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第63話 悲しき勇者

 王国は、勇者の突然の狂気により潰滅した。


各国は、連合して王国の鎮静化の為に軍を駐屯。事の原因究明に全力を尽くしていた。


「連合国裁判長。記録官として、勇者殿の言動・行動を正直に発言致します。」


 【記録管】

「自分が、勇者殿と行動を伴にし始めたのは、召喚より半年後に行われた、初めてダンジョン訓練からとなります。

王様より、今後の勇者殿の行動を全て記録として残す様にとの命令でした。」


 【裁判官】

「勇者は、どの様な性格でしたか。また、行動中に、おかしな行動または言動は見受けられましたか?」


 【記録官】

「最初の頃の勇者殿は、常に明るく何時も笑顔が絶える事の無い方と記憶に残っております。また、ご質問のおかしな言動等は特に見受けられませんでした。」


【裁判官】

「訓練中や魔物との戦闘中は、どうでしたか?」


【記録官】

「ダンジョンの訓練は順調で魔物を恐れる事なく、騎士殿の教えを守る頼りになる印象でした。」


【裁判官】

「その後に変化または異常行動は、見受けられましたか?」


【記録官】

「ええ。異常が感じられたと言うより、ダンジョン制覇頃から、時より軽い目眩がする様な事を言っておりました。また、眠りが浅くて騎士殿より、ドリンク若しくはお香を調合して貰っていた様でした。」


【裁判官】

「ドリンク?お香?」


【記録官】

「はい。ドリンクやお香を寝る前に炊くとグッスリと眠れたと騎士殿と会話している所を見ております。」


「騎士殿は、我々勇者一行にもドリンクを渡して下さり、自分も毎食後に飲んでおりました。 はい。味は甘く飲みやすく、後口もスッキリするので美味しく飲んでおりました。ただ、その頃から自分も軽い目眩を感じる様になりました。」

「その後から、勇者殿の快進撃が始まったのでした。」


ーーーーーーー 【勇者の行動】ーーーーーーー



「勇者さま。あれが魔王軍四天王のひとりで御座います。勇者さまの実力なら、一撃で倒せるでしょう。」

( 少しめまいが・・・。疲れか )

「あれが四天王のひとりか。俺に任せろ。 トリャー!」


一撃で四天王は倒れ、彼の軍は、勇者により、壊滅した。


「今日の成果は、四天王と魔物四百匹だ。まずまずだな!」


「流石勇者さまです。早速、城に戻り 王に報告致しましょう。」


勇者一行は、意気揚々と王都に向かう。残された草原には血生臭い風が舞っていた。


「王よ。報告致します。本日は魔王軍四天王のひとりと部下の魔物を倒して参りました。」

( 何か・・・違和感が。 )


「勇者どの。ご苦労で御座います。共に食事を取りながら 詳しい話をして下され。」

「王様。有難う御座います。」


その夜の勇者は、死んだ様に深い眠りに。翌朝、体の疲れは残っていないが、ただ僅かな不快感だけが心底にへばり着く様に残っていた。


「勇者さま。おはようございます。本日も魔王軍撲滅の為、ご尽力をお願いいたします。」

「騎士殿。宜しくお願いいたします。」


勇者一行は、新たな魔王軍と戦い求め、また幾多の魔物を倒して行く。


「魔王軍は、幾ひゃ・・( 眩む。疲れか? 大丈夫だ!) 幾百居ようとも、私の敵では無い。」


「流石、勇者さま。力強いお言葉。王国は磐石ですな。」


「魔王軍が脆すぎて、張り合いが無い位だ。さぁ次の敵を探すぞ。」


「了解しました。」

次の戦いに、足を向ける一行。

血の匂いが漂う森林を後にする。


勇者一行の遠征は、幾多の魔王軍の拠点を落とし、多くの魔物を倒して進んで行く。

戦いは、勇者の一方的な勝利で終わるが、魔物たちの断末魔の叫びが、徐々に勇者の精神を蝕んでおり、浅い眠りと悪夢が妨げていた。



【記録官】

「この頃から、勇者殿はうなされる事が多くなり、寝室から頻繁に奇声が聞こえる様になりました。」

「その度に、騎士殿からのドリンクの量が増えていたと感じました。」


ーーーーーーー 【勇者の行動】ーーーーーーー



「騎士殿。貴方から頂いたドリンクとお香は、良い物だ。私を深い眠りを誘ってくれる。そして、爽やかな目覚めを約束してくれる。有難う。」

「どういたしまして。お役に立てて光栄です。」


「本日は、魔王軍四天王最強の守る城となります。宜しいお願いします。」

「任せて下さい。必ず王国に勝利を捧げましょう。」


魔王軍最強の城を見つめ確認を行う

王都に劣らぬ高さの城壁に数百の魔物が守りを固めてこちらを見張っている。

まず、勇者は稲妻を起こし城壁へ。

崩れる城壁と戸惑う魔物たち。

悲鳴と怒号が飛び交い、魔物たちは矢を一斉に射掛けてくる。


城門が開き、数十の騎兵隊然の魔物が撃って出る。

迎え撃つ勇者。


勇者の一振の真空刃で倒れ落ちる騎馬隊。

続けて撃つ稲妻に、崩れる城門と逃げ惑う魔物の群れ。

後は、一方的な殺戮と化した。


戦いは終わった。城は死臭が漂う無人の廃墟となり、陥落した。


「勇者さま。おめでとうございます。魔王軍最強の城を陥落されました。功績は、全て勇者さまの栄冠と輝く事でしょう。」    


王都に凱旋する勇者一行。  

沿道を埋め尽くす観衆に片手を挙げて応える勇者。

王の労いの言葉に感激し、更に一層の勝利を誓い合う。

一時の休暇ののち、新たな敵を求めて勇者一行は旅立った。




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