私が大広間につくと、叔父さんとレオ兄様、義姉さん、ヒイロはもう席についていて、数人のメイドや召使が料理を運んでいた。
「さあ、皆そろったな? それでは客人に乾杯しよう」
グンジおじさんが音頭を取り、皆ワインで乾杯する。私は酒が飲めないので山ぶどうジュースにした。中々の美味だ。
「このジュース、凄く美味しいな。ブドウの味が濃い」
同じくジュースを頼んだヒイロが呟く。
「近くの山で山ぶどうが沢山採れるのでね。実は自家製なんだ」
グンジ叔父さんが笑う。一見して和やかな食卓に見えなくもない。
だけど私はと言うと、毒でも仕込まれてるんじゃないかと気が気でならず、ろくに味も分からないままぶどうジュースを喉に流しこんでいた。
いや、狙われるとしたら私よりレオ兄様だ。何せ一国の王様なんだから。
私はレオ兄様のグラスをじっと見た。兄様がグラスに入っていたワインを飲み干すと、使用人がすぐさま注ぎにくる。
まさかワインに毒が仕込まれてたりしないよね?
私はカパカパとワインを開けていくレオ兄様の顔をじっと見つめた。
……あのさ、少しは危機感とか持たないのかな?
「すまないが私にも一杯くれ」
グンジおじさんも使用人に声をかけ、同じボトルからワインを注いでもらい飲み干す。どうやらワインに毒が仕込まれているというのはなさそうだ。私はひとまずほっとする。
いや、ワインに毒が仕込まれていないからって、グラスに毒が仕込まれてることだって十分あり得るし、油断はできない。
「この城の庭園でとれた玉ねぎやキャベツなどの自家製野菜と、裏山でとれたキノコを使ったスープにございます」
次にスープが運ばれてくる。
「おお~これは美味そうではないか!」
レオ兄様がにこにこしながら言う。本当にこの人は、緊張感と言うものがない!
ここは敵陣なんだぞ? お前は王様なんだぞ!? 毒でも盛られたらどーするんだよ!
兄さんは皿を運んできたメイドのシュシュを呼び止める。
「きみ、ちょっとこのスープ毒見してくれないか? 最近ちょっと神経質になっていてね! たはははは」
その様子を見て、私はちょっとほっとする。なんだ、ちょっとは気にしてはいるんだ。
じっと見ていると、シュシュは遠慮なくスプーンで皿の中身を掬い「問題ありません」と言った。
シュシュはスプーンを自分のトレーに戻すと、そこから新しいスプーンを出し、兄さんの机の上に置く。
「むっ......ぐっ......!」
するとレオ兄様が急に胸を押さえて苦しみ出した。どうしたの? ま、まさか毒を!
「ぐううううう! 美味い! なんて美味しいスープなんだ! これは一体何のスープだ!?」
レオ兄様が目をキラキラ輝かせて尋ねる。
ま、紛らわしいことしないでよ……。
「山キノコにございます」
シュシュが無表情に答える。
「この辺りの山でとれるキノコなのですが、毒キノコのモダエダケにそっくりなので、山で見つけても安易に取らないようにしてくださいね」
私はスプーンで細かく切られたキノコを掬いじっと見た。
なんか、この一片だけ色が違うような......ま、気のせいだよね!
私は恐る恐る料理を口に運ぶが、緊張で味がよく分からなかった。
兄様ったら、なんでこの状況で呑気に食べていられるのだろう。
義姉さんもヒイロも涼しい顔をして食べてるし、私がおかしいだけなのか?
その後も鹿肉のソテーやチーズガレットなど豪華な料理を食べたが、どんな味だったかほとんど記憶がない。もう、せっかく美味そうな料理なのに!