――何かがおかしい。
こんなはずでは、なかった。
ゲートの先で起きたハプニングは、早急に委員会に伝わった。兎田山が撮った写真は
要は、
自衛隊の攻撃『スキル』 持ちの一部は村からゲートまでの距離の守護に配置された。
守備範囲に村まで入っていないことに、
毎日、ウエットティッシュとチリソースを村に運び、無事に金貨で買い取りされたので異世界のお金にはゆとりがでた。
犬丸の弁当は人気が凄まじく、村人は順番に弁当を作ってもらうルーティンを組んでいて、今では三人は村での飲食はただになっている。
兎田山は勿論、メモ帳とボールペンだが、ソースが売れに売れて焼肉のタレやらケチャップやらも運ぶようになった。
――そこで、チュートリアルパーティは解散してハイ終わり――のはずが。
追われているのである。現在進行形で。
猫宮は、兎田山の口走るBL用語を学んでしまい犬丸をイケニエにして、連日、生徒会長の
先程の兎田山は、そんな犬丸に壁ドンをされて「俺らの仲間になれよ……」と囁かれた。三度目の壁ドン、そこは猫宮か四狼にやって欲しかった。
断崖絶壁から叫びたい。
推しに追われ、推しに絡まれ、対象が自分で無ければこんなにも美味しいというのに。
友達だと信じていた腐女子たちも、こうなると手のひらをかえして、いいぞもっとやれ!囃し立てるので、同盟は破壊された。
同じ腐男子である教師の
「はーダメだ、コンパスの差で犬丸くん勝てるわけがない。落ち着きましょう」
小走りで校舎裏に駆け込んだ兎田山は、そこで座り込んでいた人影とぶつかった。これも何か漫画的である。
「申し訳ありません、お怪我はないでしょうか?」
追われている為に、兎田山は小声で問いかけるとぶつかった女学生は、顔を覆った。
最近、たまにみる顔だ。隣のクラスの編入生だった気がする。
「ええと、
「はい、
謝ったはずが、謝られた。
うじうじときのこが生えそうなノリだが、兎田山もここ数日の推しからの絡みに脱魂しかけているので、一緒にいじける事にした。
「ちょっと失礼」
狼狽える鹿下の隣に座り、眼鏡を拭く。
「僕だって一介のモブに過ぎないんですよ、こんな陰キャがなんで人気カーストのお二人に絡まれるなんて、眩しすぎて目があかないじゃないですか。目が!!ってやつですよ。なんでこうなったのか原因がわかれば反省もしますけど、全く分かりません。嫌がらせにしては真剣だし、猫宮さんから送られてくる写真は最高クオリティで神がかってるし、ご褒美とムチが同時にやってくる世界ってなんなんですか?僕はモブなんですよ?!埋没した個性、コピペで書けそうな顔面、登場人物一覧にもそう書いてあるはずなのに。そう思いませんか、鹿下さん!」
「えっと……事情は分からないですけど」
「スキップ機能使って聞き流してくれてもいいのに、お返事くれるんですか鹿下さん!」
「いえ、スキップ機能ないですし」
兎田山の饒舌にド肝を抜かれたのか、鹿下のうじうじが止まった。
「兎田山くんですよね……入学式に首席なのに次席の四狼くんにスピーチを譲ったとか」
「それはモブとして当たり前の行動ですから」
「普通、モブは首席とらないのでは??」
お下げ髪を引っ張りながら、鹿下が指摘する。
兎田山の顔面から眼鏡が飛んだ。
「もももももももしや、僕はそこからモブをすこーしだけ逸脱して?!」
「お顔も、言うほどモブでもないですよ。塩顔イケメンと言われれば納得ですし、猫宮さんと犬丸くんが特級顔面ホルダーなので目立たなくなってますけど」
「いやいやいやいやまさか、僕にはモブとしての立派な眼鏡が」
汚れてもいない眼鏡を焦ってふきまくる兎田山。そこへ鹿下からの、悪意のないトドメの一言が襲う。
「眼鏡もりっぱな萌えの属性ですし、インテリ系、眼鏡男子、それぞれ立派な萌えステータスでは?」
漫画なら吐血しているシーンだ。
兎田山は正論パンチに沈む。
栄えある立派なモブとして生きて十七年。モブとは主役を映えさせ、賑やかしてこそのモブ。
そう、モブは主役の傍で――。
「はっっっ!!そうか!!つまり犬丸くんたちの傍に控えて、存分に主役を引き立たせろモブが!!って意味だったんですね?!なるほど、それでパーティの参加を勧められていたのか、僕は!」
よく分からない曲解を経て、兎田山は犬丸猫宮パーティに加わることにした。
自分はモブであると信じて――。