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第25話 狼よけ②

 ゲートの前はそこそこ混みあっていた。魔物がまた近づいてきたという警報によって、放浪者ノーマッドたちのゲートに潜る《ダイブ》する時間帯がバラけてきている。


四狼しろうたちの情報を聞きに、ひっそりとおおとりの店に訊ねたが四狼家の権力は分厚く、何も教えては貰えなかった。


幸い、土曜日の本日授業は午前中だけだったので、ゲートの中に泊まり込みする資材は買いに行けた。 マジックバッグ様様で、荷物は準備万端である。


雷鳴刃サンダーアタック!」


猫宮ねこみやはスライムを一箇所に集めて『スキル』を放つ。

魔法でオーバーキルされたスライムの山を、魔力ポーションを飲みながら兎田山うだやまと二手になって『魔核』を削ぐ。


犬丸は遠距離射撃をすると素材回収が手間なので、至近距離から魔弾を打ち込んでは、同じく『魔核』を集めた。


一旦大量に『魔核』を集めて、鹿下かのしたから魔力ポーションをたくさん買いあさるのだ。


勿論、日本円がないわけではないのだが俄然レベル上げとなると攻撃が一番効率が良い。魔力ポーションを全員がぶ飲みするには少しはお金のコストを下げる予定だった。


[ウダヤマー!イヌマルー!]

[コザクラー!]

「あれっエンテさんとシーニュさんの声が」


目の前には誰もいないが、声は遠くから近づいている。


「間違いなくシーニュの声よ」


スライムのネバネバから手を離して、猫宮が目を凝らす。その手前に突然、二人の少女が姿を現した。


「きゃっ!どうしたの?」


ここは、まだゲートに近い。瞬足スピードアクセルの『スキル』を持った二人でも、なかなかの距離だ。


[村にイヌマルの顔がのったすまほを持ったやつらがさっき訪ねてきた。なにかあったのか?]

「犬丸くんの写真が入ったスマホを見せた??――それはもしや四狼しろうくんがアルタ村にきたようです!」

[その人たちは三人組でしたか?]

[男二人、女一人だった。一人はくしゃみを撒き散らしていた]


兎田山は、体育館から出てきた空鷲そらわしが、くしゃみをしていたことを思い出す。

花粉症かと思っていたが、異世界に花粉はないので風邪かもしれない。


「確定です、四狼くんたちが村に捜索にきたようです」

「くそっ!あいつら何がしてーんだボケが!!」

「とすると、荷物もお弁当も渡せないわね……」


ツインテールのシーニュが、心配そうに猫宮の手を握った。


[村でなにか悪さをしたりしましたか?]

[ウダヤマのように喋れないから、イヌマルの写真と金貨を交互に見せてきた。匿っていないかの確認だったようだ。アルタ村はいまウダヤマたちのお陰で儲かっていて、イヌマルのべんとうは大人気だ。コザクラにはシーニュが懐いている。誰も相手にしなかった]


兎田山の肩から緊張が解れる。

そこまでするとは思いたくないが、村人を攻撃されたりしたら申し訳がない。

そんな事態にならなくて本当に安心した。


[いざとなったら、居場所教えて我が身を大事にしてください……ええとあの人たちは知り合いではあるので]

[でも、あの人たち感じ悪い。コザクラ、近づけたくない]


シーニュの表情は固い。四狼たちの態度が、それで知れる。

エンテが、淡い黄色の魔石が付いたブレスレットを三つ、兎田山に手渡す。


兎田山が即座に鑑定アプレイズすると、このブレスレットには隠密の『スキル』が付いていた。


[村の秘宝だ、これを使え。あの軽薄で悪そうなやつらに捕まるな]

[秘宝――?!そんなもの借りるわけには!]


エンテは、微妙な顔になる。


[秘宝といっても、何代か前の村長の手作りでな、あと五個以上あるから……あの、あんまり凄いものでは無いんだ、だから、まあ……遠慮するな]

[あっなるほど……?本当に遠慮しなくていいんです?]

[音も多少は隠してくれるが、しゃべればバレる。あんまり完璧な代物じゃないが、使ってくれ]


兎田山は、ソワソワしていた犬丸たちに事情を説明した。

犬丸と猫宮の二人から感謝と握手――兎田山は羨ましそうにそれを見つめていた――をして、エンテとシーニュの表情は晴れた。


四狼たちが来て、おそらく村の一部ですぐに話し合いを行ってここまで潜んできてくれたのだ。


歯がゆい気持ちで魔物の出る平原の中、当てどもなく三人を待っていてくれるその気持ちが有難い。

ああでもないと四狼たちトリオの措置に困っていたのが、これで解決された。


[あとで、こっそりこれで姿を隠して、いつもの荷を卸しにいきますからね。今日は中華だしにめんつゆに、カレールーもたくさん持ってきていますからね]


[カレーか!あれはいいな!シュトルトも高値で売れると喜んでいたし、なによりアルタ村では塩味のスープにうんざりしていたからな、色んなスープができるようになって有難いぞ!]


[約束してね、コザクラ。こっそり来てね]


マジックバッグを手に入れる前に、実は幾つか持ち込んでいたのだが大人気。

今回はマジックバッグにしこたま入れてきたので――しかも兎田山はマジックバッグ二個持ち――村にも行き渡るはずだ。


エンテとシーニュは、スライムを蹴り殺しながら平原の向こうに走っていく。

瞬足スピードアクセルの『スキル』で、その姿はあっという間に遠くなった。


その背中に、猫宮は深々と頭を下げる。

紫里ゆかりくんが羨ましいわ……私も異世界語を話したい」


ぽつりと、猫宮が呟く。

「えっでも猫宮さんは僕みたいな半端職ではないですし、前衛の『スキル』をもっと取得するべきでは」

「レベル十ごとに得られる『スキル』は選択制で、三つのうちどれか一つを選べるのよね?選択肢に出るか分からないけれど、あったら取りたいわ」


「小桜が決めたことなら、俺もそれでいい。代わりに俺がもっと戦闘系とってくからな」


それに、と猫宮は兎田山に向き直った。

頬が少し紅潮していて、その美貌はなぜだか怒っているようにも見える。


「紫里くんの『ジョブ』は半端なんかじゃないわ。こんなに助けられてるんだもの、そんな言い方は悲しいわ」

「推しに心配かけてはいけませんね!!!モブにふさわしい『ジョブ』だと誇ります!!」


そんな兎田山をみて、困ったように猫宮は笑った。

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