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第21話 狼が来たぞ!!!

 いつも通りに、スライムを狩って『魔核』を集めるとアルタ村に『転移石』で移動。

 村に荷物を卸したあと、村周辺のゴブリンを狩ってレベルあげが始まる。


「マジックバッグがあるってワクワクするのね!」

「あとで、おおとりさんに付与エンチャントしてもらって、『耐久』『防汚』あたりを付けてもらいましょうか。見た目というか、はっきりいってトートバッグなので」

「異世界ものって感動したけど、鹿下かのしたはマジックバッグ作れば作るだけレベルがあがるんだろ?そうすると、マジックバッグの容量ってあがるのか?」


 和やかな会話は、ゴブリンの集団と血なまぐい戦闘をしながら行われた。

 先頭は猫宮ねこみやが、盾を防御に使いながら剣で切れるだけ切って進む。

 血煙は、盾で防ぐとその血をぬるりと滑り落ちて、色が残らない。


 犬丸いぬまるは魔弾を連射して、猫宮の取りこぼしたゴブリンの急所を狙った。

 コントロールは全て意識次第なので、高い動体視力が要求されるが元々犬丸は護衛の訓練をうけている。


「『スキル』のレベルがあがれば、そうなるでしょうね。お二人の攻撃の『スキル』も、使用回数で威力があがります。武器は揃いましたし、魔力ポーションの在庫を考えながら撃ちましょう」


 兎田山うだやまは二人の取りこぼしを担っていたが、どちらも優秀で出番があまりない。


「スライム、ゴブリンときて次はなんだ?」

「スライム<ゴブリン<キラーラビット<ビックフロッグ<ブラックウルフ、ワイルドスパイダー<マーダーバード<カニバルボアって感じですかね。まだまだ上にオーガとかいますけど。ただ、僕もそこまで遠くには行ったことがないですが」

「えっ……ウルフ倒してたわよね?紫里ゆかりくん、凄いわ」

「いえいえ、ウルフといってもブラック以外は弱いので」


 草原と違って、ゴブリンのいる森は深くて草の根がある。

 かき分けるように進むと、ゴブリンの数は増してきた。

 一先ず集団をどうにかしないと、ゴブリンの『魔核』を取り出す暇がない。


「スパイダー系の糸は、我々放浪者ノーマッドの衣装やなんかに大人気ですからね、おおとりさんからも依頼が入ってます――そろそろゴブリンキングですね!ゴブリンナイトやゴブリンウィザードが出ますよ!推し様方気合いをいれましょう」

「はい!」

「任せろ!」


 もうすっかり、兎田山独特の言い回しには慣れてきた犬丸と猫宮。

 戦闘中だということもあるが、いい加減言われ慣れてきてしまっている。

 ゴブリンキングの姿を捉えた。一際大きく、醜い個体だ。


 先頭の猫宮が『スキル』を唱えようとした瞬間――ゴブリンキングの頭が破裂した。


「え?」

「はあ?!」


 どこからともなくブラックウルフが突進し、ゴブリンナイトの喉笛を食いちぎる。


水斬撃ウォータースラッシュ!」


 慌てて繰り出した兎田山の『スキル』は、火の玉を放とうとしたゴブリンウィザードの両腕をもぎ取ったが。


「審判のジャッジメントフレイム


 その声は、空から聞こえた。

 ゴブリンキング、ゴブリンナイト、ゴブリンウィザードが、瞬間、巨体が燃え上がる。


「何者……!」

「まだこんな所でレベル上げかい?犬丸」


 空中から降りてきて笑ったのは、生徒会長の四狼しろう春太はるたと、二人の連れだった。


「ああっ!推しの一人の四狼くんに、バレー部でエーススパイカーの空鷲そらわしリアムくん!それにその隣は生徒会書記の一年生、小鳥崎ことりざきくるみさん!」

「状況説明的な会話をありがとう、兎田山くん。やっと初心者村を卒業したらしいじゃないか――しかも、お揃いの服を着て犬丸とパーティとはね」

「僕だって辛かったんですよ、当初は……犬×狼推しから開眼して、今は犬×猫推しになりましたが、それはそれとしてどちらも最推しの最高のカップリングです!ですが四狼くん、横から攻撃してくるとはルール違反ですよ」


