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第57話

「なっ――」


 死んでる? このシスター、アンデッドなの!?


 私たちが驚いていると、シト神父は目を不気味に細め可笑しそうに笑う。


「昔から闇魔法だけは得意なんですよねぇ、困ったものです」


 こいつ、完全に狂ってる。


 私はギリリと歯を食いしばった。


「まさか、このシスターもあんたが殺したのか?」


「ああ、そうだよ。そいつは私の方針に逆らったからね。他のシスターたちもそうだ」


 さもないことだとばかりにシト神父があっさりと教えてくれる。


 あまり見たくはないが――私はシスターゼラの血の気の失せた顔をまじまじと見た。


 死人なのだそうだが、顔だけ見れば全く普通の人間と区別がつかない。まだ若い、利発そうな顔に心が痛む。


 私はキッとシト神父を睨んだ。


「この腐れ外道が」


「何とでも言いたまえ。さ、シスターたち、出ておいで。パーティーの時間だ」


 神父が指をパチンと鳴らすと奥の部屋から青白い顔をしたシスターたちが現れる。


 そう言えば、シスターは三人いるとか言ってたっけ。


「がアアッ!!」


 奥の部屋から現れた、かつてシスターであったであろうその存在。


 一人は顔は腐り落ち、骸骨に腐肉が辛うじてついた状態で手足は草に覆われている。


 もう一人は、顔があった場所はうろの空いた木の幹に完全に変化し、手足のあった場所は根や茎になり、完全に人面樹と成り果てている。


 修道服を着ていなかったら、元がシスターだったとは誰も気づかなかっただろう。


「この場所は特に木属性の気が強いからね、こんな風になってしまったんだよ。難しいねえ、蘇生魔法も。でもこの方が腐った臭いなんかもしなくていいから、かえって良かったかもしれないけどね。さすがに人前には出せないけどさ」


 無邪気に解説する神父。


 一人のシスター、いや、シスターだったモノがモアに襲いかかる。


「いやあっ!」


 モアが叫び、クマさんステッキを振ろうとする。

 ヤバい。こんな狭い地下室で、モアが魔法を使ったりしたら大変なことに……!


 しかし、モアが魔法を発動する前に、ゼットが人面樹と化したシスターを切り捨てた。


「よし、ナイスだゼット!」


 私がガッツポーズをすると、ゼットが自慢げにドヤ顔をする。


「だろ?」


 そんなゼットの背後から、今度はシスターゼラが再度ナイフで襲いかかる。


「危ない!」


 私はとっさにシスターゼラの腹にパンチを食らわせた。崩れ落ちるシスターの体。


「ガアッ!」


 最後に残った一体がヒイロに襲いかかる

 ヒイロは一刀両断、その首を刀で切り落とした。


「これでシスターどもはやっつけたか」


 私が一息ついていると、モアが辺りをキョロキョロと見回す。


「でも、あの神父さんは?」


「え?」


 私たちがシスターの相手をしている間に、いつの間にかシト神父の姿は消えていた。


「どこだ?」


「奥の部屋へ逃げたようです!」


 アオイが廊下を指さす。


「外じゃなくて奥へ?」


「もしかすると、何かの罠かも知れませんね」


 私たちは、慎重に奥へと続く鉄のドアを開いた。


 錆付いたような匂いが出迎える。松明で照らされた部屋の中央には、赤い物で満たされた大きな水槽、そしてその手前には真っ赤に光る魔法陣があり、魔法陣の中には数人の女の子が倒れていた。


 私は倒れている少女のうちの一人に目をやる。昼間会った少女、ミヨちゃんだ。


「ミヨちゃんっ」


 私が駆け寄ろうとしたところ、背後でバタン、と鉄の扉が閉まった。


「驚いたかい?」


 水槽の後ろから神父が現れた。


「私の秘密の研究成果だ。キミたちにも見てもらおうと思ってね」


 研究成果?


「これはまさか」


 アオイの表情が曇る。


 その表情を見て私も察した。シト神父が撫でているその巨大な水槽。そこに貯められた赤黒い液体の正体に。


「まさか血?」


「ご名答!」


 私の答えに、シト神父は子供のように無邪気に喜んだ。


「そいつは子供たちから集めた血だ。ここには特別に魔力の強い子供ばかり集めている。私特製の魔力貯蔵庫さ!」


「なっ……」


 まさか、この赤い液体がすべて血だなんて。


「まさか孤児院もそのために作ったのかよ」


 ゼットの問いに、シト神父は答える。


「ええ。身よりもない子供たちです。それぐらいしか役に立たないから、仕方ないでしょう」


「ねえ、お姉さま、あれ」


 モアが真っ青な顔で俺の袖を引っ張る。


 モアの視線の先へ顔を向けると、部屋の隅の暗がりに、小さな骨が散乱していた。


「ま、まさか人間の骨?」


 そう、生きている人間からちょっとやそっと血を抜いたぐらいじゃこんなに大量の血液は集まらない。


 この様子を見るに、こいつはかなり前から孤児院の子供たちを殺して魔力源にしていたに違いない。


「ちょっともったいないけど、邪魔をされると困るから、ここの魔力を使うとしよう。子供たちはまだ沢山居るしね」


 私たちがあ然としていると、神父は両手を広げ、何かの呪文を唱え始めた。


「何?」


「お姉さま、気を付けて!」


 モアが叫ぶと同時に、剣のように太く尖った植物の根が足元の床板を突き破って、生えてくる。私はそれを紙一重で避けた。


「何だこれ!」


「お姉さま大丈夫?」


 モアがこちらへ駆けてくる。


 瞬間、足元でまたしても何かが蠢いた。


「モア、こっちへ来ちゃだめ!」


「へ?」


 私の声に立ち止まったモア。しかしそこへ、強烈な木の根による一撃。モアは跳ね飛ばされ、床板に転がった。


「モア!」


 私はぐったりと動かなくなってしまったモアに駆け寄った。良かった。気絶してるだけみたいだ。


 横でゼットが剣を構える。


「貴様!」


「許さない! 紅蓮暗……くうっ!」


 なんかカッコイイ技名を詠唱してたヒイロとゼットも木の根ではね飛ばされる。


「なんだ、弱いんですね、キミたち」


 くすくす、とシト神父が無邪気に笑う。

 その下半身は大木と融合し、異形の化け物と化していた。


「貴様っ!」


 ヒイロがうめく。


「許さない!」


 私は叫んだ。

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