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第46話

 少しして、私たちはまた協会内の会議室に呼び出された。


 第一種冒険者カードと、タイムやモンスター討伐数のついたスコアシート、それから『冒険者の手引き』という小冊子が渡される。


 いよいよこれで試験終了かな?


「皆さんは今日から冒険者です。冒険者の名に恥じないようにうんたらかんたら……」


 試験官のおじさんによる長ったらしい説教が始まる。


 私がウトウトしていると、モアに袖をつっつかれる。


「お姉さま、お姉さま! 終わったよ!」


「……ん? ああ。終わったか」


 私が顔を上げるとゼットが駆け寄ってくる。


「バッカおめー、ヨダレたらして寝てんじゃねーよ!」


「ヨダレなんか垂らしてない!」


 言いながらも口元をぬぐうと、べっとりとヨダレの跡がついていた。


「やっぱ垂らしてんじゃねーか」


「うるさいなー」


 私がゴシゴシと唇をぬぐっていると、ゼットが前のめりに尋ねてくる


「ところでよ、お前のスコアどうだった!?」


 子ネズミのようにちょろちょろ周りを動き回ってるゼットがうるさかったので、私は黙って自分のスコアシートを渡した。


「ん」


「D2か。俺と同じだな」


 ゼットがびっくりした顔をする。


 びっくりしたのはこっちだ。


 まさかゼットがそこまで強いとは思わなかったから。


 てっきり甘ったれのお坊ちゃまだと思っていたのに。


 一般的に冒険者と言うのにはS~Dランクがあり、冒険者一種試験を突破した合格者たちはまずD1からD4までの四つの階級に分けられるのだという。


 『冒険者ハンドブック』によると、D1が一番上で一つか二つクエストをクリアすればCランクの冒険者に上がることができる。


 D2はその一つ下で、2個か3個クエストをクリアすればCランクに上がることができるのだという。


 ちなみに『勇者』と言うのは一般的にはSランクの冒険者を指すのだとか。


 ゼットが自分のスコアと私のスコアを交互に見て笑う。


「むむ、討伐数では負けてるけど、タイムは俺の方が早いな!」


 ゼットが胸を張る。


 そりゃ私は隠し部屋に入ったりドラゴンに会ったりと色々したからな。そう言おうとしたが、ぐっとこらえる。


 ゼットのスコアシートをみると、討伐数は38でタイムは28分。俺は討伐数は43でタイムは33分。


「そういえばモアは? どうだった?」


「わ、私は――」


 モアが困ったように笑う。


「なんだよ、見せてみろよ」


 ゼットがモアのスコアシートを無理矢理奪う。私もひょい、とそれを覗き見てみた。


 『測定結果:D1 タイム:15分6秒 討伐数:187』


 なんだこれ! D1だし。タイムも討伐数も俺やゼットと全然違う!


「モア、すごい!!」


「た、たまたまだよぉ~」


 困ったように首をブンブンと振るモア。


 すると試験官のおじさんがモアの肩を叩いた。


「今回の試験では君が一番の成績だった。君は素晴らしい才能の持ち主だ。こんな素晴らしいスコアは見たことがない。君ならスグにAランク、いやSランクに上がることも夢ではないよ」


「そ、そんな」


 モアは恥ずかしそうにする。周りの合格者たちも羨望の目でモアを見ている。


「すげー」

「あんな小さい女の子が!?」


 試験官のおじさんが私の方を向く。


「君も、妹を見習って頑張りたまえ」


 余計なお世話だ!


 「優秀な妹さんをお持ちのようで羨ましいね」


 と、これはちょび髭のおじさん。


 モアがしょんぼりとうつむく。


「モアなんか全然大したことないのに。お姉さまの方が凄いのに」


「そんな事ないさ! モアは凄いぞ!」


 私はモアを慰めた。


 フン、とゼットは胸を張る。


「ま、まあ俺は一匹づつ剣で倒してたけど、魔法で一掃できる魔法使いの方がそりゃ有利だわな!」


 それを言うなら私は素手とひのきの棒で戦ってたし!


「そ、そうだね、剣士より魔法使いの方が有利な試験だから仕方ないよ!」


 モアもそう言って笑う。


 いや……でもやっぱりモアはすごいと思うよ。

 だって他にも魔法使いはいるわけだし。


 こうして、冒険者試験は終わり、私たちは冒険者カードを手に宿屋へと戻ったのだった。


「なあ、お前、悔しくないのか?」


 途中、こっそりとゼットが呟く。


「え、なんで?」


「うちにも姉ちゃんたちが沢山いるんだけどさ、しょっちゅうどっちが上だ下だって姉妹で争っててさ、醜い嫉妬だらけだったけどお前のところはそうじゃないのな」


 私は少し考えた。そういえばモアと争ったことなんて記憶にない。だってモアは可愛い妹だし。


 でもよく考えてみると女同士だとそういう醜い嫉妬や争いがあってもおかしくないものなのかもしれない。


 ま、私は自分のこと男だと思ってるし、兄が妹と競ってもしょうがないからなあ。


「いや、今回はただ単に私の実力が足りなかっただけさ。これからクエストをどんどんこなしていって努力すればいいだけの話だ」


 私が笑うと、ゼットは感心したように頷いた。


「なるほど、マロンはお前のそういうところに惚れたのかもしれんな」


 えーっ、そうかなあ?


「まあいい。俺は帰ってマロンにお前よりタイムが良かったって自慢してやるんだ! じゃあな!」


 手を振って去っていくゼット。


「ばいばーい!」


 モアも手を振る。


 意外なことに、モアは結構ゼットの事を気に入っているようだ。


「なあモア、モアが男の子になつくなんて珍しいな」


 私が恐る恐る言うと、モアはきょとんとした顔をした。


「だってゼットって、お姉さまと少し似てない?」


「どこが!」


 その時、私の脳裏に浮かんだのはモアの舞踏会の時のあのセリフだった。


“モアはお姉さまみたいな人と結婚するの“



 ……まさかな。


 その時、なぜだか分からないけど、私は酷く胸が痛んだのだった。




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