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第32話 襲撃

 ビッグラビットとキラーラビットの肉は、シュトルトが王都と、その途中の街や村で売りに出かけた。

 勿論、『スキル』瞬間移動テレポートのお陰だ。


 ラビットゾーンのあとは、フロッグゾーン。毒持ちの魔物が増えるので、シュトルトはアルタ村に卸された荷物を含めて換金しつつ対毒アイテムを買いに行くという。


 兎田山うだやまが提供したビッグラビットは、表面を焼いたあとしっかり煮込んだために、柔らかくなってカナヤ村では大好評だった。


 ただ、シュトルトのアイテムボックスでもビッグラビットは二体が限界。残り一体は荷馬車に乗せて出かけている。


「カレールーは偉大ですねえ。ホワイトシチューの元も持ってきましょうか」

「……シチューにルーがあるのか?」


 猫宮ねこみやは念願の翻訳トランスレーションを得て、村の中をあちこち散策しては話しかけていた。

 村の女性を中心に猫宮を取り巻いているので、お腹のふくれた犬丸いぬまると兎田山は留守番である。

 年配と子供の集団は、あまったビッグラビットの肉を燻製にしたりと忙しい。


「それがあるんですよ!ハヤシライスとか他にもルーがあるんですよ!」

「マジか……便利じゃねーか」


 少し前、入浴中の猫宮にテントから呼ばれて、出てきたあと赤面して戻ってきた犬丸の顔は、見た方が恥ずか死ぬレベルだったので、見てはいけないものとして脳内処理をした。推しの過剰摂取は危険である。


 犬丸もお湯を浴びて、こざっぱりしていた。兎田山は推しの出汁が出ているお風呂はモブの身に余ると言って、冷水で洗ったあとホットココアを飲んでいる。


 これも犬丸が支度したものだ。シュトルトにひと袋あげ、残りは村人に渡してある。

 カナヤ村でも、闘えるものは冒険者として出かけてしまい、村人の多くが村から出られないという。


「不思議なもんだな……」


 子供たちと畑で何事か話し込む猫宮を視線で捉えつつ、犬丸が呟いた。


「異世界とゲートで繋がらなきゃ、小桜こざくらの一面を知らないままだった……お前とも、こうして話すこともなかったろうな」


「推しメンからのしんみりしたムード……ですが内容が完全にフラグに」


「誰が死亡フラグだッッ!」


 兎田山は突っ込まれつつ、自分でも現状に驚いている。

 推しとは見て愛でるもの。関わるものでは無いと思っていたのに、こんな近距離でくつろぐ推しと何気ない会話をしている今。


 もう一人の推しである猫宮を含めて、一緒に食事をしたり戦闘したり、過ごす密度が物凄く濃くなっているのに、不思議と居心地は良かった。


「犬丸くんの口から死亡フラグと出るとは……さてはラノベ勉強されてますね?」

「最近はネオページ読んでんだぜ」

「ほお、それは――」


「審判のジャッジメントフレイム!」


 村の入口が、あかあかと燃える。

 ――まさか。


 隠密ブレスレットは発動していた。それなのに。


「犬丸、ここにいるのは分かっているんだ。早く出てこないとこの村は焼け野原になるよ」


 テイマーの空鷲そらわし、バフ使い小鳥崎ことりざきを連れた四狼しろうの姿が、炎で影を踊らせて不吉に佇んでいた。

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