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第48話

「さてと、とりあえずアオイとヒイロに関する手掛かりを探すか」


 私は宿屋に帰ると、ごろりとベッドに横になった。


「そうだね。でも宿代も食事代も思った以上にお金がかかるし、クエストをこなしながらのほうがいいんじゃない?」


 横ではモアが心配そうに財布の中身を見つめる。


 今の時期、フェリルは薔薇祭りを控え、どんどん観光客が増えている。それに伴い宿屋も食堂も武器屋も、薬草ショップに至るまですべて値上がりしてきているのだ。


 店側としてはそれで一年食べていけるだけの稼ぎが得られて万々歳だそうなのだが、大変なのは私たち冒険者だ。

 今のままではとてもじゃないがお金が持ちそうにない。


 それに今、私は素手で戦ってるけれど、できれば打撃系の武器が欲しいところなんだよね。

 一応軍手はしているけど、いちいち血だの体液だの付くのも嫌だし。


「そうだね。クエストをこなしながら、その合間を見てアオイとヒイロの手掛かりを探そう」


「うん」


 モアと二人でうなずき合う。


 そんなわけで、あくる日、私たちはDランクの依頼を受けに協会へと向かったのであった。


「ひいー、今日も混んでるなあ」


 なんだか日増しに協会を訪れる冒険者の数も増えているように思える。これも薔薇祭りの影響なのだろうか。


 壁際の依頼書をざっと眺める。簡単なダンジョンのマッピング任務や畑を荒らすモンスター退治なんかよさそうだ。


 私たちがめぼしい依頼を数件メモしてクエスト受付カウンターへと持っていくと、受付のお姉さんは首を横に振った。


「申し訳ありませんが、こちらのクエストはすでに受付終了いたしました」


「えっ? 全部?」


「はい。今の時期は宿も食堂も値上がりしておりますし、お金に困り複数のクエストを受け持つ冒険者の方も増えておりますので」


 どうやら話を聞くに、他の冒険者たちも同じような状況に置かれているらしい。


 特にDランクの依頼は二種免許でも受けられる上、他の依頼を受けながらでもこなせるものが多いため人気が集まっているのだという。


 アオイとヒイロのことがなければ、もっと物価の安い他の町に移動出来るのだがなぁ。


「早くCランクに上がらなきゃな」


 肩を落とす私にモアが提案する。


「そうだ! ロゼにも行ってみない? あそこにもクエスト依頼があったし」


 なるほど。あそこなら一種免許のヤツらしか入れないし、案外空いてるクエストがあるかも知れない。


「そうだな。行ってみよう」





 酒場・ロゼにつくと、そこでもやはり冒険者たちがクエストに群がっている。


 私たちはさっそくDランククエストの依頼を二人で物色することにした。


「これなんかいいんじゃないかな」


「そうだね」


 私は店員のお姉さんに声をかけた。この間対応してくれた三つ編みのお姉さん、アザミさんだ。


「この依頼を受けたいんだけど」


 依頼というのは、教会で聖水作りを手伝うというものだ。


 湧き水を運ぶ係と水を清める係の二人を募集していて、私は力に自信があるし、モアは水魔法と光魔法が使えるからいいと思ったのだ。


「あら、ごめんなさいね。その以来は少し前に打ち切られたの」


 アザミさんがすまなそうな顔をする。


「そうなんだ」


 やはり酒場もクエストを求める冒険者だらけで厳しいらしい。


「エルから聞いたんだけど、協会もかなり混みあってるみたいね」


「エルさんと知り合いなんですか?」


「ええ、私たち、同じ魔法学校を卒業したのよ」


 へえ、魔法学校で同級生かあ、いいなあ。私はずっと家庭教師だったし、前世でも病気がちだったから全然学校行ってないし。


 するとアザミさんが奥から1冊のファイルを取り出してきた。


「そうだ、代わりにこのクエストはどうかしら。今入ってきたばかりの依頼なんだけど、別荘にモンスターが出るから退治して欲しいって。依頼主が、男の人が苦手だから若い女の人が良いって言ってるんだけど、まだ誰も応募してきてないの」


 私とモアは顔を見合わせた。


「おおー、いいじゃん、それ受けようよ!」

「うん!」


 こうして私とモアは初めてのクエストを受けることになったのだった。





「ここか、例の別荘というのは」


 早速私たちはモンスターが出るという別荘にやってきた。


 辺りは薄暗く雑草に覆われ、蔦の這ったレンガ造りの壁は所々ひび割れている。


「まるでお化け屋敷みたい」


 モアが体を震わせる。お化けとか言うなよ! 怖いから!


「と、とりあえず入ってみよーぜ」


 玄関のベルを鳴らす。

 お化けが出やしないかとヒヤヒヤしながら待っていると、バタバタという足音がし、少しして扉が重々しい音を立てて開いた。


「いらっしゃい! 待ってたわ!」


 そこに立っていたのは栗色の髪をボブカットにし、たわわに実ったバストを揺らす少女、マロンであった。


「マロン!?」 


 どうしてここに!?


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