「くっ……こいつ、モンスターか!」
暗闇の中、私は目を凝らした。目の前のモンスターはどうやら人面樹のようだ。
太い木の幹ポッコリと空いた苦痛にゆがんだ人間の顔のような洞。
幹から伸びる二本のツタはまるで腕のように伸び、鞭のようにしなって俺の足を捕らえる。
「クソッ、離せっ!」
ジタバタと足を動かしてみたがツタは余計にキツく絡まるばかり。思ったよりも硬いみたいだ。
「お姉さまー!」
仁毛受に絡み取られた私を見て、モアが悲鳴を上げる。
「何の、これくらい……!」
私ははツタを掴むと指に思い切り力を込めた。
「ふんがあああああ!」
ツタがブチブチと千切れる。無理やり指でツタを引きち切った私は、素早く地面を転がってツタから逃げた。
「大丈夫か?」
駆け寄るゼット。
「ああ」
私は息を切らせながら返事をした。だが安心したのもつかの間。今度はモアが足をとらえられ引きずられたではないか。
「きゃあああああ!」
「モア!」
こっ、このクソ木が! いくらモアが森の妖精よりも可愛いからって誘拐だなんてただじゃ置かない!
「クソッ、待てこの!」
私は全速力で人面樹を追いかけた。
「いやあああああ!」
悲鳴を上げるモア。
私は走って追いかけたのだけれど、人面樹はモアを捕らえたまま凄い勢いで裏庭から森の方へと逃げていく。
「大丈夫だよお姉さま。こんなのモアの魔法で......きゃあ!」
しかし杖を振り上げた右手はツタに絡めとられてしまい、カランコロン、と乾いた音を立ててクマちゃんステッキが地面に転がる。
ぎゃあああ。モアの杖がああ!
「モアを離せってんだこのクソ木がーー!」
私は全速力て走って人面樹に追いつくと、にょろにょろと蠢くツタに蹴りを入れた。
ツタはブチブチと千切れ、モアはゴロゴロと地面に転がった。
「うわーーん、お姉さまぁ!」
モアが私に抱き着いて来る。
「よしよし、怖かったね」
私はモアの頭を撫でてやった。
クソッ、モアの服が泥まみれじゃないか。膝まで擦りむいてるし。何て可愛そうなモア! 許さない!
怒り心頭な私をよそに、ゼットは冷静な顔をして剣を構えた。
「よーし、二人とも、ちょっち退いてな!」
ゼットの声に、私は咄嗟に人面樹から離れる。剣を振り上げ人面樹に向かっていくゼット。
「でやあああ!」
ブン!と空気を切る心地よい音。
剣は枝の部分にクリーンヒットし、枝は綺麗に幹から切り離された。
が、次の瞬間、斬られた枝は一気に再生し、またもやモアを狙った。マジか。どうやらこの木は切られても再生するようだ。
「あああああ」
再びモアが片方の足首を捕まえられる。ずるずると引きずられて行き、モアは悲鳴をあげる。ザン、ともう一度枝を切り落とすと、人面樹はしぶしぶ一歩後ろにさがった。
これは、茎の根元とかその辺を狙ったほうがいいかもしれないな。
「よし、みんなであのモンスターの根元を狙おう」
「分かった!」
ゼットが切り付ける。これはわりと効いたようだ。茎がぐらりと揺れる。
続いてモアの攻撃。火属性の魔法が人面樹を襲う。
オオオオオ……!
うめく人面樹はまだ倒れない。
攻撃力はあまりないが、防御力のやたら高いタイプの敵ようだ。
しかし流石に限界なのか、すごすごと森の奥へと逃げていく。
「見ろ、逃げていくぞ」
ゼットが人面樹を指さす。
「逃がすか! でやっ!」
私は人面樹に向かって飛んだ。背後から人面樹の幹を両手で掴む。そしてそのまま思い切り膝蹴りをくらわせでやった。
「おりゃあああああ!」
バギバキと音を立てて半分に割れる人面樹の幹。
「ギョワアアアアア」
人面樹は断末魔の悲鳴を上げた後しばらくのたうち回っていたが、その内動かなくなった。
「ふー、なかなかしぶとい敵だったぜ」
私は額の汗を拭った。
「ねえ、見てこれ」
するとモアが声を上げた。
「こんなところに、魔法陣が」
モアのしゃがみこんでいる地面を見ると、そこには紫色に輝く不気味な魔法陣があった。
何だろう、これ……。