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第30話 お金で解決できますか?①

  汗だくでカナヤ村にたどり着いた三人から、冷たい視線を受けるのは商人シュトルト。

 兎田山うだやまたちが到着するまで、声援をしてくれたはいいが、それで余計にキラーラビットをおびき寄せて村に入りにくくさせた張本人だ。


「シュトルトてめぇ、いい度胸してるじゃねーか」

「経験値と言い張るには、最後は少し数が多すぎじゃないかしら?」

「す、すみませーん、皆さんをお見かけしてつい、嬉しくって、てへぺろ」

「テヘペロを伝授した身が言うのもなんですが、その発言はモブが使うと怒りを買うんですよ」


  シュトルトは翻訳『スキル』を持つ商人で、犬丸いぬまる猫宮ねこみやが唯一話せる異世界人である。

 アルタ村でも売り買いに世話になっているが、このタイミングでカナヤ村に居るとは思わなかった。

 だが、それを可能にするのはシュトルトの『スキル』、瞬間移動テレポートだ。


 戦争中は食料や物資の調達で活躍し、頬の傷はその時出来たらしい。

 三十代のふくよか系で、いつも小綺麗な格好をしている。


「イヌマルさん、まだお弁当はありますか?」

「すまん、明日の分の俺たちの弁当しかねぇよ」


 マジックバッグの中では時間経過がしない。

 それをいい事に犬丸はたくさん作りすぎてるのだが、アルタ村に隠密ブレスレットのお礼として大半を置いてきた。


「そうですか……残念です。ご馳走食べたかったですな〜」

「アルタ村に移動しても、お前の好きなグラタンは入ってねえぞ」

「犬丸くん、ここでカレーを作ってみましょうか?カレーくらいなら僕もなんとか」

「私は作るのは不参加にしておくわ。食べることより、シャワーを浴びたい気分。凄い汗よ」


 猫宮も、食事を手伝うと言うたびに犬丸が動揺するので自分の料理レベルをなんとなく察していたようだ。


「カレーを作ってもらえるんですか?!それなら、材料は私が出しますよ〜。ネコミヤさんには、ゴエモンブロをお貸ししましょうか?」

「五右衛門風呂?!そこにはオートロックと目隠しと衝立とカーテンが存在するんだよな?!」


「犬丸くん久しぶりのジェラシーモード復活!どう考えても異世界にオートロックは無理でしょうね。持ってきたテントの上に何か覆いをかけるしか」


 シュトルトは自分と一緒に移動させた荷馬車から野菜を取り出しながら、他の村で異世界人が背負っていた五右衛門風呂を買い取った話をした。

 村の女性は猫宮が入浴すると聞いて、服を干した竿を運んできてくれる。


「とりあえず、野菜と肉でスープを作ればいいんですよねぇ?」

「あぁ、野菜は任せる。まだ俺にはどれが何味かわかんねえ」


 兎田山はとりあえずテントを立てにいき、シュトルトが五右衛門風呂を転がしながら移動させた。

 杖から水を出してドラム缶を満たすと、兎田山は後を村の女性たちに任せる。


「肉と言えば、これがありますよ」


 兎田山はアイテムボックスから、ビッグラビットを一体取り出した。

 その巨体を見慣れているだろうに、カナヤ村全体が沸く。


[良かったら、余ったお肉は皆さんで食べてください……あっ『魔核』を忘れてました]

「犬丸くん、猫宮さん、キラーラビットの『魔核』取りがありますよ!」

「げぇっ忘れてた……」

「お風呂に入ったあとでなくて良かったわ」


 カレーは小さな鍋で足りるはずがないので、犬丸が万が一の備えで持ってきていた寸胴鍋と、村中でかき集めた大きい鍋を並べていた。が、『魔核』の取り出しとあって、村の子供たちが野菜を切る手伝いを申し出る。


 一旦カレー作りはそちらに任せ、兎田山は残りのビッグラビットを。犬丸たちはキラーラビットを取り出しては『魔核』を抜きはじめた。


「ウダヤマさん、そういえば皆さんにと仕入れてきたものがあるんですよ。ラーニングスクロールを何種類か、王都から買い付けてきました」

「ラーニングスクロール……ですか?それはどんなものです?」

「それが『ジョブ』で取得できない『スキル』を、魔術師が作ったマジックスクロールで覚えられるのですよ〜」

「なに?!シュトルトよくやった!」


 ツルハシで『魔核』を削いでいた犬丸の顔が輝く。

 明らかに犬丸のが年下なのだが、犬丸の料理の高さを最初『スキル』だと思うくらいのシュトルトは、犬丸弁当を食べて以来自分を呼び捨てにしてくれと言っていたので、これは公認だ。


 兎田山としては、推しが推されているのは大歓迎なので、シュトルトを犬丸ファンとして扱っている。


「買ってきたのは、鑑定アプレイズ翻訳トランスレーション剣術ソードプレイ体術コンスティートゥート瞬足スピードアクセル飛行フライで――」

翻訳トランスレーション?!瞬足スピードアクセルはシーニュたちと同じものよね?!」


 猫宮が食い気味に食いついた。

 兎田山的には飛行フライが気になるところだ。


「そうです。買ってくれますか?ラーニングスクロールで、私すってんてんになりました」

「勿論よ!あるだけ支払うわ!」

「こんな便利な技術があるとは知りませんでした。あまり、知られてませんよね?」


 シュトルトは、不思議な笑みを浮かべる。

 その笑いには、凄みがあった。


「異世界人の方、王都にはあまり興味ありません。魔物がいませんから当たり前です。それに、こちらのお金を稼ぐ人はとても少ないです。異世界人の方、自分たちで解決して冒険者と協力しません」


 シュトルトは兎田山の手をとって握手する。


「ウダヤマさんは、冒険者と協力してました。村に荷物を預けて賃料を払って、『魔核』を売ってくれました。アルタ村は日々潤っています。イヌマルさんは、村人に料理を振る舞ったりお弁当を売ってくれました。聞けばソースの使い方も教えてくれます。ネコミヤさんは魔物に追われたエンテたちを助けてくれました。囮役を怖がっていたシーニュに優しくしてくれて、励ましてくれました。アルタ村出身の私が出来るサポートは、全部したいと思ったんです」


 ね?とシュトルトは笑った。


「親切にしたいと思うのは当たり前です。凄く簡単でしょう?」

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