 ブラックウルフが、長身の空鷲リアムの側に駆け戻るのに、空気がヒヤリとする。

 だが、ブラックウルフは攻撃せずに空鷲の手を舐めた。


「テイマー?!」

「ふふーん、しかも一匹じゃないんだぜ」

 三頭のブラックウルフが空鷲の両サイドを固める。

 数に於いても断然負けていた。


「レベルが違いすぎます、広範囲攻撃にブラックウルフ三頭のテイマー……本来は先に攻撃していたパーティのものですが、譲って撤退します」


 兎田山の言葉に、猫宮と犬丸は頷く。

 学校で知る姿とは違い、この場の四狼からは危ない匂いがする。ここですんなり引くといって、通じるか怪しい雰囲気があった。


「小鳥崎くん、バフを」

「はい、四狼先輩!速度上昇スピードバフ攻撃上昇アタックバフ!」


 兎田山と似ているが、遥かに高級そうな杖を降っている小鳥崎が四狼にバフをかける。

 広範囲攻撃を操る四狼は、おそらく魔法使いの『ジョブ』を超えた『魔道士』だろう。


 そこに、後ろからモンスターで前衛を支えるテイマー。支援魔法使いのバフエンチャンター。最強の布陣だ。


「犬丸、君には前から目をつけていた。そこでお嬢様を守ってなどいないで、こちらの仲間になってもらいたい」

「あぁ??何言ってんだてめー」


 四狼の発言に、犬丸は顔をしかめた。犬丸において、猫宮の存在より優先すべきものは無い。


「ひっ!こんなとこで俺のものになれ発言?!尊すぎませんか?」

「紫里くん、少し黙った方がいいかもしれないわ」


 四狼がなにかを取り出し、犬丸の足元に投げる。

 ジャラリと重い音をさせたそれは、鎖で繋がれた首輪だった。


「隷属の首輪だ、それを嵌めて僕の仲間になれ」

「てめぇ!そんなもので人を操って楽しいのか?!そこまでして家の名誉が欲しいのか!」


「れ、隷属の首輪……?!緊縛ものですか?愛ある執着?監禁ものですか?ちょっとメリバのかほりが漂う、周りから見たら壮大なメランコリー、だが本人たちにはこの上ない幸せ……?!?」


 一人、空気を掻き乱して楽しい兎田山は、猫宮によって趣味を黙らされる。

 四狼と犬丸は、兎田山の口走ったセリフはなにも聞いてないかのように話を進めた。


「勿論、実感にコネクションは必要だが、僕にはエンドゲート攻略者として個人の名声が欲しいのさ。その為には君のような優秀な駒が必要なんだ」

「そこの二人も充分優秀だろ、なんで俺に固執する」

「こいつ馬鹿じゃん?パーティには強いやつが多い方がいいって当たり前なの知らないのかよ。シローくんが来いって言ってくれたんだから乗り換えろよな」

「そうです、四狼先輩は間違えなどしません!選ばれることは感謝すべきやがれです」


 優越感に満ちた小鳥崎の顔から、犬丸は強い嫌悪を感じた。

 兎田山は確かに変だが、必要なことを教えてくれて率先して、先のことを考えてくれる。


 猫宮は居て当たり前。犬丸の護衛対象であるし、義務とは別の信念で側に居たい。


「お前らの指示に従うつもりは無い。勝手にほざけ。二度と現れるんじゃねーぞ」


 四狼の笑みが、ゆっくりと剥がれていった。

 兎田山はひしひしとくる嫌な予感に、咄嗟に己のステータスを開ける。先程の攻撃でレベルが上がって、丁度レベル四十。新しく会得したいスキルが三候補あがっているのを、一瞬でセレクトする。


