時刻は夕方になっていた。
昼前にエンドゲートを潜り、かなりぶっ通しで戦っている。
ラビット系の魔物のエリアに入る前に、とひと休憩いれることにした。早めの夕飯だ。
レジャーシートを敷いて
犬丸としては、
「今日はいなり寿司弁当な。葉わさびと大葉が入ったやつと、梅とひじきとごまが入ってるやつと、鶏肉としそが入ってるやつ。横に入ってる唐揚げは塩味と醤油味な。レモンは使い捨て容器に入ってっから」
「ミラクルスーパースパダリハイパーきゅんきゅんの巻」
「うるせえ、最近のお前の言語はどんどん未知の世界に行くじゃねーか、月に着陸する前に地球に会話を到着させろッッ!」
犬丸のつっこみも切れ味が増しているのだが、ただ切れているより知っているからこそのつっこみになりつつある。
大量のゴブリンから『魔核』を取ったので、ウエットティッシュでは間に合わず、兎田山の杖から水を出して手洗い済だ。
兎田山が、マジックバッグからペットボトルの緑茶を出した。
「美味しいわ……」
「いなり寿司の中で、味が世界と調和する……!葉わさびは適度な辛み、そこに連れ添う大葉……!推しメンによって作られし魂の癒し……!」
「食レポをしないとお前は死ぬのか?」
猫宮は黙々と食べることに集中していて、頬にはごはん粒がついている。
それを犬丸が手を伸ばして、ペロリと食べた。
「シチュ最高か……」
二人の邪魔にならないように、兎田山は小声で呟く。
分かっているのだ、猫宮が一番消耗していることを。
自分は
割れる前に張り直すくらいで、魔法も遠距離。
犬丸は一番体格に恵まれていて、元から鍛えられている。魔銃も、弾丸は魔力とはいえ魔力ポーションで事足りた。
剣を振り下ろし、薙り、突き刺す。猫宮の動きが一番無茶をしていた。『スキル』を使えば魔力も枯渇する。軽量化されてるとはいえ剣を握り立ての女子が長時間それで攻撃するのだ。疲労が溜まって当たり前。
「私いま、とても楽しいの」
「楽しい……?」
「頑張って、レベルがあがって、その途中に『スキル』もあがって、それは全て無駄じゃなくて、この世界も私たちの世界も助けになる。弱くても嘆くだけじゃなくて、努力すれば自分が認める自分が産まれるのよ。これって凄いことなの」
猫宮の瞳は、嬉しそうに光っている。彼女には疲労は敵ではないのだ。
犬丸は深呼吸する。今猫宮が欲しい言葉は「俺がもっと頑張るから」ではない。
「一緒に頑張ろうな」
「ええ!」
見た事もない、爽快で朗らかな笑顔を向けられて、犬丸は少し呆けた。
――自分があらゆることから守ればいいと思ってた。
だが、当人は『一緒に』頑張ることを望んでいる。
それはもっと、ずっと前からだったのかもしれない。