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第64話 悲しき勇者 ➁

勇者により壊滅した王都、連合国により真相解明が進む中で、異常な勇者の姿が写し出されていく。



ーーーーーーー 【勇者の行動】ーーーーーーー


新たな遠征は、辺境の村町そして、砦。数多くの戦いは勝利に。そして、多くの殺戮を産み落として進軍する。



戦いの中で逃げ遅れた魔物の群れに飛び込み殺戮を繰り返す勇者。その顔は血に飢え、殺戮に酔いしれた悪魔の顔。


逃げ遅れた幼き魔物に剣を振りかざす勇者。


屈強な魔物が駆け寄り、勇者の前に立ち塞ぎ、幼き魔物の逃げる時間を稼ぐ。だが、勇者の戦いの後には血が川の如く流れて幾多の池を作り、屍が山が更に高くなり、全ての生けるものが居ない無人の荒野が広がり続ける。




【裁判官】


「その戦いは悲惨の極だったと記録されていた。勇者達に後悔もしくは変化は無かったのですか?」


【記録官】

「はい。その夜の勇者一行は、夜営で大いに盛り上がりました。ところが夜半過ぎに、ほろ酔いで就寝した筈の勇者が、突如奇声を上げ始めたのです。




「ちくしよー。 死んじまえ。」


「くるなー あっちいけ! くるな」


勇者の悪夢は、終わる事なく続き、その怯え声は、痛ましい程でした。」



【裁判官】

「その後の変化は?」



【記録官】

「はい。翌朝の憔悴仕切った姿は、言葉に表せ無い程です。そして、この日を境に、夜半の眠りに怯える勇者が度々確認される様になりました。時には狂ったかの様に剣を振り回し、その後は疲れ果てて、倒れるかの様に眠りに着く事も有りました。」



【裁判官】

「あなた達の対応は?」



【記録官】

「はい。我々では、どうする事も出来ず、今まで飲んで熟睡出来ていた、ドリンクやお香もダメだった見たいです。」



【裁判官】

「そして、その後は?」



【記録官】

「はい。その後の勇者の事ですが、徐々に精彩を欠けていき、特筆する程の大きな成果を上げる事なく、王都に帰還する事となりました。その時の勇者は、心身共に疲れ切った状態でのやっと馬に乗っている様子でした。そして事件が起きたのです。途上の街の城門を抜けた所で門の陰から、急に暴漢者が勇者に斬りかかりました。暴漢者の短剣が勇者の足に刺さりましたが医務術者の医療魔法で事なきを得ました。」



【裁判官】

「暴漢者。記録には詳しく載っていませんでしたが。」


【記録官】

「王の命令で記録は改竄されました。王の亡くなった今、暴漢者については、これより真実を話します。

直ぐに周りの者が暴漢者を捕まえると、まだ年端の行かない少年だったのです。少年は勇者に向かい声を枯らす程の大声で [ 人殺し。家族を返せ。みんなを生き帰してくれ。・・・。] と涙声で叫び続けていました。」


【裁判官】

「その少年のその後は?



【記録官】

「少年のその後ですか。・・・痛ましい事ですが、騎士殿により、その場で殺されました。」

「その事件から、勇者が、更に変わったと感じました。心身的には衰弱が感じられましたが、何か思い詰めた表情で、口数も殆ど無くなり、宿では部屋に閉じ籠り、あれだけ話していた騎士殿との会話も無くなりました。」



【裁判官】

「それは妙ですね。その他の変化はどうでしたか?」


【記録官】

「はい。食事については、あれからは部屋に運ぶのですが、手を付けて無かったと思います。」

「その数ヶ月後に王都での惨劇が起こったのです。痛ましい事でした。」




「連合国裁判長。その事に付いて発言を許して頂けますか。」一人の男が名乗り出た。


【情報屋】

「あっしは、王都の情報屋を生業としております。勇者さまが王都に帰った夜に執事に呼ばれて勇者さまから直接に依頼を受けました。」


【裁判官】

「貴方は、女神に真実を語る事を誓いますか?」


【情報屋】

「女神様に誓います。」


【裁判官】

「発言を許します。どの様な依頼内容ですか?」


【情報屋】

「はい。正直に話を致します。

依頼内容は、

①ドリンクとお香の成分解析

②勇者の討伐成果の状況の洗い出し

③王国の本当の目的

となります。本来なら、守秘義務の為、話す事は有り得ませんが、余りにも勇者さまが可哀想で 名乗りでました。」


【裁判官】

「興味深い内容ですね。勇者にはどの様に話したのですか?」


【情報屋】

「調査には多少の時間が係りましたが、勇者さまに直接に報告しました。

内容は、

①ドリンクとお香の成分解析結果

ドリンクは、強い幻覚剤と興奮剤そして術者の言動に迎合しやすくなる魔術が確認されました。


お香には深層心理の鎮静剤と睡眠剤そして術者を信じ依存性の高い術が確認されました。


②勇者の討伐成果の状況洗い出しに付きましては、魔王軍の存在は確認は出来ませんでした。

全てが、王国内にある反対戦派関連の貴族もしくは拠点となります。そしてほぼ皆殺しとなっておりました。魔王軍四天王と言われる存在及び城は、反体制派に属する王弟と勇者と同じ時期に召喚された他の勇者の拠点と考えられます。」


【裁判官】

「なんだって!他の勇者だと。勇者はひとりでは無かったのか。」


【情報屋】

「はい。召喚された勇者は四人だった様です。現勇者の外、召喚時に失敗が有り、一人は死亡。残りの二人は王の洗脳が効かず、のちに脱走。反体制派の王弟の元で比護され、活動していた模様。勇者の倒した四天王は、彼らの事となります。」


【裁判官】

「王の洗脳?王は何を考えていたのか。」


【情報屋】

「それに付きましては、三番目の回答となります。

③王国の本当の目的は、世界征服を考えていたと考えられるます。ちなみに魔王の存在は確認出来ませんでした。


反体制派の軍を居ない筈の魔王軍と幻惑させ虐殺し、そのまま他国も対象にしていた節もあります。狂っていたとしか考えられません。勇者は、幻惑で言い様に騙されて、虐殺の片棒を担がされて居たのでしょう。


それが、少年に刺された事により、幻惑から解かれた物と考えられます。その後は、我らの情報で苦しみ、そして王都での悲劇に繋がったのでは無いでしょか。幻惑で洗脳されたと言え、勇者の犯した罪を消し去る事は出来ません。が、彼が安らかにそして、魂だけども自分の故郷に帰れる様に女神が計らって下さります様にお祈り致します。」


王国は、僅かに残された王族により、建て直された。


狂気の前王とは言え、王を殺した勇者は反逆者として、処刑された。







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