そして夜の十一時過ぎ、私は一人でレオ兄様の部屋の前にやってきた。
賊が夜中寝込みを襲うということも考えられるから注意しないと。
お兄様はどうも警戒心に欠けるところがある。私がしっかり守ってやらないと。
そう思い、私が曲がり角から兄さんの部屋を見張っていると、ふいに後ろから肩をたたかれた。
「…………ひゃい!?」
「しーっ、静かにしろ」
振り返ると、そこにいたのは真っ黒な衣装に身を包んだヒイロだった。
「なんだ、ヒイロか」
私がホッと胸を撫でおろしていると、ヒイロは私の腕をつかんだ。
「そんなところじゃ目立ちすぎるぞ。こっちだ」
ヒイロは私の腕を引っ張って、兄さんの泊まっている部屋の隣にある空き部屋に引っ張り込む。
「見張るなら天井裏からのほうがいい」
見ると天井にぽっかりと穴が開いている。
「よっ」
ヒイロが本棚によじ登り、そこから天井の穴へジャンプする。
黒いぴったりとした布に包まれたヒイロのお尻がゆらゆら揺れ、穴に吸い込まれる。
私はそれを見ながら「いいケツ」などと思っていたのだが、ふいにそこからヒイロが手を伸ばしこう言った。
「何してる? 早く来い」
「えっ」
私は狭い天井の穴を見上げた。
「私、あそこ通れるかなあ」
私が言うとヒイロは首をかしげた。
「大丈夫だよ。私だって通れるんだから。そんなに狭い穴じゃない」
「だって胸が引っかかるかもしれないし……」
私は自分の胸を持ち上げると天井の穴と見比べた。ヒイロの顔色が変わる。
「なにそれ? 私へのイヤミか?」
「違う違う! マジで、巨乳って不便なことも多いんだよ!」
私は力説する。前世で男だったころは巨乳が大好きだったけれど、いざ自分が巨乳になると意外と不便なことも多い。
狭いところでつっかえるし、走れば揺れて痛いし、肩だって凝る。好きなデザインの服が入らないこともしょっちゅうだ。
いくら巨乳が揉み放題と言っても、自分の体じゃそんなに興奮もしないし。
だが、ヒイロが暗黒オーラをまとい始めたので、この話題はやめにする。
「ああそう。 分かったからそのだらしない脂肪の塊を見せびらかしてないでとっとと来い」
「うん。試しに入ってみるよ」
私は本棚によじ登ると、ていっ! と穴のふちに掴まる。そしてそのまま腕力で体を引き上げる……が。
「ううっ……やっぱり入らないーーっ!」
私は体を右に左によじってみたけれど、胸がつかえてどうにも動かない。
そのうち支えている腕が疲れてプルプルしてきた。
「体を斜めにしろ! こっちからも引っ張るから......」
ヒイロが私の腕を引っ張る。
「せーの!」
すると体が勢いよく外れ、私はヒイロ覆いかぶさる形になった。
うわあ、美少女を押し倒してる!
……って、今は女同士だし何も問題ないけどね。
まあでも、相手からしてみたら重いだろうから一応謝っておく。
「ご、ごめん」
少し身を起こすと今度は天井に頭をぶつける。
「いててて」
「何やってる。早くどけ」
ヒイロが私の胸をぐいぐい押す。イタイイタイ!
「ふん、ちょっと胸が大きいからって、調子に乗らないことだ!」
なんか、胸に対する余計な憎しみがこもってない?
そんなことをしていると、下の部屋から何やら物音がして、私たち二人はハッと顔を見合わせた。天井の隙間からレオお兄様の部屋を覗き込む。
「待て待て……んん? あれ、賊じゃないか?」
そこにはナイフを構え、レオ兄様の寝ているベッドに近づこうとしている黒い人影があった。
うわっ! こんなことしている場合じゃなかった!