「――だから、これからもこのメンバーでやっていきたいわね! 結婚するまでに資金をたくさん貯めないと。ね、ジング?」
「あ、ああ、そうだな」
「まあ、今はそういう時期だよなあ」
「ですね。私も今の内に貯めておこうかな? いつか結婚するでしょうし」
「あー、それはそうかも! でも今日は飲む日よね!」
「……」
祝杯というほどの依頼でもないのだが、クインティのテンションが高くすでに五杯もジョッキを開けていた。
いつもなら二杯程度で満足すると記憶しているし、この場も個室というのが気にかかる。
それと会話の中でクインティだけでなく、ゼーロとセクスタの様子もおかしい気がする。
先の会話もそうだが、二人はどうしてかクインティに色々と言っている気がし、違和感が拭えない。
いや、二人とも笑顔だし気のせいだと思うのだけど……
「ジングさん、あーん!」
「ちょっと! さっきからなにをしているのよ!」
「はは……セクスタ、酔ったのか?」
……特にセクスタがクインティを差し置いて私に構って来る。 それで若干、雰囲気が良くない。
セクスタは十六歳でクインティの二つ下だ。我儘も言わない出来た子なのでクインティも気に入っている。
私とクインティを羨ましいといいつつ、邪魔をしてくるようなことは無かったのだが……
「酔っていません! ……もう、いいですかね。クインティさん、あなたは将来ジングさんを不幸にします」
「……!」
「ぶっ……!?」
「うおお!?」
眼がすわったセクスタがジョッキをダン! とおいてからとんでもないことを口にした。
その言葉に心当たりがありすぎる私は口にしていたビアーを噴き出した。
それは目の前にいたゼーロにかかり声を上げていた。
「セクスタ、あんたそれ冗談にしちゃタチ悪いわよ?」
むせている私の背をさすりながらクインティがセクスタへ目を細める。頬には冷や汗が一筋流れていた。
「冗談……だったら良かったんですけどね……信じてもらえるかわかりませんが、今の私には未来の記憶があります」
「……!?」
セクスタの言った言葉にクインティが目を見開いていた。もちろん、私も。
ふとゼーロに視線を合わせると真顔になっているのを確認する。どうも先に聞いていたようで驚きは無かったようだ。
「……未来、ねえ。具体的に私がなにをしたのかしら?」
そこでクィンティがセクスタへ質問を投げかけた。当然、そんなことを言われたのであれば理由を聞きたいのは当然である。
私は知っているが、セクスタが本当に知っているのか興味がある。黙って聞いていると、セクスタが少し間を置いてから口を開く。
「あなたは数年後、とある貴族に見染められます。そこで貴族に求愛されるのですが、それを受け入れます」
「……」
「そして私達は三人で旅をすることに……」
その後の詳細は言わなかったが、セクスタは悲痛な顔で私に目を向けていた。なるほど、そこまで知っているのかと。
となると、二人と別れることになったことも知っているのか。だから私とクインティを離すようなことを……
「なるほどね……」
「分かっていただけましたか」
「ええ。『あなたも』記憶があったのね」
「ぶふー! あなたも!?」
「うわ!? ジング、いちいち噴き出すなって!」
さらにクインティがとんでもないことを神妙に言い、また吹き出してしまう。
今度はゼーロもさっと回避していた。
それはともかくクインティの発言は問題がある。セクスタが言ったようにとある時点で貴族と結婚することが分かっているなら私と今の内に別れた方がいいに決まっている。
「……まさかクインティさんも記憶を持っているとは思いませんでした。それなら話が早いですね。ジングさんを私に譲ってもらえませんか?」
「な、なにを言い出すんだセクスタ」
「ジングさんは少し黙っていてください!」
「ジングは黙ってて!」
「お、おお……」
「ちょっと二人の話を聞いてみようぜ」
セクスタを止めようとしたら二人から黙ってくれと、すごい気迫で私に言って来た。
小さくなる私にゼーロが酒を飲みながら聞いてみようと口にする。
仕方ないなと私もジョッキに手に持ち口をつけた。
「……私も未来の記憶を持っているのよ、セクスタ。いえ、未来の記憶を持ったまま過去に帰って来たというべきかしら?」
「……! ということは貴族との結婚も覚えている、と」
「ええ」
「ならジングさんは……」
「渡せないわ」
私を派手に裏切ったことを覚えているらしい。そうなる前に手を打つというセクスタだったが、クインティは断った。
正直、未来が見えているなら私をそのままにしておくより、別れてくれた方が助かるのだが。
「で、でも、いつか別れるなら今でも良くないですか! あ、もしかして貴族に会うまでは一緒に居ないといけないから、ですか?」
私も思っていたことをセクスタが口にしてくれた。
ただ、とある話があってクインティが見染められるという状況なので今から言っても恐らく意味はない。
しかし、その時までパーティを組んでいればいいだけなので私と恋人同士である必要はない。
するとクインティは不敵に笑い、話し出す。
「あの一件、色々とあってさ。半ば無理やり娶られたようなものなの。だからジングが嫌いになったわけじゃないのよ……って、ジングには分からないわよね」
「あ、そういえば……す、すみません、知りたくなかったですよね……」
「あ、いや……」
私はクインティの言葉に驚いていた。あの時は一言もそんなことを聞かされていないからだ。
真意は分からない。セクスタの記憶があることが誤算で、またあの状況を作って貴族と結婚するため口合わせをしている可能性もあるからだ。
切り札ではあるが私も自身に起きていることを口にする。
「俺も……過去の記憶があるんだ。だからクィンティが俺を裏切った、というのは覚えている」
「……! ほ、本当に!」
「ああ」
「なんだよ、じゃあ全員記憶があるってことか」
「な……まさかゼーロも?」
「オレも記憶を持っているぜ。だからセクスタが積極的にジングの好感度を上げておくのはアリだと思ったわけだ」
ゼーロはやけにあっさりと吐露した。どうやら私を含めてこのパーティは全員、未来の記憶を持っているらしい。
その瞬間、全員が押し黙る。ゼーロとセクスタの視線を受けて、クインティは苦悶の表情を浮かべていた。
二人の恨みはもっともで、クインティがあそこで別れなければパーティは続けられたはずなのだ。
いや、でもどうだろうか?
「あなたは今すぐにパーティから離れるべき……」
「そんな……!」
「待ってくれセクスタ! 確かにクインティが貴族と結婚してパーティを離れた。私……俺の調子が悪くなって解散をしたが、二人にはそれほど迷惑をかけていないはずだ」
「……」
そう、クインティに裏切られたというのは私であり、個人的な迷惑は受けていないはずなのだ。その後、二人がどうなったのかは知らないが何があったのだろうか?
顔を見合わせていたセクスタとゼーロ。
するとセクスタが頷いた後、話し始める。