暗闇から飛んできた「何か」は、まっ直ぐ私の顔の方へと向かってきた。
「うわっ!」
私は反射的に飛んできた黒い物体を掴んだ。
むにゅり、とした柔らかくて暖かい物体。何やら毛も生えている。
な、なにこれ。動物……?
私は恐る恐るそのキーキー声を上げる黒い物体を見てみた。
手の中でジタバタとするそのモコモコとした黒い物体はネズミのような豚のような顔をしており、大きな紫色の羽が付いている。一見してコウモリみたいだ。
「コウモリ?」
が、よくよくみると牙が異様に長く、翼にも変な緑色の幾何学模様がついている。
「いや、モンスターか」
私はコウモリ型のモンスターを壁にぶん投げた。
モンスターは「みぎゃ!」という変な声を出し、べシャリと潰れた……かと思いきや、紫色の光の粒になってその場からかき消えた。
血とか内臓が出ずに魔力の粒になって消えてくれるのはありがたい。
私はふうと小さく息を吐いた。
何となく、軍手越しとは言え先ほどのモンスターをつかんだ感触が残っていて気持ち悪い。
辺りを見回すと、手軽な長さの木の棒が落ちていたので、それを拾うことにした。ひのきの棒だ。
「とりあえずこれで殴ることにするか。素手よりはマシだろ」
するとちょうど良くコウモリが二匹こちらに向かって飛んでくる。
「あーらよっと!」
ひのきの棒を勢いよくフルスイングすると、コウモリたちが一斉に壁に叩きつけられ、紫の光になって消える。
「うん、いい感じだ」
その後も出てきたモグラ型モンスターやウサギ型モンスター、コボルト、ゴブリン、ワーウルフ、ゴーレムなどをワンスイングで倒し、ダンジョンの奥深くへと進んで行った。
「さてと、そろそろ出口かなっと……ん?」
すると、ダンジョンの壁に妙な図が刻まれているのを見つけた。
鏡の中から這い出てくる角の生えた悪魔の図。その図には、よく見覚えがあった。
「これ、ルーラから奪った指輪の模様と同じ?」
ゆっくりと悪魔の図が彫ってある壁に近づくと、突如指輪から真っ白な光が吹き出す。
「うわっ」
そして低い地鳴りとともに壁が真っ二つに割れたかと思うと中に広い空間が現れた。
「隠し部屋!?」
恐る恐る中を除くと、椅子とテーブル、それに大きな鏡が一つあるだけで中はガランとしている。
「とりあえず罠は無さそうだが、隠しボスでもいるのか? 宝箱があるとか?」
しかし部屋の中をいくら探しても、怪しいものは何も無い。
「何かあるとすればこの鏡か」
黒くタールのように光る不気味な鏡。
よく見ると鏡の周りには薔薇のような模様が彫り込まれている。試しに鏡をよくよく覗き込んでみたが、何も起こりそうにない。
「なんだか薔薇祭りの飾りに似ているような気もするが」
私は自分の耳に付いているモアとお揃いで買ったピアスに手をやった。
「ま、いっか。この部屋はなにもなさそうだ」
私は隠し部屋を後にした。
クリアタイムも測ってるっていうし、何もない部屋に気を取られている暇はない。急がないと。
背後で隠し扉が閉まる音がこだまする。
一体あの部屋はなんだったんだろう。
そうしてしばらく走ると、今度は岩に覆われただだっ広い部屋がいきなり目の前に現れた。
「ここは、まさかボスか?」
地面が揺れる。続いて何か巨大なものが近づいてくるようなものすごい音が近づいてくる。
緊張しながら木の棒をギュッと握りしめる。額を汗が流れる。
そうして現れたのは、闇に光る灰色の鱗、吐き出される台風のような吐息。
足を踏み鳴らす度に地面が揺れる、巨大なドラゴンであった。