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第53話

朝のひんやりと冴えた冷たい空気で目を覚ます。

人面樹を退治した私たちは、そのまま城に一泊し、無事に朝を迎えたのだった。


「おはよう」

「おはよう、お姉様。昨日は疲れたね」

「うん」


 モアとそんな話をしながら身支度を整え、リビングルームへと向かう。


 廊下には肉を焼く良い香りが漂ってきて、マロンが朝食を用意してくれていることが分かった。


「おはよう、マロン」

「わあ、美味しそうな朝ご飯!」


 私とモアがマロンの作った朝ご飯に目を輝かせていると、マロンはウフフと頬をほころばせて笑った。


「ありがと。お姉さまのために頑張っちゃった」


 そう言いながら、鶏のハーブ焼きとスープ、サラダを食卓に並べるマロン。


「うわあ、凄い豪華」

「いただきまーす」


 私とモアが挨拶をしてご飯を食べていると、マロンは目を細めてうっとりと私がご飯を食べる様子を見つめてきた。


「それにしても、やっぱりお姉さまは凄いわね。今朝から全然モンスターが出てこないのよ。草の伸びも普通になって助かるわ」


 私とモアは顔を見合わせる。


「そうなの?」

「じゃあ、クエストはこれでクリア?」


 すると寝ぐせ頭のままのゼットが伸びをしながらやって来た。


「あ、おはよう、ゼット」


 私が言うと、ゼットは少し渋い顔をした。


「おはよう。それよりマロン、モンスターはもう出ないって本当なのか? つまり、あの人面樹が異変の正体だったってことか?」


 ゼットが困惑した表情を見せる。


「いや、恐らくあの魔法陣だ」


 私が言うと、モアも頷く。


「そうだね」


「でも、なんでうちにあんな魔法陣があったのかしら」


 マロンが首をかしげる。


「それは分からないけど……」


 私が言葉に詰まると、モアがツンツンと私の肘をつついた。


「ねえ、これから協会の図書館に行ってあの魔法陣が何の魔法陣か調べてみようよ」


「ああ、そうだな。ついでに次のクエストも探してみよう」


 何せ私たちは金欠である。

 一つのクエストだけでは食べていけない。

 次々とクエストを引き受ける必要があった。


 するとマロンが慌てて私の腕にしがみつく。


「ええっ、そんなに急いで次のクエストを探さなくても、明日には薔薇祭りが始まるんだからここでゆっくりしていけばいじゃない! 薔薇祭りが終われば物価も落ち着くでしょうしお金にも困らなくなるわ!」


 マロンの言い分ももっともだ。だけど……。


「ありがとう、でも早くCランクに上がりたいし」


 私は笑顔でマロンの申し出を断った。そんなに長居をするのは悪いし、それにアオイとヒイロも探さなくちゃいけないし。


 そして私たちは冒険者協会のすぐ横にある図書館へと向かったのだった。


「お姉さま、あったよ。これじゃない?」


 モアが魔導書を広げ、該当ページを指差す。

 私はそのページを横からのぞきこんだ。


「魔力吸い上げの魔法陣か」


 魔導書に書かれた内容を要約すると、どうやらあの魔法陣は地中を流れる魔力を吸い上げどこかに送るためのものらしい。


 山や川、温泉のある地域の地下深くには、龍脈と呼ばれる地下水のように魔力が流れるエリアがあるという。


 あの魔法陣はそんな地下深くの龍脈を流れる魔力を汲み上げるため、地表付近の魔力値が上がり、植物やモンスターの異常発生に繋がっていたのだ。


「あの人面樹、やけに強いと思ったら地中から魔力を吸い上げて回復していたんだな」


「でもこの魔法陣は単独で用いるものじゃないみたい」


 魔導書によると一箇所から魔力を汲み上げるとその地域の魔力バランスが崩れるため、通常は六箇所から八箇所の龍脈から魔力を汲み上げるものなのだという。


「じゃあ、他にも魔法陣があるって事だな」


 私たちは魔法陣のうちの一つを壊してしまった。

 その影響で、付近の魔力量のバランスが崩れてしまうかもしれない。

 ただでさえ今、フェリルにはたくさんの人が集まっている。

 そんな中で大きな魔力の変動があったらどんな災害が起こるか分かったものじゃない。


「他の魔法陣も探して全部壊さないと」


 私たちは図書館で更に周辺地域の龍脈を調べると、龍脈を辿ってあちこちの山林を歩き回ることにした。



「あったぞ! ここにも魔法陣が!」


 協会から西へ少し入った山中に二つ目の魔法陣はあった。  私は河原の石の上に光る魔法陣を靴の裏で擦って消し去った。


「案外近くにあったね」


「この分だと他の魔法陣も近くにあるかも知れん」


 私たちが更に探索を続けると、他にも三ヶ所、計五箇所の魔法陣を見つけた。


「五箇所か。通常は六箇所と書いてあったんだが」


 するとモアが地図を見て何かを考え始めた。


「ねえ、もしかして、この魔法陣を線で繋ぐと六芒星になるんじゃないかな」


「何ッ!?」


 モアの推理通り、魔法陣のあった場所を線で繋いでみると、星の形になった。そして、その六個目の角に当たる場所は……!


「教会か!」


 六個目の角は、街で一番大きな教会の位置とぴったり重なった。

 ということは、この教会に魔法陣がある可能性が非常に高い。


「でも、教会の下には龍脈はないはず」


 図書館で書き写したこの地域の龍脈図と街の地図を見比べると、横でモアが真っ青な顔をして言った。


「ねえ、お姉さま、もし龍脈以外から魔力を吸い上げているのだとしたら?」


 魔力を得る方法は龍脈から吸い上げる以外に複数ある。一番一般的なのは、魔石という魔力を含んだ鉱石を使うやり方。だが魔石は非常に高価で、魔力効率も悪い。


 その他に一般的なのは、生贄である。


 特に力が弱く体に魔力を溜め込みやすい子供は生贄にはうってつけだ。


 もし、この街からいなくなった子供たちが、大量の魔力を得るために生贄にされているのだとしたら――?


「まさか!」


 悪い予感が頭を支配する。私たちはその足で教会へと向かった。





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