「終わったな」
「ああ」
すぐにゼーロの下へ戻った私は最後の一体を倒してゴブリン退治は終了した。
これで終わりというのは分かっているが、念のため周辺の警戒をしながらゴブリン討伐をした証である耳を削いでいく。
クィンティの魔法で黒焦げになったものに関しては仕方ないので埋めておこう。
耳を取った個体もそのままにしておけないため、こちらも魔法で炭にして地面に埋めた。
こうしないとこの遺体を狙って他の魔物が集まってしまうからだ。冒険者のマナーというやつである。
「これでいいかしらね?」
「だな。さて、戻るとしよう。他の冒険者達も上手くいっているといいな」
「ですね!」
「よしスープラ、帰るぞー」
魔物の気配がないことを確認したので撤収だ。ゼーロが馬車を回してくれ、私達はすぐに現場を後にする。
「他に居なくてラッキーだったわね。いつもだとすこーし延長戦になるもの」
「ええ。ゼーロさんが少し怪我をした程度で済んだのも良かったです!」
そういえば私やクィンティを含めて怪我をあまりしなかったな。
私は未来の経験があるためいなすことができたし、クィンティも奇襲を退けていたからだが、ゼーロはもう少し怪我をしていたような気がする。
私の能力が高くなっていることに起因しているせいだと思うが、上手くいきすぎだと思うくらい、早く片付いた気がする。
帰りは幾度か魔物と戦闘になったが、特に問題なく町へと戻ることができた。
ゴブリンが居なくなって潜んでいた魔物が活発になったのである。
クィンティとセクスタの攻撃魔法で倒しつつ素材を回収してギルドを目指す。そして到着したのは昼を回ってからだった。
「戻ったぜ!」
「お、期待のパーティ『スローリーフロウ』のご帰還だな」
「やめてくださいよ、俺たちはランクが上がったばかりでまだまだなんですから」
ゼーロが笑いながらギルドの受付にドンと拳を叩きつける。すると受付に立っていた屈強な職員がニヤリと笑いながら私達に期待のパーティと告げる。
確かにBランクになっているパーティはそれなりに強いと判断してもらえるため、この職員の『期待』は理解できる。
実際、そうでなければ町に来てひと月しか経っていないのに、協力してゴブリンを排除する依頼を受けることは無かっただろう。
「とりあえずゴブリンを倒した証を持って来た。少し燃やし尽くしたが、都合八体居たよ」
「おう、助かるぜ! ちなみにお前たちが一番だ。というわけで報酬がこいつになる」
「おお!」
「ゼーロさん、下品ですよ!」
四つの革袋を前にゼーロが声を上げて喜び、セクスタが口を尖らせて耳を引っ張っていた。
「あはは、ゼーロは昔からすぐ調子に乗るから」
「ん? 昔?」
「あ、えっと会った時からね!」
クィンティがなんとなく気になる発言をしたので聞き返すと、言い間違えたと訂正した。
まあこの時点で二年くらい経っているから昔といえば間違いでもないか。
「ジングさん、今日は飲みに行くんですよね!」
「え? あ、ああ、そのつもりだけど……なんで腕に絡みついて来るんだ?」
「あ、また! ジングは私の彼氏って知ってるじゃない!」
そこでクインティが空いている方の腕に絡みついてきてまた両腕が塞がってしまう。
ゼーロがまた冷やかしてくるが、そこで私はセクスタに訝し気な視線を向けた。
確かに仲は悪くなかったが、彼女が私に好意を持っているような感じは無かったからだ。
「どうしましたか?」
「……いや、なんでもない」
一回だけ、そういう話をしたことがあったか。
それはクインティが貴族の下へ行ってしまった後、パーティを解散する時に『自分で良ければ一緒になってくれ』と泣きながら言っていたことを思い出す。
あの時は解散したくないから自分の身体でもなんでも使ってつ繋ぎとめようとしてきただけだと考えていた。
「今日のジングさんは調子がいいのに、変な感じですね?」
「そ、そうか? ほら、とりあえず酒場へ行こう!」
「あ、彼女を放り出すのはどうかと思うわよ!」
「待ってくださいー!」
「……」
「ゼーロ、行くぞ!」
「お。ああ」
……? なぜか私たちの背後でゼーロがこちらを見ながら難しい顔をしていた。声をかけるとすぐに笑顔になり追いかけてきたが当時こんなことがあっただろうか……?
気になったがいつもの知る笑顔で追いついてきたのでひとまず黙って酒場へ行くことにした。
「いらっしゃいませー! あら、クインティ達じゃない」
「こんにちは! えっと……個室使ってもいい? 空いているかしら?」
「あ、それじゃ案内するわ」
店に入るといつものウェイトレスさんが出迎えてくれた。同い年くらいのせいか、クインティと仲が良く、休みの日に買い物に行ったこともあったな。
それはともかく、私は彼女が個室を選んだことに違和感を覚えた。確かこの日はど真ん中の席で飲んでいて、後から別の場所でゴブリンと戦っていた冒険者達と飲み交わしていたような気がする。
割と全員、騒ぐのが嫌いではないので個室という選択肢をとったことはほぼない。誕生日とかでも無かったような……
セクスタとゼーロも目をぱちくりとしていて、私と同じ印象をもったようだ。すると所の瞬間、懐中時計がカチリとなった。
「ん? どうしたの?」
「いや……」
「そんな時計、持ってたっけ……?」
「あ、ああ。実はそうなんだ」
やけに耳に響いたので、懐から取り出す。クインティが驚いたように尋ねてきた。
前の時は持っていなかったからその反応は当然なので、はぐらかしておく。
「ごゆっくり~♪」
そのまま個室へと入り、私とクィンティが隣同士になり対面にゼーロとセクスタが座る。
注文はテーブルにある魔法の水晶を触ると店員が来るという。ひとまずビアーを人数分頼み、つまみを数品お願いした。
「なんで離れているのよ?」
「ん、ああ、確かに」
適当に話をしていたのだが、私は知らないうちにクィンティから離れていたようだ。訝し気に見てくるので近づいていく。
「いいですねえクインティは。わたしもジングさんみたいな優しくて真面目な彼氏が欲しいです」
「だなあ。俺みたいに適当じゃないからな。もし別れるようなことがあったらセクスタ、付き合ったらどうだ?」
「なーに言ってんのよ! ……私たちはそんなことないわよ。ねえ?」
「あ、ああ、そうだな」
正直、ドキッとした。ゼーロやセクスタがそんなことを言ったことがあっただろうか?
まるで未来を見てきたかのような言い方をする……まさか私と同じだったりするのか?
そう思った私はセクスタへ質問を投げかけた。
「セクスタは俺のことが好きだったのか?」
「~! い、いやあ、あの、冗談です、から!」
私の言葉に慌てて視線を逸らす。しかし耳まで真っ赤になっていて、本気っぽいというのが分かった。
……この時点で彼女は私に好意を持っていなかった、はずだ。元々、私がクインティと付き合っていたというのもあってこういった話を聞いたことがなかった。
もう少し探ってみるか?