」

「……」


 セクスタがやりようはあったのではと、口にしようとしたが、冷や汗を掻きながら自身で否定した。

 私達へ告げた時点で行動を起こすというなら、どこかでこちらを監視、もしくは盗聴している可能性が高いからだ。


「みんなに言わず、依頼のフリをして逃げるかとか色々考えたけど、返事を寄越せと急かされて結局ああいった形になったの……」

「クインティ……」

「チッ、お前もかよ……」


 彼女はもっと迅速に行動していればと言う。しかし、考える猶予が無かったので仕方がないと私達三人は視線を落とす。

 結果的にクインティもドルザと結婚したが、その後は浮気を繰り返すような男だと判明。

 そのことを詰めた際、ドルザに始末されたとのこと。


「私が死んだのは……二十八とかだったかしらね。浮気は私があいつと夜を共にしなかったから当然なんだけどさ。愛想を尽かして捨ててくれれば良かったのに、まさか殺しに来るとは思わなかったわ」

「なんてことだ……」

「うう……」


 私とセクスタは呻くように言葉を放つ。そこでゼーロは立ち上がって頭を下げた。


「すまねえ。事情を知らずに裏切り者だなんて言ってよ」

「はい……すみません……」

「いいのよ。何もできなかったことには変わりないしね。それよりもこれからよ! 私達があの町へ行かなければあいつと会うこともない。未来は変えられるの!」

「……!」

「そうですよ! あの町に行かなければクインティさんは見染められることはないですもんね! もしくは助けない!」

「そうそう♪」

「……なんならセクスタを売り飛ばした野郎を成敗するか? どうせどこかにいるんだろ」

「場所はわかりますけど……いえ、確かに成敗をした方がいいかもしれませんね」


 人身売買の尻尾を掴んで潰す必要があると鼻息を荒くするセクスタ。


「そういえばジングはどうなったの? 折角だし話してみてよ」

「ああ、そうだな――」


 そこでクィンティが私の人生はどうだったのかと聞いてきた。他の三人よりはかなりまともな人生を送っていたことを話した。


「えー、いいなあ……私も商人のジング見たかったし、結婚して平和に暮らしたかった……」

「あの時、無理してでもついて行けばよかったです……」

「いや、それだったら商人になってねえかもしれねえぞ。まあ、俺はお前と冒険者を続けたかったぜ。商人のジングを護衛とかよ」

「ははは、そりゃいいな」


 皆が悲惨な人生だったからもう少し色々と文句を言われるかと思ったが、そんなことは無かった。

 やっぱりセクスタの言う通りこのパーティは雰囲気が良いのだろう。すぐに謝れたり、理解をするからな。

 クインティは相談が欲しかったところだが、それも難しいのは話の流れで確認できた。


「なんだかジング、よーく見るとなんだか落ち着いているわね? 私達より歳を取って帰って来たからかしら?」

「え、そうか?」

「私もそう思います! ……クインティさん、私もジングさんと一緒になるのはダメですかね……?」

「一夫多妻? んー、大富豪ならいけるんだっけ?」

「おいおい!?」

「はっはっは! いいねえジングは! オレも誰かいい人がいねえもんかね。ひとまず、第二の人生の開幕を祝おうぜ」

「あ、いいわね! それじゃ私達の明るい未来に向かって……かんぱーい!」

「乾杯!」


 私達はそれぞれの事情を話してわだかまりが消えた。夢にしては感覚がハッキリしている。

 ここから始まる、といえばその通りかとスタートを切る意味でこの晩は飲みまくるのだった。


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