「
「見ての通り、宴会になりつつありますね。ビックスパイダーを討ち取ったので。猫宮さんが仕留めたキラーラビットも、毛皮は買い取り。肉は今煮込んでるようです」
村人に囲まれていた
傍からは、チヤホヤされるのに慣れない犬丸に村人も分かっていて、ちょっかいを掛けていたのが微笑ましかったのだが。
「
「大丈夫よ、
「モテモテでしたねー犬丸くん!異世界にも通じるオフィシャルなイケメン」
「うっせぇ、お前がどっか行くからだろーが!」
ビッグスパイダーの囮役をしていたエンテが、いくつか皿を運んできた。
[食べてくれ、異世界人]
[先程もいいましたが、キラーラビットの肉は皆さんで召し上がってくださいね]
抱えていたリュックから、犬丸がウエットティッシュを差し出す。
「おら、手を拭け」
「さ、さすがスパダリ……!異世界でも輝くその英智」
「訳分からんことしか言わねーなてめぇは!」
有難く一枚貰って、手を拭いてから兎田山は薄いパンを手に取った。その手をエンテがじーっと見つめる。
[それはなんだ?]
[手を清潔にする道具です。ウェットティッシュといいます。食べる時、料理をする前、手が汚れた時などに便利ですよ]
[水で洗えばいいじゃないか]
[その水洗いの手間をはぶくんですよ]
猫宮に言われて、犬丸がエンテにもウエットティッシュを渡した。
エンテはそっと、兎田山を真似して手を拭く。
[スースーする。目新しいから商人が好きそうだな。我々は水源に困らないが、旅の途中では使えそうだ]
[なるほど。シュトルトさんが来る前に、荷をもってきたら預けていいですか?]
[我々は構わない。異世界人のおかげで何も無い村に商人がきてくれる。預け賃も貰える。ウダヤマのめもちょうも売れた。うえっとなんたらも売れるはずだ]
パンを食べる犬丸たち二人は、作ってきたお弁当を村人に渡していた。
兎田山の口には結局入らなかったわけだが、一人のモブとしては任務を全うした感じで不満などあるはずがない。
「猫宮さんたち、ウエットティッシュで異世界ひと稼ぎしてみませんか?」
「そりゃあ、手っ取り早く稼げるなら……どうする?小桜」
「こちらの世界の既得権益を崩さないなら、アリだと思うわ。早く武器を手に入れたいもの」
言いながら猫宮は、村に来てからの違和感に気づいた。
村は、女子供と少年、老人だけ。若い男や壮年の働き手がない。
エンテは猫宮の視線の先に気がついた。
[気づいたか。この村に限らずこの国は男手が少ない。十年前、隣国と戦争して働き手がほとんど居なくなった。普段は『スキル』持ちの女だけでゴブリンを倒しているが、手に負えないときは冒険者ギルドに頼んでいたんだ。まさか突然ビッグスパイダーたちが出てくるとは思わなかった]
エンテの言葉を、兎田山が訳すと二人は端麗な顔を顰める。
「ゲートとなんか関係あんのか、その戦争」
「冒険者ギルドがあるのね」
「冒険者ギルドのある街までは、距離があるんですよ。あと、戦争とゲートの間に五年経ってますから、その辺の因果関係は上もあまりはっきりした見解は出てないんですよ」
犬丸はコリコリした食感の肉を、パンに挟んで味わった。
塩で焼いたシンプルなものだが、脂はくどくない。
弁当は渡したもの、ソースが手元にあったので和風ソースを付けてみたが、相性は良かった。
[どうだ、ビッグスパイダーの足の肉は?ソレはなにをつけているんだ]
「…………犬丸くん、お口にあったかとエンテさんが。あと、和風ソースとケチャップソースも気になるようです」
「なんか口ごもったのがこえーんだが??てめえ何か隠してないか?」
シーニュが肉にかぶりついたのを見て、猫宮がそこにケチャップソースを少し垂らしてやる。
エンテも真似て、和風ソースをビッグスパイダーの肉につけてかじり出した。
[うまいな!!このソースというのは!もっとピリ辛で甘いものはないか?]
「ピリ辛……甘い……ソース……?そうか、チリソースも良さそうですね。犬丸くん、ビッグチャンスですよ!」
「俺が思う異世界チートとなんっかちげーんだよなぁ」
ボヤきつつ、犬丸と猫宮はゲートを潜った先に持ち込むリストを増やしたのだった。