「いやー、びっくりした」
私は額の汗をぬぐいながらつぶやいた。
ヒイロが真面目な顔をしてうなずく。
「そりゃそうだろう。まさかアビゲイル様が冒険者だっただなんて」
「いや、そっちじゃないっ」
私は思わずツッコミをいれてしまった。
いや、義姉さんが元冒険者だったってのもびっくりだけどさ、ムチとボンテージって……それ以上のインパクトがありすぎ!
……と、私はふと疑問に思ったことをアオイとヒイロに聞いてみる。
「じゃあ、君たち二人は元々アビゲイル義姉さんと知り合いで、最初から義姉さんに招かれてあの舞踏会に来てたってことなんだ?」
私が尋ねると、アオイはうなずく。
「ええ、暗殺計画を知ったアビゲイル様は、陛下の身を助けることで、冷えきっている二人の仲を修復しようと考えていたようなのです」
ふーん、レオ兄さんの命を救うことで愛情を示そうと考えたわけか。なかなか可愛いところもあるんだな、義姉さんも。
そう思おうとしたけど、私の脳裏にはあのボンテージ姿がチラついて離れなかった。
「それに、アオイが兄さんに成り代わってたのも気づかなかったしさ。演技上手すぎ!」
「陛下のことをずっと観察していましたから。そのせいで、熱視線を送っていると勘違いされて口説かれたりもしましたが」
苦笑するアオイ。
「でもその計画もことごとくあんたが邪魔するから、どうしようかと思ったよ」
ヒイロがため息をつく。
だってしょうがないでしょ。そんなこと、私は全然知らなかったし聞かされてなかったんだから!
そんな話をしながらしばらく隠し通路を歩いていると、私たちは行き止まりにぶち当たった。
「あれ? 道を間違えたのかな」
私が首をひねっていると、アオイが目の前の壁を指をさす。
「いえ、ちょっとそこの壁を押してみてください」
言われた通り壁を押すと、壁はくるりと滑らかに回転した。隠し扉だ。
私たちは回転に巻き込まれ、雪崩のように扉の外へとはじき出された。
「どわっ!」
転がりながら盛大にずっこける私。うう、かっこ悪い!
すると隠し部屋の奥にいた金髪の男が振り返った。
「何やつ!」
やせ細った頬。鈍い光をたたえた瞳。隠し部屋の奥にいたのはグンジ叔父さんだ。……やっぱりね。
「『何やつ』じゃないだろ、人のこと襲っておいて!」
私がぶつけた頭をさすりながら叫ぶと、叔父さんは低い声で笑う。
「ほお? 一体なんの話かね?」
こいつ、しらばっくれるつもりだな。
ヒイロが刀を構え、グンジおじさんに向かって言い放つ。
「無駄な抵抗はやめろ。あなたのことを国家反逆罪容疑で拘束する」
グンジおじさんは冷たい瞳でちらりとヒイロを見やった。
「ふん、何の証拠があって」
「お前、この期に及んで何をとぼけたことを」
私が苛立ちのあまり叫ぶと、ヒイロはそれを遮るようによく通る声でこう言った。
「証拠ならある。証人がいるからな」
え?
私が意味が分からずヒイロの方を見ると、ヒイロは入り口の方へ視線をやる。その視線をたどると、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
「す、すいません、グンジ様!」
そこに立っていたのは、どこかで見覚えのある使用人風の男。あれ? こいつって確か……舞踏会で兄さんを襲ったやつだ!
「お、お前は!」
グンジおじさんは顔を真っ青にしながら言う。
「死んだんじゃなかったのか!?」
うんうん、と頷く私。そうそう、私は死体まで見たんだよ!?
何でこの賊が生きてるんだ!?