得意げな顔でヒイロが何かの紙を広げ、グンジおじさんに見せる。
「彼が持っていた王子暗殺の計画書もこの通り、ここにあるわ」
それを見て、グンジ叔父さんは唾を飛ばしながら怒った。
「くそっ、計画書は捨てろとあれほど言ったのに!」
そこまで言ってからハッとグンジ叔父さんは我に返った。
「ち、違う! そうだ、その計画書は偽物だ! その暗殺犯も偽物だー!」
いやいや、さっき「計画書は捨てろと言った」って言ったじゃない。バッチリ聞こえたんだから。
これはもう、自白をしたも同然のセリフ。
自分の親戚に向かって言うのもなんだけど……馬鹿だね、こいつ。
「無駄な抵抗はやめろ!」
言い放ったのは、暗殺犯の男だった。
「え!?」
私が目を見開くと、暗殺犯は自らの顔の前に手をかざし――その顔は見る見るうちにアオイに変わっていく。
そ、そっか。アオイお得意の変身魔術だったのか。さすがアオイだわ。さっきもレオ兄様に変身してたもんね。
「あなたの先ほどの発言はここにいる皆が聞いていましたよ!」
「ぐっ!」
つばを飲み込み、苦い顔をするグンジ叔父さん。
「観念しろ!」
「そうだそうだ!」
私たちがグンジ叔父さんに詰め寄っていると、アビゲイル姉さんも、ドアを開けて入ってくる。
「私も聞いていましてよ!」
「アビゲイル殿!? な、なんだその恰好は!」
話を聞かれていたことよりもボンテージ姿に鞭を持ったアビゲイル姉さんに驚くグンジ叔父さん。まあ、そうだよな。
するとグンジ叔父さんは不敵な笑みを浮かべ、一歩下がったかと思うとピィと指笛を拭いた。
「く、くそー。こうなったら全員やっちまえー! 全員皆殺しにすれば、証人はゼロだ!」
叫ぶおじさん。と同時に、黒ずくめの使用人たちがわらわらと部屋に入ってきた。
「ふん、雑魚がいくら来ても無駄よ!」
私よりも先にアビゲイル義姉さんが動く。
義姉さんのムチによって、黒づくめの男たちはあれよあれよという間にぐるぐる巻きにされてしまった。
私は黒づくめの男たちが戦っている隙に逃げようとするグンジ叔父さんの後を追った。
「逃がすかっ!」
「ふふ、もう遅いわ!」
叔父さんは薬品棚に近づくと、不敵な笑みを浮かべた。
そして棚から一本の紫色のガラス瓶を取り出し中身を一気に飲み干した。
「何だ?」
私が首をかしげていると、叔父さんの体が2倍、3倍と風船のように膨らんでいく。
そしてその皮膚に小さな亀裂が入ったかと思うと、皮膚が鱗に変化していき、見る見るうちに叔父さんの体は異形のものに成り代わった。
「この俺が……ここで捕まるわけにはいかんのだ!」
トカゲのような顔に成り果てた叔父さんが叫ぶ。
「ふん、ようやく私の出番のようだ」
ヒイロが刀を再び構える。
だが私はそれより一足早く、一気に叔父さんまでの距離を詰めた。
「無駄な抵抗はやめてお縄につけ!」
叫ぶ私を鼻で笑うと、叔父さんは巨大化した腕を振るった。
「はーっはっはっは! 貴様のような小娘が、この私に適うものか!」
刃のように尖った爪が私の横を通り過ぎ、背後の壁に鋭い亀裂が入る。
私はその攻撃を避けると、叔父さんの背後に回り込んだ。
そして叔父さんの体に後ろからタックルすると、そのまま腰に手を回し体を担ぎ上げた。
「うおおおおお!」
高く持ち上げられるグンジ叔父さんの巨大な体。
「な、何をする! バカな! 人間より数倍大きいこの体を……頼む、助け――」
叔父さんは青い顔で懇願する。
私はにやりと笑った。
「嫌だね!」
私はブリッジの要領で、叔父さんの体を抱える。
「でやああああああ!!」
そしてそのまま、私は叔父さんの頭を背後の床に叩きつけた。
地面が揺れる凄まじい音。
「ぐはあっ!!」
叔父さんの頭が床にめり込む。頭を打って白目を向き、泡を吹く叔父さん。やがてその体は、完全に動かなくなった。
同時に、叔父さんの体は萎んでゆき、元の人間の姿へと戻っていく。
「死んでないよね?」
恐る恐る確認すると、どうやら気絶しただけらしい。
「よっし、事件解決!」
ほっと胸を撫で下ろすと、後ろでまたしてもヒイロが不満げな声を上げた。
「私の活躍は?」
そ、そうだった。ごめんごめん。