目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第20話

「いやー、びっくりした」


 私は額の汗をぬぐいながらつぶやいた。


 ヒイロが真面目な顔をしてうなずく。


「そりゃそうだろう。まさかアビゲイル様が冒険者だっただなんて」


「いや、そっちじゃないっ」


 私は思わずツッコミをいれてしまった。


 いや、義姉さんが元冒険者だったってのもびっくりだけどさ、ムチとボンテージって……それ以上のインパクトがありすぎ!


 ……と、私はふと疑問に思ったことをアオイとヒイロに聞いてみる。


「じゃあ、君たち二人は元々アビゲイル義姉さんと知り合いで、最初から義姉さんに招かれてあの舞踏会に来てたってことなんだ?」


 私が尋ねると、アオイはうなずく。


「ええ、暗殺計画を知ったアビゲイル様は、陛下の身を助けることで、冷えきっている二人の仲を修復しようと考えていたようなのです」


 ふーん、レオ兄さんの命を救うことで愛情を示そうと考えたわけか。なかなか可愛いところもあるんだな、義姉さんも。

 そう思おうとしたけど、私の脳裏にはあのボンテージ姿がチラついて離れなかった。


「それに、アオイが兄さんに成り代わってたのも気づかなかったしさ。演技上手すぎ!」


「陛下のことをずっと観察していましたから。そのせいで、熱視線を送っていると勘違いされて口説かれたりもしましたが」


 苦笑するアオイ。


「でもその計画もことごとくあんたが邪魔するから、どうしようかと思ったよ」


 ヒイロがため息をつく。


 だってしょうがないでしょ。そんなこと、私は全然知らなかったし聞かされてなかったんだから!


 そんな話をしながらしばらく隠し通路を歩いていると、私たちは行き止まりにぶち当たった。


「あれ? 道を間違えたのかな」


 私が首をひねっていると、アオイが目の前の壁を指をさす。


「いえ、ちょっとそこの壁を押してみてください」


 言われた通り壁を押すと、壁はくるりと滑らかに回転した。隠し扉だ。


 私たちは回転に巻き込まれ、雪崩のように扉の外へとはじき出された。


「どわっ!」


 転がりながら盛大にずっこける私。うう、かっこ悪い!


 すると隠し部屋の奥にいた金髪の男が振り返った。


「何やつ!」


 やせ細った頬。鈍い光をたたえた瞳。隠し部屋の奥にいたのはグンジ叔父さんだ。……やっぱりね。


「『何やつ』じゃないだろ、人のこと襲っておいて!」


 私がぶつけた頭をさすりながら叫ぶと、叔父さんは低い声で笑う。


「ほお? 一体なんの話かね?」


 こいつ、しらばっくれるつもりだな。


 ヒイロが刀を構え、グンジおじさんに向かって言い放つ。


「無駄な抵抗はやめろ。あなたのことを国家反逆罪容疑で拘束する」


 グンジおじさんは冷たい瞳でちらりとヒイロを見やった。


「ふん、何の証拠があって」


「お前、この期に及んで何をとぼけたことを」


 私が苛立ちのあまり叫ぶと、ヒイロはそれを遮るようによく通る声でこう言った。


「証拠ならある。証人がいるからな」


 え? 


 私が意味が分からずヒイロの方を見ると、ヒイロは入り口の方へ視線をやる。その視線をたどると、ガチャリと音を立ててドアが開いた。


「す、すいません、グンジ様!」


 そこに立っていたのは、どこかで見覚えのある使用人風の男。あれ? こいつって確か……舞踏会で兄さんを襲ったやつだ!


「お、お前は!」


 グンジおじさんは顔を真っ青にしながら言う。


「死んだんじゃなかったのか!?」


 うんうん、と頷く私。そうそう、私は死体まで見たんだよ!?


 何でこの賊が生きてるんだ!?



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?