「君の居ない世界は、つまらんな。」
男は小さい墓石を前にして、語り掛けていた。
「君が倒れて、もう三十年か。俺は、未だにこの長い時間を一人で過ごしているよ。
とても、長いなぁ・・・。」
「う、ん。今は王国からは、伯爵を頂いているが、どうも承に合わないなぁ。
領地は任せっぱなしで山奥に籠っては、魔物退治が楽で良いさ。
だが、世の中が少し騒がしくなり始めて来たようだ。
まだ頑張らねばならないようさ。」
「まぁ、髭も白くなり、目も霞んで気やがったが、体だけは丈夫さ。
まだ、若い者にはまけないさ。」
男は座り込み、何時しか酒を取り出しては飲んでいた。
「あの頃は、苦しかったが 思えば楽しい時間だったと時々思い返しているが、
未だに、あの時の一瞬を後悔している・・・。
あれさえ無ければ、失わずに済んだのでは無いかとな。」
「さみしいよ。・・・。だが、やり残した事が有るんだ。がんばって見るさ。
・・・今度は、いつ来れるかな。」
「・・・。」
「また、来るよ。」
男は静かに立ち上がり、振り返らず歩き始めた。また、この地に戻る事を信じて。