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第56話

「お姉さま!」


 アオイが私の顔を見てホッとした顔を見せる。


「アオイ! ヒイロ! 大丈夫か!?」


 私は二人に駆け寄った。アオイは無事そうだがヒイロは目をつぶってぐったりしたままだ。


「ヒイロ?」


 まさか――と私が最悪を想定していると、アオイは笑って首を横に振った。


「大丈夫です。ヒイロ姉さんは眠っているだけで。こうなると中々起きないんですよ。姉さん、姉さん!」


 アオイがヒイロを揺り起こすと、ヒイロは寝返りを打ちながらこんなことを口にした。


「うーん……駄目だ!男の子がそんなに短いスカートだなんて」


 私とモアは顔を見合わせた。


「寝ぼけてる?」

「なんつう寝言だ」


 私たちが呆れ返っていると、ようやくヒイロが目を覚ました。


「わっ、あんた達、どうしてここに」


 それはこっちのセリフだ!


 私たちがそれまでの経緯をアオイとヒイロに説明すると、二人は納得したように頷いた。


「なるほど。私たちもこの教会を調べていたんです」

「妖しい魔力の動きがあったからな。でも油断して捕まってしまって」


 ヒイロが悔しげな顔をする。

 油断していたたとはいえアオイとヒイロが捕まるほどの敵だ。かなりの強敵かも知れない。


 そんなことを考えながら、私たちは五人で部屋を出ることにした。


「向こうの部屋に子供たちが監禁されているはずです」


 アオイとヒイロの指示通り隣の部屋へ向かう。


 扉を開けると、憔悴しきった子供たちが狭い部屋にひしめき合っていた。

 どうなってんだ。行方不明になっている子供たちは十数人と聞いていたが、明らかに二十人以上はいるぞ、これ。


「お姉ちゃん!」


 その中の一人が声を上げる。昼間会った少年だ。


「おい、お前、どうしてここに?」


「分からないんだ。笛の音が聞こえたと思ったら、いつの間にかここにいてよ!」


 少年はキョロキョロと辺りを見回す。


「どういう事だよ......里親が決まったって、孤児院から居なくなったヤツまでいるしよ」


「そうなのか」


 恐らく、奴は町から子供を攫うだけではなく、孤児院の子供たちも生贄にしようとしているに違いない。


「恐らく孤児や身よりもない子どもたちも集めていたのでしょうね」


 アオイが眉をひそめる。


「とりあえず、子供たちをここから逃がそう」


 私たちが子供たちの縄を解き、逃がしてやると、昼間見た少年が私のところに来てこう言った。


「あれ、ミヨは? お姉ちゃん、ミヨを見なかった?」


「ミヨ?」


「ほら、昼間会った」


「ああ、あの子か。見てないけど」


 私が言うと、少年は不安げにうつむいた。


「そっか。じゃあ、ミヨは誘拐されてなかったのかな?」


「分からない。けど......」


 何だか嫌な予感がした。


「じゃあ、他の部屋にいないか探してみるよ。お前は誘拐された他の子供たちのことを頼む」


 そう言うと、少年は手際よく誘拐された少年少女たちを逃がし始めた。


「この子供たち全員を生贄にするつもりだったのかな?」


 モアが険しい顔をする。


「でもよ、そんなに魔力を集めてどうするつもりだったんだ?」


 と、これはゼット。


「決まってる」


 ヒイロがそう言いかけた瞬間、コツコツと靴音が冷たい地下の廊下に響いてきて私たちはハッと口をつぐむ。


「まずい、誰か来るぞ」

「どこかに隠れよう」


 だが私たちが逃げようとしたその時、扉が重い音を立てて開いた。


「おやまあ、誰かと思ったら、昼間のお嬢さんではないですか」


 見つかった!


 笑顔でそこに立っていたのは、昼間あったシト神父だった。ぞくりと背筋に悪寒が走る。


「貴様! 神父のくせに子供を攫うなんて、どういう了見だよ!」


 ゼットが叫ぶと、シト神父はニコニコと不気味な笑顔のまま続ける。


「決まってるじゃないですか、明日は薔薇祭りですよ?」


 カタカタと換気扇が回る音。私は思わず後ずさりをした。


「鏡の悪魔を呼び出すために決まっているじゃないですか」


 不気味に赤く光る神父の目。


「貴様......!」


「一体どうして、聖職者であるあんたが悪魔を呼び出そうだなんて!」


 ゼットが叫ぶと、ふうと神父は遠い目をした。


「仕方ないんだよ。私が聖なる力を手に入れるためには必要なことなんだ」


「何だと?」


 神父は語る。


「私の家は代々聖職者の家系でね。光魔法でこの地域の人々に貢献してきたんだ」


 シト神父の話によると、彼は代々光魔法を使う家系に生まれたのだという。

 しかし、後継ぎとして生まれた彼に宿っていたのは闇属性。光魔法の才能はシト神父には宿らなかった。

  彼の父親は失望し、シト神父は冷遇され、迫害されながら育って来たのだという。

 そんな折、神父の父親は急死。神父は闇属性でありながら聖職者を継がねばならなくなったのだ。


「これまでは光属性の魔力石を使ったり、光魔法を使う冒険者に頼んで手伝ってもらってなんとか凌いでいたが、それも莫大な費用がかかる」


「それで鏡の悪魔の力を使って闇属性を光属性に変えてもらおうっていうのか」


「そうさ、その方が効率が良いからな」


 まるで悪びれる様子のない神父の表情。


「そのためには子供たちを犠牲にしてもいいっていうのか!?」


 私が尋ねると、神父は肩をすくめる。


「だが私が光属性を手に入れれば町の皆さんや冒険者の皆さんは安心して教会の恩恵を受けられる。それを思えば些細な犠牲ではないですか?」


 こいつ……狂ってやがる!


「それを邪魔するなんて、タダで返すわけにはいきません」


「何言ってるんだ。こっちは五人だぞ? 観念しろ!」


 ゼットが腰から剣を抜いて神父に突きつける。その瞬間――。


「ぐっ」


 ゼットの肩から鮮血が吹き出した。


「ゼット!」


 ゼットの背後にいたのはシスターのゼラだった。

 彼女はナイフをゼットの肩から引き抜くと、生気の無い顔でにやりと笑った。


「シスターゼラ?」


「くケケケケケケ」


 ゼットを刺したシスターはあらぬ方向を見ながら不気味に笑う。


「な、なんだこいつ! おかしいぞ」


 ゼットが肩を抑えながらシスターから離れる。


「ああ、安心してください。その方はもう亡くなっていますので」


 シト神父は、まるでその事実が何でもない、些細なことであるかのように、穏やかに笑ったのだった。


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