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第64話

 私たちはその後も、草木をかき分けて森の中を進んだ。


 モアは一体どこにいるんだろう。


 そうしている内に、雲が出てきて空が段々暗くなってきた。

 するとヒイロが、私の指輪を指さす。


「そういえばその指輪、光ってないか」


「本当だ」


 見ると指にはめていた悪魔の模様がついた指輪から真っ直ぐに、遺跡の中央部にある四角い棺桶のような石へ白い光が伸びて行っている。


「まさか、モアのいる場所を指し示してるの?」


 もしかして、ずっと光っていたけど明るかったから分からなかったのかな。


 私たちは、慌てて光の指し示す方向を目で追った。


「もしかして、この石に何かあるのか?」


 ゼットが石を持ち上げようとする。


「ぐっ、全く動かねえ」


 石がびくともしないのを見て、私も石に手をかけ、ゼットとと二人がかりで持ち上げることにする。


「いくぞ!」


 私は腕に力をこめた。と同時に石は軽々と宙に浮き、その下から真っ暗な地下へ続く階段が現れた。


「なんだ、そんなに重くないじゃないか」


 私が拍子抜けしながら言うと、ゼットは顔を真っ赤にした。


「いや、重いって! お前が異常なの!」


「さすがです~お姉様!」


 アオイが私を褒めるのを見て、ゼットは少し悔しそうな顔をする。それを見て、私は少し優越感にひたった。


 まあ、アオイは男の子なのだが。


 地下に続く階段を下りていく。苔むした白い石組みの階段は、かなり古い時代のもののようだ。


 こんなの「迷いの森ガイド」に書いて無かったよな、と思っていると、暗闇からひゅん、と何やら鞭のようなものが降ってくる。


「いたっ」


 私はとっさに打ち込まれたその細長い物体をつかんだ。するとそれは、草のツルであった。まさかまた人面樹か?


 私がさらにツルを引っ張ると「ギャッ」という細い声がし、蛍のような小さな明かりがともる。ぼうっと辺りが明るくなった。


 同時に私に攻撃してきたモンスターの正体も明らかになる。


 私たちを囲むように飛ぶ羽の生えた一団。それは緑色の髪と服、手にはスズラン型のランプを持つ、小さな妖精であった。


「ドリュアスか!」


 ゼットが剣を構える。どうやら木の妖精らしい。


 私も一応斧を構えるんだけど、あからさまにモンスターっていう見た目ならともかく、こういう小さくて可愛い女の子型モンスターは傷つけるのに戸惑う。


「ハッ!」


 するとアオイが組紐くみひもを取り出す。紫の組紐が蜘蛛の糸のようにドリュアスたちを絡めとる。


「さ、先を急ぎましょう」


 すごい。組紐って便利だなあ。


 すると、そのうちの一匹が組紐から運良く逃れて飛び立っていった。


「逃げたぞ!」


 私たちが微かな灯りを追って、どんどん階段を降りていくと、ドリュアスの姿は岩壁の中へ吸い込まれ、カラン、と小さなランプが地面に落ちた。


「どこへ行ったのかな」


 私が辺りを見回していると、ヒイロが壁を指さす。


「なんか今、この壁の中に吸い込まれたように見えたけど?」


「そんな馬鹿な」


 しかし、指輪の光も壁の先を指差している。見ると壁のその部分だけ色が変わっている。隠し通路かもしれない。


 私は壁を思い切り押した。


 壁を押した先にあったのは、小さな部屋だった。かび臭い石畳の床。暗闇に浮かび上がる大きな鏡。


「あれっ? ここは……」


 その部屋には見覚えがあった。


 そこは私が冒険者試験の時に見た、あの不思議な隠し部屋であった。



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