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第63話

「これは、モアに買ってあげたネックレスだ!」


 私はビーズで出来た木の実を拾い上げる。


 もしやと思い辺りを探して見ると、裏庭にもキラキラ光る木ノ実が落ちている。


「もしかして、モアが私たちに手がかりとしてこれを残して行ったんじゃないか?」


 皆にネックレスの欠片を見せる。


「あり得るな」


「そうですね」


「よし、みんなで森に探しに行こうぜ!」


 そんなわけで、私たちは四人で迷いの森へと出かけることとなった。


「お姉さま、お気をつけて」


 マロンが大量の薬草を持たせてくれる。

 わざわざ買出しに行ってきてくれたらしい。


「それから、うちの蔵にも使わなくなった武器や防具がいくつかあるの。さっきたまたま鍵を見つけてね。もし良かったら持って行って」


「うわー、いいの? ありがとう」


「私は、これくらいしか出来ないから。みんなみたいに戦えれば良いんだけど」


 ションボリとするマロン。


「そんなことないさ、助かるよ」


 私がマロンの頭をポンポンとするとマロンが恍惚とした表情になる。


「そっ……それじゃあ、こちらにどうぞ!」


 マロンに案内され、私たちは勝手口の横にある蔵を開けた。


 錆び付いた扉にかび臭い匂い。そこには武器や防具がずらりと並んでいた。


「へえ、こりゃ凄い」


 私たちは薄暗い小屋の中で箱をゴソゴソと漁ってみた。大半は錆びてボロボロだが、中には一度も使って無さそうな新品もある。


「マロン、俺はこれ貰っていい?」


 ゼットが銀色に鈍く光る胸当てと小手を手に取る。


「いいわよ」


 私も使えそうなのを探したが、鎧や防具の類はほとんど男物のようだ。


「じゃあ、私はこのナイフでも」

「私はこの指輪を」


 アオイとヒイロもそれぞれ一つづつ蔵から貰っていく。


「ええと、私は」


 迷っていると、アオイが蔵の奥から声をかけた。


「お姉さまー、これはどうです?」


 箱の中に入った何かの取っ手を指さすアオイ。


「あー、でもこれ、重いですかね」


 しかしアオイの腕力では持ち上がらないようだ。


「どれどれ」


 すかさずゼットが助けに行く。あいつ、アオイにいい所見せようとしてるな。アオイは男なのに。


「ぐわっ、本当だ。こりゃダメだ、重すぎる」


 ゼットが持ち上げたのは巨大な斧だった。

 辛うじて持つことはできたものの、プルプルと腕が震えている。これを振り回すなんて論外って感じだ。


「どれどれ」


「無理だって重いから!」


「いいから」


 私はゼットから斧を取り上げた。


「あれ、そんなに重くない」


 しかし、あんなにゼットは重たがっていたのに、私が手に持つと全然重くなかった。


 いや、普通の斧に比べたら確かに重いが、持てないってことはないし余裕で振り回せる。


 私がブンブンと斧を振り回すと、ゼットは青い顔をして言った。


「ば、化け物かお前!」


 誰が化け物だ!

 確かにちょっぴり、他の人よりは力が強いかもしれないけどさ!



* 



 こうして装備を整えた私たちは再び迷いの森に入ったのであった。


「見て、ここにも木の実が」


 ヒイロが森の中でしゃがみ込む。


 すると、気の上から蛇型モンスターが落ちてきた。


「危ない!」


 私が斧をぶん回すと、蛇の頭は軽々と切り落とされ、地面に落ちた。


 無骨な見た目に反し、どうやら切れ味のいい斧のようだ。


「ありがと」


 ヒイロが照れたように言う。


「なんのなんの。それより、拾ったビーズを見せて」


 私はヒイロからビーズを受け取った。間違いない。私がモアに買ってあげたあのネックレスだ。


「間違いない。モアはここを通ったんだ」


 私はギュッとビーズで出来た木の実を握りしめた。


 モア、一体どこにいるんだろう。無事なんのかな。

 怪我していたり、怖い思いをしていたらどうしよう!

 そう思うと、何だか胸が苦しくなって、思わず涙を浮かべてしまう。


「お姉さま、きっとモアちゃんは平気ですよ、そんなに気を落とさないで」


 アオイが私の背中を叩いて慰めてくれる。


「そうだ。無事に決まってる」


「そうだそうだ!」


 ヒイロとゼットも私を慰めてくれる。


「ありがとう」


「フン、あんたにクヨクヨされちゃ、調子が狂う」


 ヒイロが照れたように髪をかきあげる。ゼットも笑う。


「そうそう、元気が一番!」


 ううっ、皆、いい奴だなー。


 そんなこんなで私たちがさらに先へと進むと、緑の木々や、ツタの中に、苔むした白い巨石群が現れた。


 それらの配置をよく観察すると天井はとうの昔に崩れ落ちたが、神殿の形をしていたのだろうということが分かる。


 きっと古代の人々は、ここで古の神々を祀る儀式を執り行っていたに違いない。

 実にロマンをそそられる、神秘的な眺めだ……と普通だったら思うのだろう。


「神殿だな」


 私は辺りを見回した。しかし、木の実のビーズは見つからない。


「モア、どこだろう」


 私がキョロキョロと辺りを見回していると、不意にグニャりとした何かを踏んずけた。


「ん? なんだこれ」


 太いロープのようなものを持ち上げると「ギャー」という何かの叫び声がした。


 ロープの先を目で追うと、そこには人の身長ほどの巨大な毒々しい花があった。


 まさかこれ、あの花の根?


「シャーッ!」


 花の真ん中が横に裂け、口のようになり、牙を剥く。


「あ、悪い」


 私は慌てて根を離したが、花は怒り狂ったようにこちらに向かってきた。


「シャーッ!」


 私が斧を構える前に、ヒイロが刀で花を切り捨てる


「サンキュ」


「さっき助けて貰ったからな。マッドフラワーはしつこいし」


 すると今度は人の顔面より大きな蝶の群れが現れる。


「マッドバタフライ!? こんなに?」


「うわっ」


 鱗粉を撒き散らす蝶。


「いけない! それを吸い込んでは……!」


 アオイに言われ咄嗟に口を覆うが、鱗粉を少し吸い込んでしまったのだろう、急に頭がクラクラしてきて、私は膝をついてしまう。


「お姉さま!」


「ちっ!」


 ゼットが両手を広げると指先からバチバチと雷光が走る。


「食らえ!」


 ゼットの放った雷撃により、蝶の群れはボトボトと床に落ちてゆく。


 そういえば、ゼットって光属性だったっけ。いいなあ、魔法が使えるって。


「マッドバタフライは魔法攻撃じゃないと倒せないので助かりました」


 アオイがゼットに微笑むと、ゼットは真っ赤になって頭を搔く。


「いやあ、これ位、どうってことないですよ!」


 私とヒイロは顔を見合わせた。

 ゼットったら分かりやすすぎる!

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