「ふう……」
私は湯船に浸かると大きく息を吐いた。
目の前にははち切れんばかりの白く大きなバスト。マロンがいた。
いくら女に転生したとは言え、モア以外の体を見るなんてなかなか無いから、少しだけ気恥しい。人の体をじろじろみるのもしつれいだろうし。
私が思わず目を逸らすと、横でモアが私の手をがっしりと握った。
するとマロンが私のほうへとにじり寄ってきた。
「うふふ、恥ずかしがらなくてもいいのよ? 女の子同士でしょ?」
そ、そうだけどさ……。
「そ、そろそろ出ようかな」
のぼせそうになった私が立ち上がると、モアとマロンが同時に叫んだ。
「私がお姉さまの背中を流すっ!」
「お姉様、お背中流します!」
二人は顔を見合わせる。
「ムッ……!?」
「ムムムッ!?」
モアとマロンが笑顔で見つめ合う。そしてしばらくにらみ合った二人は急に和解したようにこんなことを言い出した。
「半分づつ洗いましょうか♡」
「うん♡」
どうやら和解したようだ。良かった……のか?
二人がタオルと石鹸を持って私に近寄ってくる。
「モアが前を洗うからー、マロンは後ろね!」
「おっけー」
なんか勝手に役割分担まで決まってるし!
「さ、お姉さま、ここも洗おうね♡」
「ねえねえ、ココ、気持ちいい?」
思い思いに私の体を洗い始める二人。もー、好きにしてくれ!
*
お風呂から上がり、私が再びモンスター退治をしているとゼットがやって来た。
「なんかお前、ぐったりしてねーか? そんなにお湯が熱かったのか?」
「はは……そうかも……」
「少し休んでた方がいいんじゃね?」
いやいや、ただの気疲れだから!
「大丈夫」
「いや、ホントにマジで顔色悪ぃよ!」
そう言って俺を屋内へ引っ張っていくゼット。どうやらよっぽど顔色が悪かったらしい。
「のぼせたのかな。風呂場でモアとマロンが……」
そこまで言って、私は口をつぐんだ。そう言えば、コイツはマロンが好きなんだった。
ゼットはため息をつく。
「なあ、お前、マロンのことはどう思ってるんだ?」
真剣な顔で聞いてくるゼット。
「どうもこうも……だって、ほら、女の子同士だしさ」
私はポリポリと頭を掻いた。何でこうなるかなー、もう。
「じゃあお前は、マロンのことは何とも思ってないってことだな?」
「うん」
私の答えに、少し安心したような表情になるゼット。コイツ、本当にマロンの事が好きなんだな。
「ねえ、ゼットは何でマロンの事が好きなの?」
私が尋ねると、ゼットは照れたように笑った。
「ほら、マロンてすげー胸がデカイじゃん?」
やっぱ胸かーーーーい!!
「でもさマロンは絶対に露出度の高い衣装とかぴったりとした服とかを着ないんだよ。逆に胸がデカイのコンプレックスにしてていつもゆったりとした地味な服しか着ないんだよ。凄く慎ましやかで可愛いと思わないか!?」
「そ、そうだね……」
俺は言いながらも自分の服装を見た。
胸の谷間がガッツリ見えるシャツに太ももを思い切り出したミニスカート。見せパンとはいえパンチラもバンバンしてる。
自分としては布が少ないほうが動きやすいし、セクシーな衣装はカッコイイと思うのだが、女心というのはそう単純ではないらしい。
自分の体を見られることを気にする女の子も多いらしいし。
多分だけど、私は自分の体というよりもゲームで女キャラのアバターを操作しているような気分なんだと思う。
だから自分の体を見られることにもそんなに羞恥心が無いんだろう。
「まあ、この最近のマロンはちょっと違った感じに見えることは確かなんだが」
確かに、最近のマロンは慎ましやかというよりはずいぶんアグレッシブに見える。
「たぶん、あれが本来のマロンなんだろうな。領主の娘だからって、ずいぶん我慢してきたところもあったんだろう」
ゼットが落ち込んだようにうつむく。
ともかく、こいつはこいつなりに、マロンに対して本気なのだろう。
「ゼット……本気なんだね」
「おう、俺の思いは本物だぜ」
胸を張り堂々と言うゼット。私はゼットの手を取った。
「よし、分かった! そこまで言うなら、私はゼットの恋を応援する!」
「ありがとう!」
ゼットが私の手を握り返す。
すると、背後から冷ややかな視線を感じた。
「ゼット、お姉さまに何をしているの」
「へ……?」
振り返ると、モアが手を取り合う私たちを見つけ、血相を変えて走ってくるところだった。
「こ、こ、こ、こんな暗いところにお姉さまを連れ込んで二人きりで!」
わなわなと震え出すモア。今にも泣きそうな顔だ。
「うわーん、ゼットのバカ! お姉さまと仲良くしないで!」
「仲良くなんてしてない!」
「で、でも、ライバル同士だった男女がくっつくとか、少女漫画でありがちなパターンだし」
それはないと思うけどなあ。
「モ、モア、落ち着いて」
とりあえず私はモアを落ち着かせようと立ち上がろうとした。
途端、何かに足を取られ、私は地面に顔を強打した。
「……あてっ!」
「大丈夫か!?」
「お姉さま、大丈夫!?」
見ると、足元に何か植物のツルのようなものが絡まってる。
「ああ。何か草に足を取られたみたいだ」
私は足に巻きついたツルを外そうとした。が、取れない。それどころか引っ張るとツルは余計に強く巻きついてくる。
「あれ?」
何かがおかしい、そう思った時にはツルに引っ張られ、私は地面を引きずられていた。
「うわあああ!」
違う、ただの草じゃない。
モンスターだ!