隠し部屋のあった場所から少し歩くと、外の光が見えてきた。暗がりに目が慣れているので、ひどくまぶしい。
どうやらようやくダンジョンをクリアしたらしい。
「お姉さま~!」
外に出るなり、モアが抱きついてくる。
「よしよし。大丈夫だったか?」
柔らかな銀髪を撫でてやると、モアが猫みたいに私の胸元に顔を擦りつけてくる。
「お姉さまがいなくて心細かったよー!」
ん~! 可愛い!
私はダンジョンのことなんかそっちのけでモアにメロメロになてしまった。
そこへやって来たのはゼットだ。
「ふん、あんなダンジョン、俺には簡単すぎたぜ!」
ゼットが胸をはり鼻を鳴らす。
あ、こいつ、いたんだ。
「ところで、二人ともあのドラゴンには会ったのか?」
私が聞くと二人ともきょとんとした顔で顔を見合わせる。
「ドラゴン? お姉さま、ドラゴンに会ったの?」
キョトンとするモア。どうやらモアはドラゴンには会わなかったらしい。
「寝ぼけてたんじゃねぇの?」
ゼットも馬鹿にしたように笑う。二人ともドラゴンには会っていない? じゃああれは、一体何だったんだ?
あのドラゴンの言葉が頭に蘇ってくる。
“さては貴様、悪魔にでも化かされているな?“
悪魔? どうして私が......。
私が考えこんでいると、モアとゼットがダンジョンの話題で盛り上がる。
「それにしても、ラスボスのゴーレムは手強かったね!」
「俺は閃光弾で視界を奪って倒したぜ」
「モアは水魔法で足を滑らせて動きを止めて出てきた!」
ゴーレムの話に花を咲かせる二人。
うーん、ゴーレム? いたかそんなの。
正直どのモンスターもパンチと木の棒スイング一発で倒したのでほとんど記憶がない。
「お姉さまは?」
「うーん、私は殴って倒した、かな?」
記憶が曖昧なので疑問形である。
「凄ーい! さすがお姉さま!」
モアが目をキラキラとさせて抱きついてくる。
「なんなのお前、オーガかなんかなの?」
ゼットが呆れ顔をする。うるさいやい!
それにしても、不思議なダンジョンだったな。
あのドラゴンは何だったんだろう?
*
それから少しして、タキシードを着たちょび髭おじさんが息を切らしてダンジョンから出てきた。
「ふう。私のダンシング・ファビュラス・ソードが効かないとは。ゴーレム、恐ろしい敵だった」
エレガントな仕草でハンカチで額を拭くおじさん。
ゴーレム、そんなに強かったか?
正直、全く記憶が無いんだけど……。
「あなたで最後です」
試験官のおじさんがちょび髭おじさんに告げる。
えっ? 私がダンジョンに入る前にはあんなにいたのに。
私はその場にいる人数を数えた。
ダンジョンに入ったのは二十五人だったが、無事クリアできたのは十人。
あとの十五人はクリアできず途中でリタイアしたと試験官のおじさんは告げる。
「ふむ、あの二人、また今年も駄目だったか」
ちょび髭おじさんが呟く。どうやら自分は受かったものの、連れの二人が落ちたらしい。
「またってことは、前にも受けてたの?」
モアが首をかしげる。
「ああ、あの二人は今回で三回目の受験で、僕も今回で五回目。五回目でようやく合格さ」
おじさんが笑う。どうやら、この試験は普通の人間にとっては思ったより難易度の高いものらしい。
「君たちは若いのにすごいね、初挑戦で合格するとは」
ちょび髭おじさんに褒められた私は乾いた笑みを浮かべた。
「いやあ、ははははは!」
……あの試験、そんなに難しかったのか?
なんだか全然実感ないんだけど!?