いきなり来て果たし合いって何？

　私は首をかしげながらも冷静に青年を見つめ返した。

「えーと、とりあえず事情を説明してくれるかな？」

「そうだよ！　お姉さまが何をしたって言うの！？」

　モアも頬を膨らませて詰め寄る。青年はやれやれ、と首を振った。

「オマエ、本当に身に覚えが無いのか？」

　そんなこと言われても。

　私は青年に問い返した。

「無いね。大体君は何者？　人に頼みごとをする時はまず自分から名乗るものではないかな」

　私が言うと、青年はフンと鼻で笑いこう言った。

「俺の名はゼット！　エリスのカセイ州に住む男爵家の三男坊だ！」

　どうやらこのゼットという男は俺たちと同じくエリスからやって来たらしい。

「それで貴族の三男坊が、私に何の恨みがあるっていうの」

「本当に身に覚えがないのか？」

「ない」

　私の肩をつかんでずい、と顔を寄せるゼット。

「本っ当～に!?」

「しつこいな！　無いって言ってるだろ！」

　余りのしつこさに私がキレると、ゼットはイライラした様子で私を睨みつけた。

「ではマロンという名に聞き覚えは!?」

「マロン？　マロンなら知ってるけど」

「俺はそのマロンの婚約者だっっ！」

　そこで私はようやく事情を把握した。

　聞けばこのゼットとかいう男、マロンの幼馴染みで小さい頃からの婚約者なのだという。

「マロンとは幼い頃から結婚の約束をしていたんだ。それが昨日になって急に好きな人ができたから婚約は破棄してほしいと。それがまさか相手が女だとは」

　悔しげに唇を噛み締めるゼット。

「マロンはミカエラとかいう奴は強くてカッコイイのだと言った！　ならば俺がお前に勝てばマロンも再び俺を見直し好きになってくれるはず」

　うーん、それはどうかなあ。人の好き嫌いというのはそんなに簡単なものでは無い気が。

「お姉さまが貴方なんかに負けるわけないじゃん！　失礼な！　お姉さまは最強なんだよ！」

「モ、モア！」

　何故かモアまでヒートアップしてるし～！

「時にミカエラ！　お前は何ランク冒険者なんだ？」

「私？　私は今日冒険者になったばかりだから......あれ？　何ランクなんだろう？」

　自分の冒険者カードを取り出ししげしげと眺める。あれ？　どこにもランクなんか書いてないな。

　ふん、とゼットが笑う。

「何ランクも何もお前、それ二種免許じゃねーか」

「二種免許？」

　ゼットが指さす箇所を見ると、そこには確かに『冒険者第二種登録カード』と書かれている。

「ダンジョンに挑んだりとかドラゴンを倒したりだとか、そういうクエストは一種免許じゃないと受けれないんだぜ？　AランクとかBランクとか、ランクがあるのもこの一種免許のほうだし」

「そ、そうなのか」

「お前何も知らねーんだな！」

　呆れ顔をするゼット。

　私はそこでピンときた。

「ああ！　もしかして、酒場で断られたのも……」

「ああ。多分二種免許だったからだ」

　顔を見合わせる私とモア。

「なあゼット、一種免許ってどうやったら取れるんだ！？」

「え？　確か実技試験と筆記試験があるはずだ。受付はあそこのカウンターだ」

　ゼットは奥のカウンターを指さす。

「そうか！　ありがとよゼット！」

「行こう、お姉さま！」

　私たちはカウンターへと走った。

「あ、待てっ！　果たし合いは――!?」

　協会内には、ゼットの声が虚しく響いた。

＊

「一種免許の申し込み用紙はこちらです。必要事項にご記入下さい」

　職員が用紙を渡してくれる。

　聞けば年に2回試験日があるのだが、その内の1回が1週間後にあるのだという。なんというタイミングのよさ！

「おいお前！　話はまだ終わってないぞ！」

　ゼットが顔を真っ赤にして後を追ってくる。しつこいなあ、もう。

「あのさあ、私はこれから一種試験の申し込みをしなきゃなんないから、後にしてくんない？」

　しっ、しっ、と手をヒラヒラさせて追い払おうとした私に、ゼットは何故かこんな提案をした。

「ならば仕方ない！　決めたぞ！　俺も冒険者試験を受ける！」

　そう宣言し、カウンターで用紙を貰うと私の横で記入し始めるゼット。

「偉そうに言うくせに、お前も二種免許しか持って無かったんだな」

「まあ単に身分証明書として使うだけなら二種で充分だからな」

　ゼットが自分の冒険者二種免許を見せてくる。

　どうやら年齢は17歳で、光属性の剣士らしい。腰に差した大剣といい、何だか漫画の主人公みたいなやつだ。

「ふふふ、お前よりいい成績で冒険者試験に合格して、マロンに見直して貰うんだ～！」

　ニヤニヤと笑い出すゼット。

　もー！　勝手にしてくれ！！