「ではどこから話そうか。なんか一緒に語ってくれる人がいると嬉しいな」
怜音は一言そういうと、魔法を使い始める。氷のツタ。それは体育館内に張り巡らされて、装飾になった。
瞬間体育館はものすごく冷え込む。周囲の人はみんな身体を震わせ寒そうにしていた。その後も、氷の像を作ったりやりたい放題。
僕はそんな彼を見つめる。ものすごく陽気な表情を見ると、通っている大学が楽しいのだろう。自分もそんな彼を見ると元気が出る。
「優人。あの大学生の事ばかり見てるけど、どうしたの?」
「え。ああ。彼はバイト先の後輩だよ」
「後輩!? いくつ離れてるの?」
「3つだったかな? 彼の方が僕より誕生日早いから」
近くに立つ梨央の質問に答える。すると、その声が大きかったのか、氷のツルが僕の方へ飛んできた。
ツルは太くしっかりしていて、うねうねしているのはまるで生きているようだ。その勢いはとても鋭く速い。
「じゃあ、君にしようか。ちょっとボクに付き合ってくれる?」
ツルは僕の身体を絡め取り、そのまま怜音の方へ移動する。着地の仕方は雑だったが、バイト先でもやってる事だ。もう既に慣れている。
「って、優人くんじゃん! 君ここの学校だったんだね」
「ま、まあ……」
「じゃあ本題行こうか」
切り替えが早すぎる。それに付いていこうとするが、どうしても同じ位置につけない。魔法も能力も、彼の方が明らかに上だ。
「あ、その前に忘れてた。優人くん。君、得意属性は水だよね?」
「そ、そうですけど……」
「今ここ空気が悪いから、ちょっと空気中に水の球作れる?」
「わ。わかりました」
僕は言われた通りに魔法を使い、空気中の水分をかき集めて水の球を作る。怜音が氷の装飾をしてくれたことで、かなりの数を生成できた。
その間、怜音から発せれる冷気。氷よりも冷たい風で、水の球が凍っていく。指を鳴らすと体育館内に大きな音が響き渡る。気づけば僕が作った球は全部消えていた。
「これでよし。ってここまで魔法を使ってきたけど。どうやらまた君たちの力が必要になりそうなんだ」
「僕たちの……ちから……?」
「そう。みんな、7年前に起きた事件。覚えてるかな?」
怜音は氷で作った椅子に座ると、今度は氷でできた机を用意する。机に肩肘を付いて頬を押さえ、ニヤリと笑った。
ステージの下に立つ生徒全員がザワザワし始める。僕も7年前の事件を思い出そうとしたが、トラウマの方が勝ってしまった。
焼けこげた家。崩れた学校。放浪する魔物。血の臭い。地面に散らばる変死体。孤児院にいた時の思い出だけが平和だった。
「うん。みんな思い出したようだね。そう、7年前に起きた第一次魔生物暴走事件。あの時ボクは12歳だった。もちろん戦場には出たよ」
「怜音も戦場に?」
「うん。まあ、まだ小学生だったから戦力になったかはわからないけどね。でも、たしかこの学校にボクの相棒がいるはず」
「相棒――」
すると、また舞台袖から気配を感じた。今度は灼熱のような熱気。これは誰だ……?
