アリスは、獣人となったブルーノと共にエルフの谷に戻った。
「……レーンさん、戻りました」
アリスの言葉に、レーンはホッとした表情を浮かべた。
「アリスさん、ブルーノさん! 無事でしたか! 水晶の涙は手に入りましたか?」
「はい。でも、ブルーノさんが……」
アリスは涙ぐんで、俯いた。
「ああ、その姿は……ケンタウロスの血を……」
レーンはブルーノの姿を見て察した。
「はい。私は……それでも……後悔はしておりません」
ブルーノは寂しげに微笑んだが、その口元はもう獣の姿になっている。
「……ブルーノ様」
アリスは、毛で覆われたブルーノの手をぎゅっと握った。
「なんだ!? 獣人か!? この谷を襲いに来たのか!?」
エルフの青年がブルーノの姿を見て、大きな声を上げた。
「獣人!?」
弓を持ったエルフが、ブルーノを狙った。
「やめなさい!」
レーンの制止よりも早く、弓がブルーノに向かって放たれた。
「きゃあ!」
アリスが叫んだ。
「……!?」
ブルーノの服は弓の先で切れたが、ブルーノの肌は弓を跳ね返した。
「……ははっ。私はもう……人ではないのだな」
ブルーノは落ちた矢を拾うと、レーンに渡した。
「ブルーノさん、後悔していませんか?」
「いいや。あの場でアリスさんを守れなければ、そのほうが辛い」
「……!」
アリスはブルーノの言葉を聞いて赤面した。
「レーン様、獣人相手に何を笑っているのですか? 逃げて下さい!」
エルフの青年は震えながら、レーンに進言した。
「大丈夫ですよ。この方は、ブルーノ様ですよ」
「え!? 以前、谷を救って下さったブルーノ様ですか!?」
レーンの言葉を聞いて、エルフ達が集まってきた。
ブルーノは顔にまいた布を取り去って、微笑んだ。
「……ブルーノ様?」
「確かに少し面影はあるようだが……」
エルフ達はざわつきながら、ブルーノを見つめていた。レーンはそれを見て言った。
「エルフでも、獣人を怖がります。ましてや人間達は貴方を迫害するかもしれません……」
それを聞いて、ブルーノは困ったと言うように腰に手を当ててため息をついた。
「それはそうですね。……どうしたものか……」
アリスは思い切って言った。
「……私の家で、一緒に暮らすのはどうですか? 森なら、人が来ることは少ないですし」
レーンとブルーノは驚いた表情でアリスを見つめた。
「アリスさん、そう言う訳にはいきません!」
ブルーノは焦った様子で断った。
「……どうしてですか?」
アリスは屈託のない笑みを浮かべてブルーノに問いかける。
「若い男女が同じ家で暮らすというのは……」
ブルーノは、もごもごと何かを言っていたがアリスには聞き取れなかった。
「……でも、ブルーノ様は町には戻れないでしょう?」
ブルーノとアリスのやりとりを聞いて、レーンは頷いている。
「ブルーノさん、アリスさんと一緒に暮らすのが良いでしょう」
「!!」
ブルーノは腕を組んで、固まっている。
「レーン様もそう言っていますし、家に来て下さい」
「……分かりました」
ブルーノはアリスの言葉に甘えることにした。
「それでは、エルバの森に帰ります」
「レーンさん、ありがとうございました」
アリスとブルーノが礼を言った。
レーンは谷の外れまで一緒に歩いて行き、二人を見送った。
アリスとブルーノは、エルバの町に向かって歩き始めた。
「それでは、よろしくお願いします。アリスさん」
「はい、ブルーノ様」
その頃、王子レイモンドの元に恐ろしい知らせが飛び込んだ。
「何? フォーコが生き返っている!?」