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第22話 狼と鷲と小鳥の対策を

   猫宮ねこみやたち三人は、撤収して犬丸いぬまるの部屋に集まっていた。


「政府による辺境対策とはいえ、出前サービスも届かないエリアは世知辛いですねえ」


「バカをいえ。出前なんか取るか。俺はな、怒りのあまりこれからコロッケを揚げる」


慧士けいしのコロッケ美味しいのよねぇ。コーンクリームも作るのかしら?」

「缶だが、蟹もある」


  犬丸の怒りの発散方法が家庭的なことには誰も触れない。

兎田山うだやまも、購買パンのお昼を怒られて最近はお昼に犬丸印の弁当を持たされているのである。


  昼に夜に、弁当を作っていた負担では無いのか。聞いたが、それより貧弱な栄養価の低い食事される方がパーティとして怖いと言われた。


  犬丸がキッチンで――しっかり三口コンロ――でホワイトソース種を作っている間、兎田山はノンカフェインのお茶をいれる。


  猫宮もやりたがるのだが、いかんせん苦くなりすぎたり、謎の濁りが出来てしまう。犬丸がこっそり言うには、猫宮の数少ない短所であるらしい。


「まさか、四狼しろうくんが、あんな反逆の覇王みたいなキャラだとは……今まで見ていた爽やか☆かっこいい生徒会長のキャラは偽りだったんですね……」

「それはともかく、とりあえず四狼くん対策としてもレベルあげを急務にしましょう。為す術ないのは辛いわ」


鹿下かのしたさんに、『魔核』と引き換えに魔力ポーションを多めに譲ってくれるように頼みましょう。シュトルトさんから仕入れる魔力ポーションより、味よし効果高しでした。それで、結界シールドを乱用してお二人の『スキル』レベルと『ジョブ』レベルをあげましょう、その内にすぐレベル十になりますよ」


「どういうことだ?」


キッチンは居間に面しているので、犬丸は声だけのリモート参加だ。


「村で買う魔力ポーションは回復しても三分の一程度ですが、鹿下さんの魔力ポーションは四分の三も回復しました」

「そっちじゃねえよ、結界シールドを使ってってなんだ?」

「あぁ……それはですね、結界シールドの内側は『スキル』展開できるんです。結界シールド張りながら、水斬撃ウォータースラッシュを撃てたので。まあ前が見えなかったので当たりませんでしたが。なので、僕が結界シールドを展開しておふたりが安全なまま攻撃して突っ込んでいくスタイルといいますか。四狼くんのお陰で結界シールドもレベル二になりましたし」


  お茶を飲みながら猫宮は少し考えた。

「それって紫里くんにリスクはないの?」

「二つの『スキル』を使ってたのかよ、おまえ……あぁ四狼のやつも、空中から『スキル』使ってたな」


  キッチンからダンダンと叩く音が響く。匂いからして、通常のコロッケの種を自力でマッシュしている音だ。

  猫宮はバッグからこっそりと煎餅を取り出して、兎田山と分け合った。

  匂いの食テロに我慢が出来なくなったらしい。しぃ、と形のいい唇に指が添えられて、犬丸にはどうやら秘密のおやつのようだ。


「リスクはないですよ、いざとなれば複数展開で魔法を使うのは慣れてますから。初期の頃はよく鑑定アプレイズ回復ヒールをよく同時連発したもんです……ボリボリ」

「おいっ今の最後のボリボリ音はなんだ?!」

「気のせいよ、慧士……ボリボリ」

「そうか、ならいいんだ」


  兎田山は考えた。四狼しろう空鷲そらわしのレベルは、かなり高い。一体いつから潜っていたのだろう。

兎田山たちが通う私立ティーア学園は創立四年とまだ産まれたての学校だ。ほぼほぼ、ゲートの為に建てられた学校と言っていい。


「あの三人組――手馴れていたわね」

「こっちも三人組なんだ、あいつらなんてトリプルバカでいいぜ」

「うーん、元推しをバカ呼ばわりは……ユニット小馬鹿と馬鹿と元推しの生徒会長はどうでしょう?」

「長いわッッ!」


  じゅわっといい音が上がる。犬丸はコロッケを揚げ始めたようだ。


「僕は高一からエンドゲートに潜り始めましたが……そう言えば空鷲くんも試合だけにしか出ないとんでもエースって言われてましたねぇ。四狼くんと中等部の時から潜っていたかもしれません。不覚でした、四狼くんの男周りはよく見ていたはずなんですが」

「そもそも、あんなやつ居たっけ?」


「犬丸くんは、猫宮さん以外に興味無さすぎなんですよ。空鷲くんて、あの長者番付にもでてる人気芸能人さんの三代目だったはずですよ」

「資金は……あるわね。小鳥崎ことりざきさんもなにかしらの良家よね」


  弱点らしいところは何も思いつかない。

  経験値もレベルも『スキル』も上となると、次にエンカウントした場合の対策が思いつかなかった。


「おそらく、テイマーの空鷲くんが『索敵』あたりを持っていそうです。いえ、あれは魔物相手ですから、『探知』ですかね」

「私たちも取れればいいんだけど」

「機動力はあちらが上ですから。何か逃げられるアイテムを探しにいきましょうか」

「辛気臭せぇな、とりあえずこれを食え。悩むのは明日だ!」


  キッチンから出てきたエプロン姿の犬丸が、皿を並べた。

  形の違うコロッケが二種、間に千切りキャベツと茹でたブロッコリーとプチトマトを挟んでもう一種。


「コロッケ、コーンクリームコロッケ、カニクリームコロッケだ!」

「夜中に冒涜的だけど、食べるわ。絶対おいしいから!」

「悔しいが、ホワイトソース種を一時間寝かせるのを省いたからいつもよりまずいかもしれねえ」


  犬丸はソースや醤油を並べてくれたが、兎田山はソースなしで素材の味を楽しむ派だ。

  頂きますをして、揚げたてのコロッケを口に運ぶ。


「おいしいです!衣はサクサクと黄金色で、中身はずっしり。コロッケのほどよい甘みとひき肉の旨み、コラボレーションされた味は遥か高みに達する途中、ほどよい塩コショウで味が引き締まる……!至高のコロッケです!」

「長ぇよ、食レポ。そのわりに中身もねえし」

「中身はコロッケにたくさん詰まってるからいいんです!所詮僕のボキャブラリーでは称えるのに限界があるんです」


  ハフハフと熱そうにしながらも、猫宮もコーンクリームコロッケを頬張っている。

  口の中を冷やそうとキャベツに箸を伸ばした猫宮に、犬丸は当たり前のようにブロッコリーにかけるゴマドレッシングを渡した。


  以心伝心。そんな推し二人を見て、兎田山はコロッケを食べながらこっそりニヤついたのだった。


「兎田山、まだおかわりあるぞ?」

そういえば、ここ数日は犬丸から「おいメガネ!」と呼ばれていない。


(ただの壁モブだったのに、贅沢なモブになってしまったなぁ)


  悩むのをやめて、兎田山は推しの手作りコロッケをおかわりすることにした。

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