「まさか、鏡の悪魔……か?」
ゼットが口を開く。
鏡の悪魔? 確かに、この状況ではそう考えるのが自然だが、どうして悪魔が鏡じゃなくてモアの方から出てくるのだろう。
「……ん?」
するとモアが目を覚ましたかのように顔を上げる。
「モア! 大丈夫か?」
私が叫ぶと、モアは首を傾げこちらを見た。
「うん。モアは大丈夫」
自分の手足を確認し、キョトンとした顔を見せるモア。
「バカな、あれだけの魔力を消費したのに無事だなんて! それに、鏡の悪魔は!?」
驚愕の表情で叫ぶシュシュ。
すると、再び声がした。
「ククッ、これだから愚かだというのだ」
その少女の声は、モアの方からした。が、モアからではない。
「この声……」
私が戸惑っていると、アオイが俺の腕を掴みながら地面を指さす。
「お姉さま、モアちゃんの影です」
「なっ!?」
見ると、モアの影が陽炎みたいにゆらゆらと揺らめいている。
「近寄っちゃダメ!」
ヒイロも私の反対側の腕を掴む。
「どういうこと……?」
するとモアの陰から黒く小さな影が出てきた。
「いやはや、驚いた。まさか人間どもが再び
モアの影から出てきた黒い影は見る見るうちに少女の形に変化していく。
見た目は人間でいうと十歳くらいだろうか。褐色の肌に金の髪と金の瞳。頭には道化師のような帽子を被り、紫色のピッチリとした衣服。背中には羽、お尻からは長い尻尾が生えている。
「まさか、これが鏡の悪魔?」
私たちがモアの影から出てきた少女を凝視していると、モアは叫んだ。
「鏡ちゃん! どうして出てきたの!?」
親しげに鏡の悪魔に話かけるモア。一体どういうことなのだろう。
シュシュも慌てふためく。
「い、一体どういうことなの!? 鏡の悪魔は私が召喚したのよ! どうしてその子の影から……」
シュシュは慌てふためく。
鏡の悪魔は、そんなシュシュを横目でちろりと見て肩をすくめた。
「……何、折角だから教えてやろうと思うてな。鏡の悪魔の召喚には三つの条件があるのじゃ。一つ目は満月。二つ目は魔力を帯びた鏡。そして三つ目は他の人間に召喚されていないこと」
「他の人間に?」
皆の視線がモアに集まる。
「そんな……嘘よ! その子はずっと気絶していたし、鏡の悪魔を召喚する時間なんて無かったはず......」
それを聞き、鏡の悪魔は意地悪そうな顔をする。
「じゃが、召喚されたのがずっと昔のことだったとしたら?」
昔? 一体どういう事だ?
俺はモアの顔を見た。モアはうつむいたままだ。
「ククッ、まあ折角じゃし、事の真相を見てもらおうではないか」
鏡の悪魔が両手を広げると、鏡が虹色に光りだした。
鏡の悪魔は過去の光景を鏡に映し出し、私たちに見せようというのだろうか。
すると鏡に幼い少女が映し出される。水色の服を着た銀髪の少女、年は三、四歳だろうか。
「モア……?」
鏡に映し出されたのは幼いモアだった。
まさかこんな小さい頃に鏡の悪魔を呼び出していたと言うのか?
私たちは鏡の悪魔が見せる過去の光景に釘付けになる。
そこへ侍女がやってきた。
「お待たせしましたー」」
「マーサおそーい! モアと遊ぶんじゃなかったの?」
頬を膨らませてすねるモア。ああ、こういう所、昔と全然変わってないんだな。
「すみません、姉と話し込んでいまして」
頭を下げる侍女。
「マーサ、お姉ちゃんがいるの?」
「ええ。同じ侍女のスーが私の姉です」
「ええっ、そうだったの!? 知らなかったー!」
バタバタと手足を動かし部屋の中を駆け回るモア。
だがモアは、不意に動きを止めると、マーサの方を見てこう尋ねた。
「マーサは、お姉ちゃんと仲良しなの?」
「ええ。一緒に買い物に出かけたり、服や靴を貸し借りしたりしています。小さい頃はよく一緒におままごとやお人形遊びをしていました」
「ふーん。いいなあ。モアはお兄さましかいないから」
モアは不満げに口を尖らせる。え? 今、何て言った? そして幼いモアはこう言ったのであった。
「モアもお姉ちゃんが欲しい!」