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第65話

 見つけた部屋は、私が冒険者試験の時に見た、あの隠し部屋であった。


 すると部屋の隅に、以前は無かった大きな檻があるのに気づいた。床には真っ赤な魔法陣が描かれており、中央にはモアが倒れている。


「モア!」


 赤く毒々しく光り続ける魔法陣。私は直感的に、それはモアの魔力を吸い上げ鏡に送るためのものだと分かった。


「モア、大丈夫!?」


 私モアに駆け寄ろうとしたその時、部屋がぱっと明るくなった。


「よく来たわね。まさかここを嗅ぎつけられるとは思わなかったわ」


 現れたのは、銀色のツインテールにメイド服を身にまとった女の子。


 この子、見覚えがあるぞ!


「あ、あなたはグンジおじさんの所にいたメイド?」


 兄さんの暗殺未遂の時にいたメイドだ。ええと、名前はシュシュ、だっけ。


「あら、覚えていてくれて嬉しいわ」


 シュシュはにっこりと、妖しい瞳で微笑んだ。


 モアを攫ったのは、グンジ叔父さんの屋敷にいたメイド、シュシュだったのだ。


「知り合いか?」


 ゼットがシュシュを指さす。


「ああ。以前叔父さんが兄さんを暗殺しようとするっていう事件があったんだけど、その関係者だ」


 あの事件の後、行方が知れないと聞いていたが、まさかフェリルにいたとは。だけど、なぜシュシュが鏡の悪魔を呼び出そうとしてるんだ?


「お姉さま!」


 するとモアが目を覚ます。私は急いでモアの元へと駆け寄る。


「モア、無事だったのか!」


「お姉さま、モアは大丈夫」


 力なく微笑むモア。どうやら怪我は無いみたいだが、その表情には疲労の色が見える。モア、辛かったんだな。


「待ってて、今助け……」


 だけど私が檻に触れると、バチリと音がし火花が飛び散った。どうやら檻に何か魔法がかかっているらしい。


「あらお姉さま、勝手に動いちゃ駄目よ」


 シュシュがパチン、と指を鳴らす。すると、赤く光る棒状の物体が現れ、私の周囲をぐるりと囲った。


 私もまた、モアと同じように檻に入れられたのだと気づいた時には既に遅く、檻をどかそうとした俺の指に、ビリリと電流が走る。


「お姉さま!」


 モアが悲痛な叫び声をあげる。

 私は舌打ちした。


「クソッ、あんたの目的は何なんだ。なんでモアにこんなことを? モアを返せ!」


 私が問い詰めると、シュシュはやれやれと肩をすくめた。


「そんな怖い顔をしないで」


 そして、シュシュは告げた。


「私はあなたのいとこなのよ」


「な……」


 意味が分からず絶句していると部屋に入って来たアオイが険しい顔をした。


「まさか、あなたはグンジさまの娘なのですか?」


 シュシュがグンジ叔父さんの娘!? 


 私眼を見開いてシュシュを見ると、シュシュはおかしそうに笑った。


「そう。私はグンジ様が昔仕えていたメイドに産ませた子供なの。世間的には隠されていたけどね」


 シュシュが真っ赤な唇で妖しく微笑む。


「グンジ様は言ってくださったわ。計画が成功したあかつきには正式に娘として認めてくれるって。お姫様にしてくださるって! でも、計画はぶち壊しになり、私は追われる身になったのよ……」


「それで『鏡の悪魔』を使って運命を変えようとしていたのね。陛下とグンジ様の立場を入れ替えて自分が姫に」


 ヒイロが言うと、シュシュは首を振った。


「いいえ。初めはその予定でしたけど、今は気が変わったわ」


 潤んだ瞳で私を見つめるシュシュ。

 私はビクリと肩を震わせた。


「私、お姉さまのこと、すごく気に入ってしまったの。お姉さまを苦しめるのは嫌。だから......」


 モアを横目でちろりと見るシュシュ。


「だから、作戦を変えたの」


 シュシュは高いヒールをカツカツと響かせ歩いてくる。

 思わず後ずさると、シュシュは蕩けそうな瞳でこう言った。


「私があの子と入れ替わって、私がお姉さまの妹になるのよ」


 なんだって!?



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