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第56話 たまには、ハッピーエンドでも

召喚から15年の年月が流れた。


激しい戦いの中を、我武者羅に俺は生きてきた。


魔王軍の執拗な攻撃で多くの命が散っていった。

幼子を抱いた母子

恐怖の表情を隠せないままの人々

町を守り切れずに無念で逝かざるを得ない兵士達

そして・・・。


人々を町を仲間を、守り切れなかった俺は嘆き悲しむ事も許されなかった。


魔王軍の怒涛の進撃が、立ち止まる事を許さないかったのだ。

その連戦で、俺は多くのモノを失った。

涙を。感情を。信頼する仲間を・・・。


ただ、戦いたかった。

魔王軍を破りたかった。

魔王を殺したかった。


そして、戦いは終わりを迎えた。


今は、虚無感が徐々に恐怖と変わっていくのを実感している。

戦いだけが、俺を必要としていた事を感じてしる。


恐怖が、俺の残った感情を食い散らかす。

眠りを恐れ、暗闇に怯え・・・。心身ともに疲れきった俺は、死の言葉に安堵を求めていた。


恐怖に彩られたあの頃は、狂っていたのかも知れない。

俺は疲れきり、何時しか目を閉じていた・・・。


暫くすると、あたたかい温もりが俺を包んでいる事で気が付いた。

幼子が、母の胸の中に抱かれる様な、安心感が荒ぶる神経を安らげてくれる、そんな感じか全身を包んでくれる。


あたたかい・・・。


何時しか深い眠りに誘われていく。

何時日かぶりだろう・・・。

静かに目を開けると彼女と目が遇った。優しく微笑む彼女に俺の涙が頬を伝う。

何故か嬉しかった。


何時も側に居てくれた彼女。大切で信頼している仲間として俺は見ていた。

彼女は、戦いの中で、そして戦いきった中で俺を見ていてくれた。

精神的に苦しむ俺を、見捨てずに見守ってくれた。

・・・言葉が出てこない。もどかしい。


無理やりに絞り出した言葉が、【ありがとう】だった。

更に、暫しの時を経て、言葉を繋いだ。【伴に歩んでくれないか。】


彼女の微笑が嬉しかった。





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