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その六 二人の人生

「……確かに、クインティさんは私達に直接迷惑をかけたことはありません」

「そ、そうよね」

「まあ逆恨みって言われても仕方ねえけど、ジングとパーティを解散した後は散々だったんだぜ?」

「なんだって?」


 セクスタの言葉に安堵するクインティだったが、ゼーロはジョッキをグイっと傾けてからクインティを見て目を細める。


「俺とパーティを解散した後、なにがあったんだ」


 逆恨みと言っていたのでクインティのせいではないようだが……そう思っていると、セクスタが語り出した。


「私はジングさんとゼーロさんの二人とパーティを解散した後、別のパーティに入ることにしました。ひとまずお金は必要でしたから」


 先ほどお金は必要みたいなことを言っていたから、金銭的に苦労したのだろうか。


「だけど、この四人で組んでいた時が一番楽しく、雰囲気が良かったと気づいたんです。しばらく続けていましたけど」

「じゃあ冒険者は辞めたんだ」

「はい。それから私はとある孤児院で働くことにしました」

「ああ、セクスタは優しいものね」

「ふふ、クインティさんにそう言われると複雑ですが、ありがとうございます。ジングさんとゼーロさんと別れてから二年ほど経ったころに孤児院で働くようになりました。だけど――」


 そこから孤児院での暮らしを教えてくれた。

 孤児院長は当時で四十半ばごろで、人の好い感じの男だったそうだ。少々小太りで髪が薄くなっていたという。


「しかしそれは仮面で、裏では孤児院の子供を人買いへ売る仕事をしていたんです……」

「なんだって……!?」


 だからいいものを食べて太っていたらしい。そして、その毒牙はセクスタにも迫った。


「お仕事で孤児になった子を引き取る、という話だったんです。だけど現地に到着したらならず者達に襲われ、そのまま連れ去られました」

「ええー……」


 そこで人買いから、孤児院長は人身売買をする男で、セクスタは騙されて売られたということを知った。


「そこからはあまり思い出したくもないですね……」


 こういっては何だがセクスタは可愛い顔立ちをしている。成長すればきっと美人になるであろう。なので売られる、ということはロクでもないことになるのは明白だった。


「夜のお店なんかも行きましたが、最後はトンゴール国に着きました」

「トンゴール……あの時期なら戦争をやっていなかったか?」


 私が商人を始めるかどうかという年代くらいだと聞いて思い出す。確か隣の国と戦をしていたはずだ。

 ゲイリーさんからその話を聞いていてトンゴール国と、ヤークワイ国には行かないと決まっていたのだ。


「そこで回復魔法が使えるからと戦争に参加させられ、魔力が尽きかけて倒れても無理やり魔力回復薬を飲まされて働かされ続けました」

「ひでぇな……」

「確か三年ほどで戦争は終わったと思うが、その後は……?」

「戦争が終わる前に魔力が尽きて回復魔法ができなくなったんです……放逐されてお金もなく、あてもなく彷徨いました。とある山で死にかけている時、人知れず暮らしている男性に助けられ、そのまま一緒になりました」


 だけど体に無理があったため、五十くらいで人生の幕を閉じたとのこと……


「うう……」

「な、泣かないでください! だからクィンティさんは悪くは無いですけど、あそこでパーティが解散していなければ別の人生があったかもって思うんです」


 クインティが鼻をすすると、セクスタが慌てて理由を口にした。少しむくれていたのは罪悪感があるからだろう。


「辛い人生だったな……」

「でも、今ここで戻れているのは……嬉しいです」


 そう言って困った顔で笑う彼女は本当に嬉しいといった感じだった。


「じゃあ次はオレだな。まあ、ジングとは同郷で小さいころから知っているのは覚えているか?」

「そうだったわね」

「だけど、そのジングからパーティを解散してオレの下からも消えた。結構ショックだったんだぜ? いわば親友みたいなもんだ。それなのにオレとセクスタと一緒にいると嫌でもクインティのことを思い出すからって別れちまった」


 ……そうだったな。

 私は四人一緒にいたことが楽しかったし、それでパーティだった。

 そこでクインティが居なくなったことで、喪失感を強く感じてしまい誰からとも離れようと思ったんだ。


「それでゼーロはどうなったの?」

「あー、オレはセクスタとも別れたあと、冒険者を続けていたぜ。だけど、苛立ちがずっとあってパーティに入っても上手くいかなかった」


 素行が悪いと自覚しているゼーロは、コミュニケーションが私におんぶにだっこだったと笑う。

 確かに喧嘩っ早い感じはあったと思うがそこまで合わないとは思えない。


「どうしてもジングやお前達とパーティメンバーを比べちまってな。いま思えばあいつらはいい気がしねえだろうってわかる。だけど当時は折角のパーティがクインティのせいで瓦解したってのもあり荒れてたんだよ」

「うう……」

「金を稼いでもそれなりにいい武器や防具を買ったくらいだ。使い道なんてのはあんまり考えず、酒浸りの生活になっちまってな」

「お前……」

「はは……そしたら内臓は悪くなるわ、手は震えて戦いにくくなるわでどうしようもなくなった。後はお察しの通り、魔物との戦闘中に武器を取り落としてこの世からおさらばってな」

「なんてこった……」


 四十歳になったかどうかくらいでのことだそうだ。私が八十近くまで生きたことを考えるとあまりに早い最期だ。


「あのまま生きていても楽しいことを見つけられたかどうかわからねえし、楽になったとは思ったかねえ」

「そんなことを言うなよ……」

「はは、悪ぃ。だからここに戻れているのはすげぇ嬉しかった。だけど、記憶があるからどうしてもクインティが引っ掛かったってわけだ」

「なるほどね……」


 確かにクインティが悪いわけではないが、セクスタの言う通りパーティを組んだままなら『こんなことにはならなかったかもしれない』という気持ちは理解できる。

 クインティへ当たりがキツイのは、あの時パーティを三人で続けていたら、というのもあるのかもしれないな。


「ごめんなさい、確かに私が発端といえばそうかもしれないわね」

「ふん、まあ確かに今さらだからいいけどよ」

「そうですね」

「でも、聞いて。私にも事情があったの」

「事情……?」


 貴族との結婚に事情があったというのはどういうことだ? 惚れられた、生活が楽になり貴族になれるという話をしていたと覚えているが……

 私は気になりクインティの話に耳を傾ける。


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