シュシュを警察に引き渡すと、私たちはマロンの別荘へと帰ってきた。
「みんな、お帰りなさい! モアちゃんが帰って来てよかったわ。さあ、夕ご飯、用意してるから」
別荘へと戻るや否や、マロンが大慌てで飛び出てくる。よほど心配したらしい。目には涙が浮かんでいる。
「いや、その前に疲れたから俺は風呂入ってくるわ!」
ゼットはそう言って風呂場へダッシュする。全く、折角マロンが心配してくれてるのによ。マロンはくすりと笑う。
「そう? じゃあお風呂を先にして、その後みんなで晩御飯にしましょう!」
そんなわけで、私たちは皆で大浴場に行くことになった。
「汗かいたな」
「ここの大浴場は広くていいよ」
「モア、温泉大好き!」
そんな風に話していると、男湯の前でアオイが手を振った。
「じゃあ、皆様、私はここで!」
私はぎょっとしてしまう。
「ま、まさかアオイ、男湯にいくのか?」
「はい。何か問題でも?」
きょとん、と首を傾げるアオイ。
「いや、問題は無い。問題はないけど……」
男湯には先にゼットが入っている上、そのゼットはまだアオイを女の子と勘違いしたままなのだ!
ヒイロがぐい、と私の肩を引く。その目は、キラキラと輝いていた。
……そうだな。確かにこのまま黙ってたほうが面白そうだ。
「いや、何でもない! じゃあな、また後で!」
私はアオイに手を振った。ヒイロも性格が悪いが、私もたいがい悪人かもしれない。
「はあ、なんとかして男湯を覗けないものか」
ヒイロがため息をつく。
「逆でしょ、普通」
そんな風にして脱衣場で服を脱いでいると、モアの影から鏡の悪魔が現れた。
「ふい~、どれ、妾も温泉とやらに入って見るかの」
帽子と衣服が脱ぎ捨てられ、すっぽんぽんになる鏡の悪魔。
「きゃっ!」
驚いた下着姿のマロンが俺に抱きついてくる。押し付け合わされる柔らかい胸と胸。
「大丈夫だよ、この子は私たちの味方なんだ」
私が説明をすると、マロンはホッとしたような表情を見せる。
「そ、そうなの」
するとヒイロが私とマロンの乳をジロジロと見て言った。
「なんなんだここ、巨乳が多すぎる!」
そしてモアの方にも視線をやった。
「それにあんた……子供なのになんで私より胸があるんだ!?」
ヒイロの問いに、モアは気まずそうな顔で横を向いた。
「モ、モア分かんない」
「そりゃー、モアは私の妹だし」
ヒイロは鏡の悪魔を指差した。
「いいか、子供はこういう慎ましやかな胸であるべきだ」
鏡の悪魔は困ったように笑う。
「いや、妾は今は魔力の消費を抑えるためこの姿になっておるが、その気になればいくらでも巨乳になれるぞ」
「そうだったのか!」
……ってなわけで、私たちは、皆で温泉へと向かったのであった。
***
「皆さん、疲れたでしょう。しばらくこの別荘でゆっくりしていってね」
湯船の中でマロンが笑顔で私の腕にしがみつく。
「ありがとう。でも早くBランクに上がりたいし、そうゆっくりもしてられないかな」
私が答えると、ヒイロもうなずく。
「私たちも次のクエストがもう決まってるから、明日には立たなきゃいけないしな」
「明日? そんな急に?」
「忙しいんだね」
「ああ。私たち、常に二、三個クエストを掛け持ちしている状態なんだ。装備やら何やらでお金がかかるし、早くSクラスに上がりたいから」
「Sクラスかあ。凄いなぁ」
私はため息をついた。
Sクラスに上がった冒険者は勇者と呼ばれることになる。いいなあ。私の憧れだ。
「でもあんたたちのことだから、すぐに追いつくだろう」
ヒイロが頭にタオルを乗せながら言う。
「そうじゃな。妾も長く生きてきたが、お姉さまは間違いなく逸材じゃと思う」
鏡の悪魔が俺に向かってウインクする。
え? なんで鏡の悪魔まで?
「お姉さま?」
「なっ、なんで鏡ちゃんまで!」
モアとマロンが色めき立つ。
「え? だって皆そう呼んでおるのでな。嫌か?」
「いや、別に嫌とかじゃ」
ヒイロがふん、と鼻を鳴らす。
「別にみんな言ってる訳じゃない。私は違うし」
「なぜヒイロはお姉さまと呼ばないのじゃ?」
「だって別に私のお姉さんじゃないし」
「お姉さまじゃないならどういう関係なのじゃ?」
「どういう関係って」
困るヒイロ。私はうーん、と考えた末、こう言った。
「お姉さんじゃないなら、親友だね!」
「え!?」
全員が私の方を一斉に見つめる。そんなに変なこと言ったかな?
「だって私には妹ばかりで友達が一人もいないから、だからヒイロは親友だ。だって親友って一番の友達のことを指すんだろ?」
「わ、私が一番の友達!?」
ヒイロも何故か動揺しだす。
「そうだ」
そう言うと、ヒイロは酷く照れた顔をしてそっぽを向いた。
「まあ、あんたがそこまで言うなら親友になってやらないでもない」
全く、相変わらず可愛くないんだから。
するとモアが勢い良く抱きついてくる。
「ずるーい、モアも親友になる!」
「モアは妹だろ」
「わ、私もお姉さまの親友にしてください!」
「では妾も」
風呂場で女の子たちに一斉に抱き着かれ、私は困り果ててしまった。
あー、もう、一体どうなってるんだよ!
*
風呂から上がると、ゼットが意気消沈とした顔でうなだれていた。
あの様子をみると、さすがに男でもいい、とはならなかったらしい。
「……お前ら、全部知ってたんだろ」
恨めしそうに言うゼット。
「はははは……」
私は笑って誤魔化した。
「アオイちゃんはさ、武器の話とか俺の好きな格闘家とかに詳しくてさ、凄く趣味が合って、話しやすくて、運命の相手かと思っていたけど、まさか男だったとは」
ゼットはため息をつく。
「は~あ、どこかに男心を分かってくれる可愛い女の子はいないかな~」
何言ってんだこいつ。
私はチッと舌打ちした。
そんな都合のいい女の子なんているわけないだろ!