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第73話

 シュシュを警察に引き渡すと、私たちはマロンの別荘へと帰ってきた。


「みんな、お帰りなさい! モアちゃんが帰って来てよかったわ。さあ、夕ご飯、用意してるから」


 別荘へと戻るや否や、マロンが大慌てで飛び出てくる。よほど心配したらしい。目には涙が浮かんでいる。


「いや、その前に疲れたから俺は風呂入ってくるわ!」


 ゼットはそう言って風呂場へダッシュする。全く、折角マロンが心配してくれてるのによ。マロンはくすりと笑う。


「そう? じゃあお風呂を先にして、その後みんなで晩御飯にしましょう!」


 そんなわけで、私たちは皆で大浴場に行くことになった。


「汗かいたな」


「ここの大浴場は広くていいよ」


「モア、温泉大好き!」


 そんな風に話していると、男湯の前でアオイが手を振った。


「じゃあ、皆様、私はここで!」


 私はぎょっとしてしまう。


「ま、まさかアオイ、男湯にいくのか?」


「はい。何か問題でも?」


 きょとん、と首を傾げるアオイ。


「いや、問題は無い。問題はないけど……」


 男湯には先にゼットが入っている上、そのゼットはまだアオイを女の子と勘違いしたままなのだ!


 ヒイロがぐい、と私の肩を引く。その目は、キラキラと輝いていた。


 ……そうだな。確かにこのまま黙ってたほうが面白そうだ。


「いや、何でもない! じゃあな、また後で!」


 私はアオイに手を振った。ヒイロも性格が悪いが、私もたいがい悪人かもしれない。


「はあ、なんとかして男湯を覗けないものか」


 ヒイロがため息をつく。


「逆でしょ、普通」


 そんな風にして脱衣場で服を脱いでいると、モアの影から鏡の悪魔が現れた。


「ふい~、どれ、妾も温泉とやらに入って見るかの」


 帽子と衣服が脱ぎ捨てられ、すっぽんぽんになる鏡の悪魔。


「きゃっ!」


 驚いた下着姿のマロンが俺に抱きついてくる。押し付け合わされる柔らかい胸と胸。


「大丈夫だよ、この子は私たちの味方なんだ」


 私が説明をすると、マロンはホッとしたような表情を見せる。


「そ、そうなの」


 するとヒイロが私とマロンの乳をジロジロと見て言った。


「なんなんだここ、巨乳が多すぎる!」


 そしてモアの方にも視線をやった。


「それにあんた……子供なのになんで私より胸があるんだ!?」


 ヒイロの問いに、モアは気まずそうな顔で横を向いた。


「モ、モア分かんない」


「そりゃー、モアは私の妹だし」


 ヒイロは鏡の悪魔を指差した。


「いいか、子供はこういう慎ましやかな胸であるべきだ」


 鏡の悪魔は困ったように笑う。


「いや、妾は今は魔力の消費を抑えるためこの姿になっておるが、その気になればいくらでも巨乳になれるぞ」


「そうだったのか!」


 ……ってなわけで、私たちは、皆で温泉へと向かったのであった。


 ***


「皆さん、疲れたでしょう。しばらくこの別荘でゆっくりしていってね」


 湯船の中でマロンが笑顔で私の腕にしがみつく。


「ありがとう。でも早くBランクに上がりたいし、そうゆっくりもしてられないかな」


 私が答えると、ヒイロもうなずく。


「私たちも次のクエストがもう決まってるから、明日には立たなきゃいけないしな」


「明日? そんな急に?」


「忙しいんだね」


「ああ。私たち、常に二、三個クエストを掛け持ちしている状態なんだ。装備やら何やらでお金がかかるし、早くSクラスに上がりたいから」


「Sクラスかあ。凄いなぁ」


 私はため息をついた。


 Sクラスに上がった冒険者は勇者と呼ばれることになる。いいなあ。私の憧れだ。


「でもあんたたちのことだから、すぐに追いつくだろう」


 ヒイロが頭にタオルを乗せながら言う。


「そうじゃな。妾も長く生きてきたが、お姉さまは間違いなく逸材じゃと思う」


 鏡の悪魔が俺に向かってウインクする。

 え? なんで鏡の悪魔まで?


「お姉さま?」


「なっ、なんで鏡ちゃんまで!」


 モアとマロンが色めき立つ。


「え? だって皆そう呼んでおるのでな。嫌か?」


「いや、別に嫌とかじゃ」


 ヒイロがふん、と鼻を鳴らす。


「別にみんな言ってる訳じゃない。私は違うし」


「なぜヒイロはお姉さまと呼ばないのじゃ?」


「だって別に私のお姉さんじゃないし」


「お姉さまじゃないならどういう関係なのじゃ?」


「どういう関係って」


 困るヒイロ。私はうーん、と考えた末、こう言った。


「お姉さんじゃないなら、親友だね!」


「え!?」


 全員が私の方を一斉に見つめる。そんなに変なこと言ったかな?


「だって私には妹ばかりで友達が一人もいないから、だからヒイロは親友だ。だって親友って一番の友達のことを指すんだろ?」


「わ、私が一番の友達!?」


 ヒイロも何故か動揺しだす。


「そうだ」


 そう言うと、ヒイロは酷く照れた顔をしてそっぽを向いた。


「まあ、あんたがそこまで言うなら親友になってやらないでもない」


 全く、相変わらず可愛くないんだから。

 するとモアが勢い良く抱きついてくる。


「ずるーい、モアも親友になる!」


「モアは妹だろ」


「わ、私もお姉さまの親友にしてください!」


「では妾も」


 風呂場で女の子たちに一斉に抱き着かれ、私は困り果ててしまった。


 あー、もう、一体どうなってるんだよ!





 風呂から上がると、ゼットが意気消沈とした顔でうなだれていた。


 あの様子をみると、さすがに男でもいい、とはならなかったらしい。


「……お前ら、全部知ってたんだろ」


 恨めしそうに言うゼット。


「はははは……」


 私は笑って誤魔化した。


「アオイちゃんはさ、武器の話とか俺の好きな格闘家とかに詳しくてさ、凄く趣味が合って、話しやすくて、運命の相手かと思っていたけど、まさか男だったとは」


 ゼットはため息をつく。


「は~あ、どこかに男心を分かってくれる可愛い女の子はいないかな~」


 何言ってんだこいつ。


 私はチッと舌打ちした。


 そんな都合のいい女の子なんているわけないだろ!



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