「
「え!? 星咲先輩!?」
僕は思わず声を上げてしまった。星咲先輩は身長もめちゃくちゃ高いし、細いし成績優秀。魔法のレベルも超一流で、小学生の時点で大人顔負けの能力者。
「ファイアバースト――」
低く落ち着いた声が響く。火球が宙を舞い、打ち上がる花火。そして龍の背中に乗って星咲先輩はやってきた。室内なのに演出が豪華すぎる。
「ボクの相棒の斬くん。彼は当時異才と言われていてね」
「嘘言うんじゃねぇよ……。オレはオレがやりたいようにやっただけだ」
「もーもー」
「ふざけんじゃねぇよ、この氷像が!」
「はーい。ボクは氷像でーす……」
この短いネタに、生徒全員がシラケる。もちろん僕もそっち側だ。怜音の変わった一面を見れたのは嬉しいが、ちょっと複雑な気持ちになる。
「でーでー。本当の本題はー」
「その口調やめやがれ。かなり重要なことなんだぞ?」
「でも、硬っ苦しいとみんな怖がっちゃうよー」
「それでもだ!」
喧嘩を始める怜音と星咲先輩。僕が口出しする場面ではないのはわかるが、我慢していられなかった。
「怜音。星咲先輩。喧嘩しないでください」
「あぁん? オマエは黙ってろ!」
「そ、それは……」
「部外者は黙ってろつってんだ。こっちは用事があってきてんだよ。普通ならオマエはステージに上がる立場じゃない。さっさと降りやがれ!」
怒号を浴びせられ、僕はステージから降りる。かなりダメージが入ったが、これくらいは大丈夫だ。
「んで、重大発表がある。オマエらはこの世界にある魔法がどのように生まれてたか知ってるか?」
「斬くんそこから?」
「そこからに決まってんだろ!」
さっきから喧嘩ばかり。こんな2人がバディだったことが考えられない。だけど、2人とも言い合った直後は全力で笑っている。
もしかしたら、このやり取りが楽しいのかもしれなかった。それならそれで問題ないのだろう。
「優人。あの2人大丈夫なの?」
「た、多分大丈夫だと思う」
「それならいいんだけど……」
直後、体育館の中心から怜音が立つ右側が水色に、斬が立つ左側が真っ赤に染まった。
「氷像。そろそろ言わないと、授業時間が終わる」
「そうだねー。じゃあ斬くんが言ってよ」
「は? オレが?」
「うん」
「んにゃ……わーったよ! みんなに伝えたいこと、それは」
生徒全員が背筋を伸ばし、僕の背中に冷や汗が流れる。なんか嫌な予感がする。体育館外からの気配。これを感じてるのは僕だけ?
「本日より、戦闘員育成プログラムをこの学校で取り入れることになった。理由はまた、7年前と同様なことが起ころうとしている。まだいつ決壊するかは不明だが、先手を打つにはちょうどいい」
「って事で。もう一人紹介したい人がいるよー。
怜音が名前を呼ぶと『はーい!』という明るい声が聞こえてきた。やってきたのは、ものすごく小柄な少女。遠目で見ても150センチ以下かもしれない。
「皆さん初めまして、怜音君と同じ大学に通っている。
言ってることが可愛いすぎる。一目惚れしてしまいそうなビジュアルに、脳が混乱した。こんな少女がバイト先にいればいいのに……。
「んじゃさっさと始めるぞ! まずは魔力測定からだ! 男はオレか怜音。女子生徒は夢乃を通して独自に測定をする」
「測定項目はたったの4つ。〝魔法適正・魔力量・最大魔力量・戦闘適性〟だけ! やり方もものすごーく簡単だし、もちろん忖度ゼロ!」
「それじゃあ、女子生徒はわたしのところに並んで! あ、斬君と怜音君みたいに喧嘩はNGだよ♪」
魔力測定か……。僕にはいい思い出がない。いくら優等生組に配属されても、僕のは派手さと攻撃力が存在しない。
魔力量も上がってるかは不明だ。それでもこれは全員参加。僕も列に並ぶ。担当は怜音だった。彼と手を繋ぐ。結果はたったそれだけでわかるらしい。そうして、ついに番がきた。
「優人くん。そういえば、孤児院で測定した時正確な結果が出なかったって聞いたけど。それはほんと?」
「は、はい……。当時計測担当だった人が、キッパリと測定不能って言ってました」
「測定不能かー。ちょっと楽しみかな? じゃ、ボクの両手と繋いで」
「わかりました」
怜音の手に触れる。彼の手はかなり冷たかった。まるで氷に触れているみたいに。そして、身体に魔力がなだれ込んでくる。
こんな魔力感じたことがない。いつの間にか怜音の両手から湯気が出ていた。身体がとてつもなく熱い。
「君の魔力……すごい……」
「え?」
「ちょっと斬くん! 君も優人くんの魔力測定お願い!」
