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第61話

 そして薔薇祭りが始まり、私たちは皆で繁華街に繰り出した。

 街には至る所に薔薇が飾られており、屋台やら歌い踊る人やらで活気に満ち溢れている。


「オルドローザの言うことにゃ~」


 また例の歌だ。初めは良く聞き取れなかったが、白い龍がどうのとか、勇者がどうのとか聞こえる気がする。あとでちゃんと調べてみないと。


「あー、串焼き食べたい!」

「ベーコンポテトも美味しそう!」


 はしゃぐモアとマロン。

 私たちは屋台でたらふく料理を食べたあと、町の中心部にある広場へと向かった。


 かがり火が赤々と燃え、軒先の鏡に反射する。ギターを引くおじさん、歌うおばさんに、花を頭に飾り踊る町娘たち。なんだか私もワクワクしてきた。


「お姉さま、踊りましょう!」


 モアが笑いかけてくる。


「いいけど、こういうのは男女がペアになって踊るんじゃないの?」


 私が言うと、視線がゼットに集まる。

 そういえばこの中で男の恰好をしているのはゼットだけだ。


「ハッ、よく考えたら俺、ハーレムじゃないか。しかもみんな美人だし」


 嬉しそうな顔をするゼット。私は呟いた。


「誰一人としてお前のこと好きじゃないけどな」


「お前、そんな悲しいこと言うなよ」


 それに一応アオイは男の子だしな。


 私たちがそんなやり取りをしていると、後ろから声をかけられる。


「あら? あなたたちは確か冒険者の」

「事件解決おめでとう! 随分活躍したみたいじゃない!」


 声をかけてきたのは、冒険者協会のエルさんとロゼのアザミさんだ。

 二人とも白と黒の伝統衣装を身に纏っていて可愛らしい。

 そう言えば、二人は同じ魔法学校だったとか言ってたっけ。


「ありがとうございます」


 私たちが頭を下げると、エルさんが踊りの輪を指さす。


「踊らないの?」


 私は苦笑しながら答えた。


「うーん、どうしようかな。ほら、私たち女の子ばっかりだし」


 私の返答に、アザミさんはクスリと笑った。


「まあまあ、男の子とか女の子とか、そんなのどうでもいいじゃないの。こういうのは適当に楽しめばいいのよ」


 そう言って、アザミさんはエルさんの手を取り、腰に手を回してクルクルと踊り出す。


「あなたたちも、楽しんだ方がいいわよ!」


 そんな風に笑う二人は何だかとっても可愛らしかった。

 それを見て、とりあえず私たちも適当に踊ることにした。


「そうよね。女の子同士のほうが暑苦しく無くていいし。だからお姉さま、私と踊りましょう♡」

「駄目―っ! お姉さまはモアと踊るの!」

「お姉さま、私とも♡」


 男の子であるゼットそっちのけで私に群がってくる女子たち。

 仕方ないので、私は順番に女性陣と踊ってやった。


「……ちぇ、みんなミアがいいんだから」


 落ち込むゼットに、ヒイロが言う。


「私は別に、ミアは何とも思わない」


「おおっ! じゃあ、俺と踊ってくれるか!?」


 食いつくゼット。しかしヒイロは冷たく言い放った。


「踊りは嫌いだ」


 見かねたアオイがゼットの前に立ち笑顔で手を差し出す。


「では、次は私と踊ってくださいませんか?」


「あ……ああ。はい」


 ゼットは照れたように赤くなり、アオイの手を取る。

 アオイが男だとも知らずに……。


「あれ?」


 ゼットの手を握ったアオイが首をかしげる。


「へっ!?」


「ここ、怪我してますね」


 見るとゼットの手の甲にひっかき傷のようなものがある。


「ああ、昨日シスターと戦ったときに……」


「では、治療しておきますね」


 アオイの手が、ゼットの手のひらを包み込む。白い光が沸き上がり、ゼットの傷は見る見るうちに治癒していった。


「さ……サンキュ」


 始終ぽーっとした顔でアオイと踊るゼット。おいおい、大丈夫か? と思ったが、案の定、踊り終わると、ゼットは真っ赤な顔をして俺のところにやってきた。


「……決めたぜ。マロンのことはお前に譲る」


「へっ?」


 その唐突な申し出に俺は戸惑う。そしてゼットはこぶしを握るとこう宣言した。


「俺はアオイちゃんを幸せにすると決めたぞ!!」 


 ……えーと??


「アオイちゃん……なんておしとやかで美人で気が利くんだ。おまけにスタイルもいいし、近づくとすごくいい匂いがした……」


 恍惚とした顔でアオイのことを語るゼット。

 どうしよう。アオイは男なんだと教えるべきか? すると、ヒイロが急に手招きした。


「アオイが男の子だってことは黙ってこのままにしておこう」


 嬉しそうに笑うヒイロ。


「えーっ? でも」


「いいじゃない。このままにしておいた方が面白い」


 面白い?

 私はデレデレと鼻の下を伸ばすゼットの顔を見た。


 ……まあ、確かに面白そうだな。


「分かった、内緒にする」


 するとモアが私のことを呼ぶ。


「お姉さま―、次モアとー!」


「はいはい!」


 とりあえずゼットよりモアだ! 私はモアのもとへと走った。

 すると、急にモアが空を見上げてキョロキョロしだした。


「どうした? モア」


「今何か」


 モアは空を見上げた。冷たい風が森の木を揺らす。


「今何か.……笛の音が聞こえたような……」


 雲行きが怪しくなってきた。ポツポツと雨がちらついてきたのだ。

 こうして私たちは薔薇祭りを堪能し、マロンの別荘に戻ったのだった。



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