「頑張ってこいよ。魔物に気を付けて無事に帰ってこいよ。」
門を出て行く、初級冒険者の少年達に声をかける。
「おっさん。ありがとう。頑張ってくるね。」明るい声が返ってくる。
「身分証を拝見します。」
毎日、幾十の人々が門を出て行き、また、入ってくる。
ベテラン冒険者もいる。
隊列を組んだ商隊の群れ。
目を輝かせた少年もいる。きっと冒険者に憧れているのだろう。
貴族の馬車。綺麗なお嬢様か貴婦人が乗って入るかも知れない。
たまには目付きの悪そうな男も通る。
一度だけ、勇者の一行が来た事が有ったなぁ。その時は綺麗な聖女様につい、見とれてしまった。
毎朝、多くの冒険者が出て行くのを見送った。夕は、満足気な顔にホッとする。だが、帰って来ない人もいる、特に知り合いなら心配で堪らない。
交代の兵士が来た。今日の任務は終了だ。
酒場に寄らずに官舎に帰ると妻と子供たちが迎えてくれた。
「ただいま。」「お帰りなさい。」
平凡で慎ましい家庭。微笑む家族。
この笑顔を守る事が、元勇者の俺が自ら決めた使命だから。