なんで僕が……星咲先輩と? 疑問に思ったが、再び計測をすることになる。先輩の手はものすごく熱い。やけどしそうなくらい熱い。
同じように魔力が流れる。先輩の場合は30秒程で終わった。
「これは……。オレにもわからねぇな。こんな魔力量聞いたことねぇよ。お前は
「え?」
「ん? なんか不満か? 不満があるなら言ってみろ。愚痴でも反論でもなんでも聞いてやる」
自分の魔力が他とは違う。そちらの方に気が取られ、2人の意見を受け入れづらい。だけど、僕の魔法はただ単に空気中の水分を液体の水に変えるくらい。
大波を起こすことも出来ないし。水鉄砲を作ることもできない、ただのしょぼい魔法だけ。それの何が特殊なのか理解できなかった。
「反論ないならそこをどけ。ここの全校生徒は約400人。今日中に全員の測定を終わらせないといけねぇんだ」
「わ、わかりました……。じゃあ、僕は最上位クラスという事で……」
「それでいい。さっさと後ろに下がれ!」
あんな怒り口調の星咲先輩はやっぱり怖い。そして、僕は正式に最上位クラスで魔法の訓練をすることになった。
とても残念なことだが、梨央は僕の一つ下のクラスに配属され、一緒には受けないことに……。僕よりもすごい彼女が、僕より下だなんてありえない。
何度も星咲先輩や怜音に抗議したが、結果は変わらなかった。僕と同じグループに入ったのは、合計でたったの4人。
僕とコミュ障が酷い
男女割合では、男子は僕と飛鷹。女子が永井と神代で、ちょうど2対2だ。この4人で担当はまたもや怜音だった。
「あ、あの……」
飛鷹が小さく手を挙げて質問したそうな顔をする。だけど、それ以降言葉が切れて、続かない。僕も質問したいことはあるが、それよりこれで良かったのかがわからない。
「なに? 飛鷹くん?」
「え、えーと……。その……、なに言いたいか……、わ、忘れ……ました……」
「わかった。じゃあ先にそれぞれ得意属性のすり合わせから始めようか。君たちが使う教室に移動するよ!」
怜音の指示で、僕たちは歩き出す。向かった先は図書室だった。ここは約8000冊ほど置いてあって、学生じゃなくても借りられる。
一つのテーブルに座り、まるで会議室のような雰囲気。こういうのは初めてだ。最初に始まったのは、一番手を決めることだった。
そこで挙手したのは、永井。学生なのに両手の爪が異様に長く鋭い。そして、大量に装飾してあって、ガチなギャルということがわかった。
「永井
かなり緩めのスタートで、他メンバーはシラケていた。まあ、彼女のギャル感がより酷くならないことを願うしかない。
次に手を挙げたのは神代だった。彼女は発言前にメガネをくいっと上げた。それだけで、すごいことが起こるだろうと、僕は唾を飲み込む。
「名前は神代
「え、えー……。む、無理……。自分は……さ、最後が……い、いいです……」
「あらそう? では、
「わ、わかりました……」
神代に指名され、僕はどう自己紹介するか考える。そもそも僕にはいい所が一つもない。そんな自分は場違いだとずっと思い込んでいるくらいだ。
偶然隣に座っていた怜音が背中を叩く。それは非常力強く、一瞬で背筋が伸びた。
「見世瀬優人16歳。学年は2年。まだ誕生日は来てないです。得意属性は水。だけど、僕ができるレパートリーは空気中の水分を液体に変えるくらいで、それ以上のことは一切できません……。とても場違いな人だと思いますが……どうかよろしくお願いします……!」
するとどこからかパチパチという音がした。手を叩いていたのは怜音。僕の顔を見てニカニカと笑っている。しかし、これに神代が反論した。
「たしかに貴方は場違いに違いないわね……。先生、この子を外に出してくれる?」
「神代さん。残念だけど、それはできないよ」
「それはどういう意味かしら?」
神代の質問に怜音は深呼吸してから……。
「ボクたちは正当な測定をした。その中でも、優人くん。いや、見世瀬くんの魔力は異常だった。ボクたちの魔力をプラスしても……。ううん。これは実際にやってもらった方が早いね」
「ふーん。本当に問題ないのよね?」
「もちろんさ」
怜音のその発言を無理やり納得させるかのように、神代は頷く。だけど、いずれは引っ張り出されるのだろう。そう感じた。
「では、飛鷹くん。ラストよろしく」
「は、はい……。飛鷹
「ふふ。無理しなくていいよ。彼の得意属性は雷。ジョブはシューターだね」
「あ、ありがとう……ご、ございます……」
「いいよいいよ。さ、早速始めようか。みんな準備と覚悟はいい?」
――「『はい!』」――