結界シールド!!」

「星の悲嘆スター・ラメント!」


 四狼の放った激しい土砂の攻撃は、兎田山のバリアシールドによって防がれた。

 犬丸たちは、閉ざされた空間の中で体を殴られるような土塊の音に聴覚を奪われる。


結界シールド結界シールド!」


 恐らく、四狼の『スキル』星の悲嘆スター・ラメントの修練レベルは高い。

 ゲットしたばかりの 兎田山の結界シールドがどこまで持つか。


 結界シールドの『スキル』自体は上級者向け、魔力コストがえぐい。

 マジックバッグから魔力ポーションを取り出した兎田山をみて、猫宮もすぐに魔力ポーションを取り出した。


 張った側から割られていく感覚――兎田山の体感は一時間ほど。途切れずに 結界シールドを放ち続ける。魔力ポーションはがぶ飲みで猫宮と犬丸からすぐさま開けた状態で渡された。


結界シールド結界シールド!」


 恐らくは三十回ほどの 結界シールドを展開させ終わったあたりで、四狼の星の悲嘆スター・ラメントが止まった。


「対人に向かって攻撃魔法を使うとは、四狼くんは僕の推しから外れそうですね」

「こんなやつ、委員会に言って出禁にさせよーぜ!」


 犬丸のセリフに、四狼は薄く笑う。

 兎田山は、汗に濡れた頭を振った。


「恐らく――委員会のまとめ役の一人が、四狼くんの父君、四狼しろう秋吾しゅうご議員――ですよね?」

「よく知っているね」


 空鷲と小鳥崎も、笑いを隠そうとしないあたり、正解なのだろう。

「握りつぶすのね……汚いわ」

「今度、映像記憶水晶を買いましょう。あってもダメかもしれませんが」

「兎田山くんに免じて、この場は去るとしよう。いい返事を待っているよ、犬丸」


 怒鳴り返そうとして、犬丸は黙った。今攻撃されれば、兎田山に更なる限界を求めてしまう。犬丸も猫宮も、現状ではあの三人に手出しは出来ない。


「じゃーなー、イヌマルクーン!あっち向いてホイ」

「四狼先輩の勧めに従いやがれです、先輩たち」


 四狼が、空中移動スカイムーブメントを唱えて、三人組はまた空を足場にする。

 犬丸は歯噛みした。するりと飛び去ったのが、まるで今の自分たちとの力量を見せつけられたようで悔しい。


「……ところで、あっち向いてホイってなんだったのかしら……」

「言葉の勢い的にはあばよ!とかおととい来やがれ!って感じでしたけどね……空鷲くん、ハーフですから」


 あんな変な人間たちに絡まれたのは自分のせいらしい。思わず言葉が滑りでた。


「小桜、兎田山……悪かった、俺のせいで」


 猫宮が両手を腰に当てる。兎田山もポーズを真似ていてウザイ。


「今怒るべきは、四狼くんでしょ!慧士けいしを駒呼ばわりの上に、私たちに攻撃してきたわ。紫里くんがいなきゃ、私たち生き埋めだったのよ。なんて人なの!」

「そうですよ!こんな無茶したのは、犬×狼カプを一旦捨てて、犬×猫カップリングを最優先しただけの当たり前のことですよ!モブの努力を褒めてください!」

「……ありがとな」


 兎田山から熱視線はきたが、先程助けられた手前、鬱陶しいとは言いかねた。


 結界シールドを連発して疲労した兎田山の采配で、犬丸たちは倒してきた集団のゴブリン、ゴブリンキングやゴブリンナイト、ゴブリンウィザードの焼死体の中から、『魔核』をとりだす。スライムの時と比べるとサイズが段違いである。


 ゴブリンキングからは、『魔石』も出た。兎田山によれば『魔石』としては一番下のレベルだそうだが、上位の魔物を討つと手に入るらしい。


 強い魔道具や、武器武具には必須のアイテムなので売り出してもいいし、手持ちで持っていても良い。


「一旦帰りましょう」

「いえ、僕は一休みすれば……」

「いや、帰るぞ」


 兎田山は眼鏡を拭いて、苦笑する。

 見栄はすっかり見抜かれていた。

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